宗田花 小説の世界
九十九と八九百と十八
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「うわぁああっ‼‼」
突然闇の中に出てきた人影。いや、闇ってことは無いんだけど。運転してる最中だから当然ライトは点いてるわけで。点いてないとポリ公……元い、お巡りさんにこってり絞られるだけじゃない、反則金が6,000円。点数がなけなしの状態からさらに1点も取られてしまう。
だから当然点いてたんだけど、何せ夜中の2時20分。まさか周りが原っぱの建物がほとんど無いこんな寂しいところで人が出てくるなんて思わないだろ?
ただそうなると別の意味ですごいことになっちまう……元い、なっちゃうんだよね。怪我でもさせようものならそのケガの程度でどんどん点数が取られるからあっという間に免許証とさよならだ。
俺は……元い、僕は四月一日(わたぬき)九十九(つくも)。いや、決してふざけちゃいない。ふざけてるとすれば僕の親だ。人の名前を何だと思ってんだ、このヤロー‼‼‼ ……って怒鳴ったのはもうずいぶん昔のこと。今の僕は何せ品行方正なんで、怒ったり怒鳴ったり荒っぽいことしたり汚い言葉を吐いたりはしない。
年? 花の26歳、売り出し中! 可愛いお相手を探し中……見つかんねぇ。いや、見つけていない。
けど、今日の出会いの相手はこの飛び出し男だ。とにかく急いで外に出る。
「馬鹿野郎っ! どこ見て歩いてんだよっ!」
ちょっと丁寧に言ってみる。そこにいるのは蹲った男性。
「あの、ちょっと、まさかどっか怪我した? 当たった感じ無かったんだけど」
最早免許証は風前の灯……
「なんか言ってくれよ、どっか打った? おい、返事しろって!」
「ふぎゃぁ んぎゃぁ ほぎゃぁ」
いや、痛くたってその泣き方は違うだろっ! って、よく見ると何かを抱いている……うそ、まさか赤ちゃんを俺はやっちまった?
「な、とにかく顔見せて。いやだけどポリ呼ぶし。救急車呼ぶし」
男がゆっくり顔を上げる。
(すっげ、いい男!)
そんな場合じゃなかった。男の焦点が合っていないような気がする。
「すみません……ここ、どこですか?」
おい、迷子かよ……
「ここは○○市の○○町。だと思う。うん、確か。どっから来たの?」
「分かんないです」
「分かんないって……家に帰るとこ? こんな夜中に赤ちゃん風邪引くよ?」
「家……? どこにあるんだろう」
「知らねぇよ! っと、ごめん、赤ちゃん」
絶え間なく泣き声を上げている赤ちゃんが一際大声になる。ここは吹きっ晒しだから、10月終わりで包むものも無い状態じゃ風邪引いちまう。しょうがないから革ジャンを脱いで赤ちゃんにかけた。
「とにかく動けるんなら車に乗って。少しはあったかいよ」
「はい」
動けるんでほっとした‼ どうやら免許証は無事か?
助手席に乗せてヒーターをがっちり入れた。赤ちゃんの泣き声は徐々に穏やかになっていく。狭い中で泣かれっ放しじゃ、うるせーの、なんの……元い、賑やか過ぎて困る。
「ね、あんた、ホントにどこも痛くない? 赤ちゃんは無事?」
「……この赤ちゃん、誰でしょう?」
「はぁああ?」
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