always

Me and you. Always.

 しばらくして「たまには休みを」と、3日間モーテルを閉めた。
「おい。うんと遊んでおこうぜ、経営者!」
俺は笑った。
「そうだね、豪遊でもしようか!」
「お! 物分かりいいね、うちの経営者は」

「かなわないなぁ まったく」
俺はビリヤードで負けた。ポーカーで負けた。
「今日はジョシュの驕りだな」
「じゃ、まずレストランと行こうか」
 俺はこの状況にはっちゃけてたから、わずかの酒に酔った。デュークもどうやらそうだったらしい。いつも俺の倍くらい飲むのに、笑って、食べて、そして少しの酒に酔った。どうやら、それで口が軽くなったようだった。

「俺さ。こんなにいい暮らししたの、初めてだよ。いっつも1人でさ。教会の前に捨てられてたんだ。ひでぇシスターでさ。すぐ飯を抜きやんの。冬でも外に出されたし。それが9歳まで続いてさ。そしてやっとお袋が迎えに来たんだよ。あん時は嬉しかったなぁ…… 5つの弟がいたっけ。しっかりお袋にべったり甘えてて。すっごく可愛かったけど、俺はなんだか気まずくてさ。学校の帰りに寄り道して帰ったんだよ」

 デュークに自嘲的な笑いが浮かぶ。皮肉たっぷりの言葉が続く……

「ははっ! 帰ったらさ、床がべっとり赤くって、それで滑っちまって、手をついたらその手も真っ赤っ赤になって、ケツも、真っ赤、背中も真っ赤。 お袋も、真っ赤だったよ。お袋が迎えに来て、4か月程経った頃さ。警察は言ったね。『寄り道して良かったな』 おっかしいだろ? それを見るために俺は教会から出たんだ。神様は教会を出てったから俺に罰を与えたんだ そう思ったね。真っ赤だったよ。きれいだった。弟はどっかにもらわれて行った。きっとどっかで幸せに暮らしてるんだ。俺はそう思ってんだ」

 ホテルの部屋で聞いたその話は、俺を鋭い牙で裂いた。笑ってた。きれいだったと。神様の罰だったと。
 デュークは泣かなかった。そのデュークこそ、比べるものが無いほどきれいだった。

   

 その夜。俺はデュークに抱かれた。甘いとは言えない、苦く塩っぱく、そして哀しい夜だった。

「ジョシュ…… きっとまた神さまの罰が下るな…… ジョシュ……」
俺はその言葉が苦しくて、自分からキスで唇を塞いだ。
 あの時と同じ熱い舌が俺の口の中を暴れまわり、それはやがて下へと降りていき、そして、俺自身を含み、俺は幸福と涙の海に浮いて行き。

 デュークは俺を求めて、そして「ごめん」「済まない」と言い続けた。初めての男とのセックスは、どんなに優しくされても苦しくて辛くて。けれど、俺はデュークを何度も何度も引き寄せた。
「大丈夫か?」
「辛くはないか?」
動く度に俺を気遣うデューク。それでも俺から離れようとはしないのが嬉しくて。

 俺を抱きしめキスを注ぎ、俺の痛みを逃がそうとする愛撫が少しずつ俺の頭の中を溶かしていく。目を閉じてそのたくましい肩に掴まり、俺は入ってきたデュークを全身で感じた。
 シーツにしがみついて首を振ってる俺。耳に聞こえているのは俺の喘ぎ声。途中から何が何だか分からなくなり……

 初めてだった俺はすごく甘やかされて、痛みを感じたのも最初の頃だけ。快感に身を委ね、渦の中に巻き込まれながらデュークという舟にただ掴まって揺れていた……

  

 俺たちは2ヶ月ばかり、幸せに暮らした。

 ある日、デュークが真っ青な顔をして俺の元に来た。手には新聞が握りしめられていた。
「ジョシュ……俺に、ヒマをくれ」
 俺はその新聞をひったくった。ぱっと流し読みしたけれど、よく分からない。
「何? どうしたの!?」
「同じ町で、同じ事件だ……俺は追っかけてたんだ、アイツを。お袋を殺したアイツを」
 俺はもう一度新聞を見た。そこに大きく出ていたのは、〔連続殺人事件 遺体の心臓はどこに?〕という見出しだった。

「あいつの顔も真っ赤だった……俺のそばまで来たけど表で声がしてあいつは逃げたんだ…」

青い顔をしたデュークを俺は両手で掴んだ。

「しっかりしろよ! 行っちゃだめだ! ここにいるんだ、俺と二人で。行っちゃだめだ!」
「ジョシュ…… 俺は行かないと。神様が俺に行けって言ってるんだ。きっとそうなんだ」
「神なんかいるもんか! デューク、そんなもの、いない。デュークに罰を下すものなんか、そんなもんいないんだよ。俺がここにいるだろ? 俺たちはもう家族なんだ。俺がデュークの家族なんだ!」
「ジョシュ ジョシュ…… 俺の弟な、ジョシュアって名前だったんだ……俺、怖かったよ。ずっと怖かった。いつかこの生活も壊れるんだろうって。そして……」
「違う! 違うよ、デューク! 俺は俺だ! デュークの弟じゃない!!」
「お前は……ジョシュ、お前は……」

 デュークの言葉はそれ以上続かなかった。俺は必死でデュークを掴まえていた。少しでも力を抜いたら俺の手をすり抜けていくだろう。

 俺はデュークを抱いて、ベッドに座らせた。チェックアウトする客が一人いた。それを済ませれば取りあえず急いでやることがなくなる。

 そして、部屋に戻った時。
裏口が開いていて、デュークはいなかった。

「必ず帰る」

そう書いた紙を置いて。

   
 4日後。

 モーテルを閉めきった俺の携帯にデュークの着信が鳴った。

「デューク! どこにいんの!? 帰って来いよ!! 俺んとこに帰って来いよ!!!」
「ジョシュ…帰る。帰るよ、お前んとこに帰る。だから待っ……」


 銃声が聞こえた。
俺は返事の無い携帯に叫び続けていた。


     
―― 3週間経ったよ、デューク。
帰ってくるって言ってたよね?
俺んとこに、必ず帰るって。

―― 俺は上手にパンを焼けるようになったよ。
もう、顎を頑丈にするようなパンじゃなくてさ。

―― コーヒーは、毎日デュークのカップにブラックで入れてある。
そして、パンを必ず2つ付けてるよ。

―― 帰ってくるよね?

―― あんたが何をしててもいいんだ。
あのたくさんの銃やナイフ……
どう使ってても構わない。


―― デューク 俺は待ってるんだ。

  
   もっと日にちが過ぎて。

 外に聞いたことのあるエンジン音が聞こえた。俺はその音に引っ張られるように外に出た。

「よぉ! 部屋、空いてっか?」
俺は抱きついた。
「ああ。特別室が開いてるよ。コーヒーとパン付きだ」
「痛てっ! 悪りぃ、左腕掴まないでくんないか? ちょっとドジっちまったからな」
「もうどこにも行かない? それなら掴まないよ」
「お前、卑怯だな」
「うん。悪徳経営者だからね。そのくらいやらないと、従業員がすぐ逃げちゃうんだ」

デュークは高らかに笑った。

「もう、行かねぇよ。お前んとこにいる。そして、お前と一緒にぶくぶくの爺ぃになるんだ。分かったか? ジョシュ」

 そう言って俺より背が低いくせに、俺の髪をくしゃくしゃ掻き回した。
俺はその手が嬉しかった。もっと強く抱きついて言った。

「お帰り、デューク」