Fel & Rikcy  第3部[9日間のニトロ] 18-(決着前夜―R)

「今日はずっとお前と一緒にいたい」

 

 そう言ってくれたから俺は安心した。あんなに泣いて心細そうなフェルを見たのは初めてで、俺は母性本能みたいなもんに包まれた。もう無茶はしないよな? そう思ったんだ、愛しくて。


 すっごく気持ちの良かったセックスの後はやっぱり熱が上がって、フェルは俺より真っ赤な顔しながらリズに怒られた。

「そりゃね、ご夫婦ですから。余計なことは言いたくはありませんけどね」

 リズがやけにバカっ丁寧な言葉を使うから、ますますフェルは縮こまっていく。おっかしくって、俺は腰が痛いのに笑いが止まんなかった。でもリズがあんまり睨むから頑張って笑うのをやめて謝った。

「ごめん、リズ」
「リッキーは許します」
「え? なんで?」
「入院した奥さんに無理をさせるのはたいがい旦那さんですからね、Mr.フェリックス・ハワード。奥さまの退院を先延ばししたいんならいくらでもどうぞ」

 さすがに俺もフェルが可哀想になってきた。だって俺が抱けって言ったんだし。

「リズ、俺が抱いてくれって言ったんだ。フェルは我慢しようとしたんだ、ずっと俺を抱いてねぇのに」

 大きな口開けてリズが固まったし、フェルは顔を両手で覆っちまったからなんかやらかしたかなとは思った。リズが交換しにきたシーツをフェルに投げつけるのを見て、言葉が足んなかったんだと思って言い足した。

「シーツは汚してねぇよ、リズ」

「お前さぁ……時々バカになるよな」
そう言うと俺をベッドからそばの椅子に抱き上げて座らせてくれた。
「レポートは僕より点数が上の時もあったりするのに。よく分かんないヤツだよなぁ」
「シェリーが前言ってた。あんたってフェルが絡むとどうしてバカになっちゃうんだろうって。そうなのかな……」
 それを聞いてフェルは嬉しそうに俺にまたキスをくれた。リズが出てっちまったからフェルがシーツを取り替えてる。背中がドキリとするほどセクシーだ……

「終わり!」
「フェル、シワクチャだよ」
「さっきだって散々シワクチャにしたじゃないか」
「でも、これじゃ寝心地悪いからイヤだ」

 仕方ないって顔でちょっと伸ばしてくれたけど、全然ピッとしてない。そうなんだ、フェルはこういうのは大雑把なんだ。俺がシワを伸ばそうとしたところにノックがあってリズが入ってきた。

「悪かったわ、ちょっと大人気なか」
ツカツカとフェルのそばに立ったと思ったらフェルの鼻を思いっきり摘んだ。
「いたっ!」
「誰にやらせてるの! 全くあなたって人は! これだから男は!」
 どうやらリズん中じゃ俺は男に入ってないらしい……ちょっと複雑…… プンスカしたリズのお蔭でシーツは気持ちいいくらいピッとした。

 

「その、抱き上げてもいいかな……怒られるかな……」
「いいですよ。ベッドに寝せるだけなら。じゃ後は頼みましたからねっ」
 最後までリズは怒ったまんまで部屋から出て行った。笑って両手を伸ばしたらフェルはやっと安心した顔で俺を抱き上げてくれた。そのまんまジッとしてるから顔を覗いたらまた泣いてるから焦った。

「どうした? 俺、お前の腕ん中にいるよ?」
「軽く……なった、痩せた、お前……」
「今日のフェルは俺より泣き虫なんだな」

抱き上げたまんまで泣いてるから頬っぺたにたくさんキスをした。
「退院したらうんと食うよ。心配すんなよ、動かねぇから腹が減らねぇんだ」
涙の止まんねぇフェルが笑おうと頑張っては泣き顔になるから、俺はまたキスをした。やっとベッドに寝かせてくれたフェルに俺の脇をポンポンと叩いた。

 

「もう、今日は何もしないよ。お前、だいぶ赤い顔してる。ごめん、考え無しだった。ずいぶん無理させた」
座ったフェルはすっかりしょげちまって手も伸ばして来ない。

「フェル、喉渇いた。水」
「でも」
「水!」
「グラス使おう」
「じゃ要らねぇ。もう水なんか飲まねぇ!」

 困った顔したけど俺の不貞腐れた顔を見て、結局口移しで飲ませてくれた。優しいフェルだ。母さんが心配したフェルじゃない。凍ったフェルじゃない。オルヴェラを追い詰めたフェルじゃない。俺はこんなフェルが好きなんだ。

「苦しくないか? 腰とか手とか辛くないか?」
「どっちも動かさなきゃ大丈夫だ。手……治るよな」
「大丈夫、治るって先生言ってたよ。リハビリとか手伝うからな。無理したり焦ったりしないようにしよう」
「講義のノート困る……」
「それは先の話。寝ろよ。今日はずいぶんスタミナ使ったからな」
「フェルもな」
俺はちょっと悪戯したくって、フェルのソコを撫でた。

「やめろよ! やっと大人しくなったのに! お前を抱き上げる度に我慢してるんだからな!!」

 ああ……これじゃ退院したらきっとヤリ殺されちまう…… でもそんなこと考えられるのが幸せなんだって思った。フェルは俺が死んじまうって、たった独りで死のうと思ったんだから。

 目を閉じたら大きな手が頬を包んで、そして髪を梳いてくれた。フェルはそばにいる時にはいつも髪を洗ってくれるんだ。だからするりとその指の間を滑るくらいに伸びたのが嬉しい。

「眠いんだろ? ずっとそばにいるから。だから寝ろよ。今日はお前のそばを離れたくないんだ」

 フェルの声は睡眠薬だ。フェルの心臓の音も睡眠薬だ。フェルが隣に横になって胸に抱いてくれた。俺はそのまんま眠っちまった。

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