Fel & Rikcy 第1部

3.温度

 あの時……映画館の時みたいな激しいキスじゃなかった。それほど舌は入って来ず、入り口で止まる。僕の唇を微かに舐めてそのままじっと口を合わせていた。

 リッキーの体から力が抜け始め唇が離れていく。両手が僕の胸に降りて軽く握り拳になった。同時に頬がそのそばにずり落ちていく。

  くぅくぅ

 寝息が聞こえ始めた。

「リッキー?」

ぴくりとも動かない。

「リッキー? 寝ちゃうの? このまま」

 まるで子どもだ。母親の胸に縋って眠る子ども。その姿は可愛い……。そう思う僕はどうかしてるんじゃないだろうか。

抱き心地が良くて、しばらくそのまま抱いていた。なんとなく起こすのがかわいそうな気がしたんだ。

 

   くぅくぅ

 僕の胸にもたれて体を預け無防備に眠っているリッキー。そのうち、その弛緩した姿が、可愛いというより重くなり始めた。
彼は僕より背は低いけど、むっちりと締まった体は決して軽くはない。

 まず足が痛くなり、痺れてきた。落とさないように抱いてるから動けない肩と腕が『私たちの存在をお忘れじゃありませんか?』 と、聞いてくる。背中と腰がきつい。

「ねぇ、リッキー」

さっきより大きな声をかけた。

「リッキー。このままじゃ落としちゃうよ」

はっきりした声で言うと少し頷いた。良かった!

 手が離れて……僕の首に巻きついて、しっかりと体が密着した。僕は焦った。このまま寝ぼけたリッキーに力づくで押し倒されたらどうしよう!けど、  くぅくぅ  という寝息は変わらない。体勢が変わったことで僕の体は少し楽になったけど、きっとこんなの一時しのぎだ。なんとか起こさなくちゃならない!

 そう思って大きな声を出そうとした時にその寝言が聞こえた。

 

  「mama…… calido……

 

(ママー カリド?)

幸せそうな声だ。そう言って頬をすりすりしている。僕は起こしそこなって、たまに漏れる知らない言葉を聞きながら眠っていった……。

「わっ!!!」

 突然の真近の大声に僕は目をしょぼしょぼさせて擦った。

「ん……リッキー おはよ」

目の前で固まってるリッキー。

「お 俺……」
「悪いけど驚くの後にして降りてくんない?」

はっ!として慌てて降りる。助かった、やっと解放された。でも僕の体は簡単には解れなくて、こてん とそのまま横になるしかなかった。

「疲れたー」
「俺、いつ寝た?」
「キスのすぐ後」
「え…あのまま……」
「ごめん、もう少し寝たいんだ、1時間したら起こしてくれる? ばいと…」

そこで意識が切れた。


 やっと目が覚めても頭はぼんやりしていた。節々が痛い。

 ――なにかしたっけ?

そう考えて、リッキーの顔が浮かんだ。見回すといない。時計を見たら8時……。

「8時ーぃ!?」

 バイトは6時から。とっくに時間を過ぎている。慌ててシャワーを浴びようと立ったら足がカクカクして持ち上がらない。ドスンとベッドに座り込んで途方に暮れた。

 ふと気がつくと枕の脇に紙がある。

『ゆっくり寝てくれ。バイトは俺が行く。R』

 ――助かったぁ!
僕はほっとして…また眠ってしまった……。

「…い、おい!」

遠くから声が聞こえる。体を揺さぶられて目が開いた。

「大丈夫か!?」

リッキーだ。

「なにぃ?」

僕はまだぽわんとしたままだ。

「なんか食わねぇと死んじまう」

オロオロしているのが伝わってきて、事の顛末を思い出した。

「あ! ごめん、バイト」
「ごめんって… それ言うの俺の方だ。悪かった、本当に」

その顔があまりにしょげているんで思わず笑ってしまった。

「いいよ、リッキーこそ体大丈夫?」
「俺は」

一瞬泣き出すかと思った。

「守るって言ったばっかなのに迷惑かけちまって」
「大丈夫だよ、今何時?」
「12時前」
「嘘っ!」

 

 焦ってベッドから降りようとして足が イヤだ! と喚いた。顔を思いっきりしかめた僕をリッキーがやんわりとベッドに戻した。

「講義だろ?  忘れたか? レポート終わってるからエシューの講義はもう無ぇよ。そんなことより痛いんだろ、体中」

「そうかぁ。もうあの教授の講義、聞かなくて済むんだぁ!」

有難い! あの教授、本当に苦手だ。

「エシューはいい女なんだけど普段は固いからな。夜はうんとセクシーなんだぜ」

こういう会話が普通なのがリッキーだ。いつかヤキモチ本当に焼くんだろうか。

 

「な、動けねぇんだからなんか買ってきてやるよ。何が食いたい?」
「いや、外に出るよ、そうしないとこのまま筋肉固まっちゃうし。こんな時は逆に動いた方がいいんだ」

立ち上がろうとするとリッキーが肩をかしてくれた。
「シャワー、手伝う」
「冗談!」
「いや、本気」
「マジで!?」
「マジで」
「1人で出来るよ、シャワーくらい」
「フェル、両手を背中で組んでみろ」

言われて右手を肩から、左手を腰から回す。手は届く前に悲鳴をあげた。

「な? 無理だよ、1人じゃ。変な気持ちで言ってんじゃねぇんだ、背中だけでもいいから流してやる」


それで済まなかったらどうしよう……。

「単なる筋肉痛だからバスタブに湯を張るよ。浸かってればだいぶ楽になるんだ。バスケやり過ぎてよくあるんだ、こういうこと」
「じゃ、湯を入れてくる。溜るまで動くな」

 
『俺さ、すっごく尽くすぞ』

 あの言葉が蘇る。そうだね、奥さんみたいだよ、まるで。そう考えておかしくなった。彼を普通の男だと認識するのをやめている。

「いや、だが彼は男だ」

 小さく呟いたところにリッキーが出てきた。

「なんか言ったか?」
「いや、何も」

そう言い終わる前に僕は彼を見て吹いていた。

「なんで湯を張るだけでそんなに濡れてるんだよ」
「滑ったんだよ」

左側はびしょ濡れで水滴が滴っている。

「着替える」

 脱いでる彼のその後ろ姿の動きはなんていうか……背中だけでも相手をイチコロにするだろ! ってくらいにえろい。何がだろう? どこが違うのか……じっと見て何となく思った。動きだ。動き方が違う、滑らかに流れる様な、誘うような……。普通の男とまるで違う。

 

(だめだ)

僕はそう自分に言った。

 彼は相部屋のリチャード・マーティン。僕は彼に友情というものを教えてやりたいんだ。そこに余計な愛情ははっきり言って邪魔だ。

 僕も頃合いを見計らってパッパとシャツを脱いだ。たっぷり休んだせいか、足はさっきよりマシに動いてくれている。

彼がこっちを見てるのを感じながら、僕はなんでもないかのようにバスルームに向かった。

 ――ああ やっぱ湯に浸かってるのはいい

 足をバスタブの端に引っかけて顎まで浸かり目を閉じる。大学の寮っていうのは、普通シャワーだけでしかも共用だったりするんだけど、この新築の寮はちゃんとバスタブがついてる。ずいぶん迷ってこの贅沢な寮の空き部屋の争奪戦に挑んだ僕。

バイトは大変なことになってるけど、その恩恵はしっかりと受けている。

 

『ママー カリド』

 あれは何だったんだろう。聞き慣れない外国語。夢で呟くくらいなんだからきっとその言葉に堪能なんだ………………。

 突然パニックに襲われた。鼻から吸ったのは空気じゃなかった。ごぼごぼ口にも鼻にも湯が雪崩れ込む。咄嗟にどこが上なのか分からなくなった。僕は尋常じゃない音を出していたんだと思う。でもすぐに意識が無くなったからその後は分からない………。

「フェル! フェル!」

口に息が吹き込まれて胸が叩かれた。

(痛い) 

そう言おうとして何かを吐いた。すぐ顔が横に向いた。それでも息が吸えない。空気を求めて喘ごうとしても上手く行かない。

「救急車呼ぶ!」

叫んでいる声が聞こえた。

「僕が呼んでやるからそばにいてやれ!」

そんな声が聞こえて僕の意識はまた遠のいた。

 次に目が覚めたのは白い壁に小さなカレンダーのかかってる部屋でだった。

「目が覚めたか?」

小さな声が聞こえた。僕の左手を掴んだリッキーの両手が震えていた。

「死んじまうかと思った」

小さな声が続く。

「死んじまうと思った、お前が」

僕の手を自分の目に当てて泣くのを堪えてるのが分かった。

「ごめん なにがあった?」
「お前、バスタブの中でまた寝ちまったんだ。そして体が沈んだ」

だとしたらよほどマヌケだ、僕は。昨日はひどく気疲れしたし、膝にリッキーを乗せて寝たのがよほどキツかったらしい。

「ここ、どこ?」
「病院」

 え? ええ???

「びょ 病院に運んだの?」
「お前窒息しかけてたんだぞ。水吐いたのに息が吸えなくて、吐けなくて、吸えなくて……」

小さかった声が叫び始めた。

「バカ!! ホントに死んじゃうとこだったんだぞ!! 顔が真っ白で唇は真っ青で、体はぐにゃぐにゃで、死んじまうとこだったんだ、俺からそんなに離れてねぇとこで!!」

 

 リッキーの痛みが僕の胸に突き刺さった。

『愛してる』

そう告げた相手が自分のそばで死んでしまう、それもバカげた理由で。

「俺…目を離すんじゃなかった……俺が全部悪いんだ…俺が」
「リッキー こっち見て」

僕は力の入らない手で彼の手を引っ張った。こっちを見た涙の顔に笑いかけた。きっとそれは頼りなげな笑いだったんだろう。

「無理すんな。俺はそばにいるから。もう離れねぇから」
「リッキーのせいじゃないんだ。僕がマヌケだっただけだ。リッキーはなにも悪くない」
「でも!」
「心配かけて悪かった。だらしなくてカッコ悪い」
「なんだっていいんだ、お前が無事なら」

 そこにサッとカーテンが開いた。

「ああ、目が覚めたんだね。良かった、もう大丈夫」

若々しい声が聞こえた。

「僕はセバスチャン。新米のドクターだ。でも処置は完璧だったはずだよ」

 脈を取りながら陽気に話す若いドクターは僕の胸に聴診器を当てた。

「うん、しっかりした鼓動だ。脈も正常。担ぎ込まれた時はだめかと思ったけどね」

笑ってる声はどっちかっていうと苦笑いっぽかった。

「バスタブだって? 時々いるんだよ、そういうので溺れちゃう子が。でもこんなにデカい子じゃないけどね」

僕は真っ赤になってたに違いない。

「友だちに礼を言うんだね。2人がいなかったら本当に間に合わなかったかもしれない」
「2人?」
「ソーヤーがちょうど来てくれたんだ」

 ソーヤー。『土曜日の彼』か。

「あいつ、お前のことばかり見てやがった」
「あいつ? ドクター? 医者なんだから当り前だろ?」
「俺はこういうことには勘が働くんだ」

 

 咳がこみ上げてきて、ひとしきり咳き込んだ。リッキーが一生懸命背中を擦ってくれる。

「もう少し寝てろよ」

やっと落ち着いた僕を心配そうにのぞき込んだ。

「もう寝るのはたくさんだよ」

冗談めいて言うといきなりガバッと抱きつかれた。

「寝るだけなら許してやる。でも死ぬのはだめだ」

 

 止める間もなかった。キスが口に首に手に肩に胸に。上半身ほとんど裸といっていい僕の体中がキスで覆われた。

「リッキー、リッキー」

キスの跡が濡れていく。まだ震えている肩。泣いているのが分かる。

「死ぬのは……だめだ……」
「僕はもう大丈夫だから。死なないから。な? 安心しろよ」
「母さんも…海で死んだ……」
「え?」
「体が見つかった時にはもう息止まってた。何やっても動かなかった」

「……いつ頃?」
「俺は15だった。自殺だったんだ」

僕の体に伝わる震え……。

「今度からちゃんと気をつける。もうこんな思いはさせない。約束するよ。二度とリッキーを1人にしないから」

なんでそんな言葉が出たんだろう。

「フェル」

抱きついたままのリッキーが頷いた。僕はその離れない体を強く抱きしめた。

「帰り、送っていくよ」

ソーヤーだと自己紹介されて僕は握手をした。

「面倒かけたね、済まない」
「いい姿を堪能出来たからいいよ」

長身で含みのある笑い方をする。

「ソーヤー!」
「はいはい、お姫さま。僕は君の下僕だからね。君のハニーをからかうのはやめるよ」

 僕は何回赤くならなきゃならないんだろう。バスタブで溺れたんだからそりゃもう、余すところなく見られたに違いない。

「君、覚悟した方がいいよ。救急車は来るし、リッキーは狂ったように君にしがみついて泣いてたし。ま、僕ならしばらく部屋を出ないことをお勧めするよ」

そう言うと思いっきり笑いあげた。

「それ以上言うと許さねぇぞ」
「おおっと、君を本気で怒らす気なんかないよ。後が怖いからね」

 

 そこには僕とは違う空気が流れている。セックスをした相手。まるで流れるようにソーヤーの手がリッキーの頬を撫でた。

「帰るんじゃなかったらなぁ。君を誰にも渡さないのに」
「俺たちはもう終わったろ?」
「そうだね、こんな強力なライバルが現れたんじゃ」

いきなり肩をバシッと叩かれた。

「君さ! こいつを泣かすなよ 。泣くとこな んか初めて見た、あんな目に遭わすな。リッキーが泣くなんて見たくないよ、それも他の男のせいでさ。あんただけだぜ、彼にしがみつかれて泣きじゃくられたのなんて」

 顔は笑ってたけどその目は笑ってなかった。 

 ――ああ 彼は本当にリッキーを愛してたんだ  
そう、思ったんだ。


 その彼の言葉の間もリッキーは僕の腕に引っ掴まっていた。

「おい、いい加減にしろ。彼は逃げやしない。帰れば同室なんだし思いっきり甘えられるだろ?」

渋々という風にリッキーは手を離した。

「それでいい。取りあえず僕が飛行機に乗るまではそんな姿見せるな。来いよ」

素直にリッキーはソーヤーのそばに行った。

「君からだ。助けたんだから」

そう言われてリッキーは自分からソーヤーに口付けた。すぐ離れるつもりだっただろう彼はソーヤーにガッシリと抱き寄せられた。
 たっぷりとリッキーの口の中を味わいながら、ソーヤーは僕に目を向けた。刺すような目だった。


 それきり黙っていた僕は、荷物を持って先に寮に入ったリッキーの背中を見ながらソーヤーに礼を言った。

「ありがとう。気をつけて "田舎" に帰ってくれ」
「言うねぇ。さっきのにヤキモチかい。正直言ってあいつが君のどこに惚れたのか分からないよ」
「分かってもらう必要無い。彼は誰かのためにいるんじゃないから」

「……なるほどね。ちょっとだけ分かった気がする。君はあいつを夜のお供にしようって気がないんだな?」
「そういうことだけが付き合いじゃないだろう」
「セックス無しじゃあいつはだめだぜ。そのうち我慢できなくなるよ、そういう体なんだ、あいつは」
「侮辱するな、リッキーは一人の人間なんだぞ。あんたたちのオモチャじゃない」
「あいつは自分からオモチャになることを喜ぶんだ」

体が復調してたら気絶するほどのパンチを浴びせられたのに。

「無理するな。今夜は大人しく寝た方がいい。それから体は今度からあいつに洗わせるんだな。得意だからな、シャワータイムは」

僕の拳を掌で受けて、ソーヤーは笑って帰って行った。


『寝なくなったら終わりだよ、男も女も』

あの言葉を思い出す。そしてソーヤーを思った。彼はリッキーを征服していたんだ。

『来い』

そう言われてリッキーは身を差し出した。僕を刺すように見たのは自分たちの主従関係を見せつけるためだ。そこにリッキーの尊厳は無かった。

 あんなヤツらに二度とリッキーをいいようにさせてたまるか! 自然にそう思う僕がいた。

「ママー mama ママって言ったんだな」

次に カリド という言葉を調べた。どうもスペイン語のようだ。

「あら、有名人が図書館でなにしてるの?」
「シェリー、君までやめてくれよ」


 あれから2,3日、えらい目にあった。口笛吹かれたり、囃し立てられたり。そんなのはいい方だった。廊下ではいきなり足を引っかけられる。倒れはしなかったけど本が散乱した。階段のそばで突き飛ばされ、落ちそうになるのを防いだのはリッキーだ。ついでに相手を殴り飛ばしていた。

「どうやら俺は連中を煽っちまったらしい」

救急車の時の騒ぎのことを彼は悔いていた。

「忘れてんのかもしれないけど、リッキーは僕の命を助けてくれたんだよ」

そう言って彼を抱きしめた。この頃じゃ、そんなスキンシップが普通になり始めている。

 

「なに? スペイン語は取ってなかったでしょ?」

「ちょっと知りたい言葉があってさ」

シェリーは悪友だ。お互いに言いたいことを言い合う。

「どれ?」
「ママー カリド って意味分かる?」

彼女はスペイン語を知っていた。前に付き合っていた相手が勉強するのを手伝っていたらしい。

「子どもが喋ってたの? 『ママ あったかい』 そういう意味よ。忙しいわね、こんな最中にスペイン語の勉強? そうそう。テッドに気をつけた方がいいわよ。あいつ、碌なこと言ってないから」
「何を言ってる?」
「言いにくいけど……あんたがノーマルだからリッキーの体が啼いてるだろうって。誰かリッキーを落とさないか?って持ち掛けてるみたい。今はあんたが攻撃を受けてるけど、それに飽きたら今度は彼が狙われるわよ」

シェリーに礼を言って、急いでリッキーを探した。


『ママ あったかい』

僕の胸に縋ってそう言ったんだ。海で自殺したという母親。僕が溺れているのを見つけてどんな思いをしたんだろう。

 

 ちょうど廊下の角を曲がる姿を見かけてその後を追いかけた。曲がったところで言い争いをしているのが聞こえる。

「ふざけるな!」
「やっちまえ!」

角を曲がると手前のドアの中にリッキーが引きずり込まれるところだった。

「なに、やってんだよ!!」

3人の男がその体を抑えつけようとしていた。僕はそいつらを蹴って殴ってリッキーを掴んだ。

「なにしようっていうんだ!」
「お前がしてやらないことを俺が代わってやってやろうってんだ」

リッキーが赤い唾を脇に吐いた。

「テッド、お前に触られるとゾッとする」
「俺が触ったらぞくっとするの間違いだろ?」
「もうお前とはそういう関係じゃねぇ」
「耐えられんのか? さっき触った時、ずいぶん敏感になってたみたいだけどな」

下卑た笑いに他の二人も追従している。そのテッドというヤツを僕は殴り倒した。

「文句があるなら僕に言え! 僕が相手をしてやる!!」
「その気もないのに生殺しにしておいてよく言うよ」

テッドが口から伝う血を拭いながら尚も言う。

「今なら裸にしただけでイッちまうぜ、そいつ」

もう一発殴ろうとした時に腕を掴まれた。

「もうよせ。相手するだけ無駄だ。それにこんなヤツ相手に寝たのは俺だ」

そしてテッドを振り返った。

「お前、こんな真似してただで済むと思うな。後悔したくなきゃここでやめとくんだな」
「後悔するのはどっちか思い知らせてやるぜ!!」

その言葉を背に、僕らは部屋に向かった。

 

 

「なんであんなヤツに身を任せたんだ、ソーヤーにも」

切れている口を調べながら聞いた。

「上手かったからさ」
「何が」
「セックス」

「バカだ、リッキーは。そんな付き合い方もうするな」
「しねぇよ、フェルがいるから」
「ああ、そばにいてやる。友だちだからな」


 『ママー  あったかい』

 ――僕の温度に母を感じたのか? 
 ――僕の鼓動を聞いて眠ったのか?


「フェル  キス」
「しないよ、口切れてるだろ?」
「じゃ、抱きしめてくれよ」
「……いいよ」

僕は彼を横に座らせた。

「もう同じミスはしない。膝には乗せないからな」
「ああ、俺も膝に乗るたびにお前が死にかけんのはイヤだ」

 

 減らず口を叩いている内に声が小さくなり始めた。前と同じ。手をギュッと握って僕の胸に耳を寄せる。

『ママー  あったかい』

「フェル あったかいなぁ、お前」
「今日は寝るなよ」
「寝ない」

   くぅ……

そうなるたびに頬をつねった。

「痛ぇよ!」
「だから寝るなって。寝るならベッドに行け」
「一緒に寝る?」

 

 また猫になってるよ、リッキー。舌なめずりするなって。僕にベッドに追いやられて彼は不貞腐れて寝た。ちゃんと寝息が聞こえてその横に立った。


 ――リッキー 自分を大切にしろよ
 ――母さんの夢、見れればいいな


『守る』
 そう言ってくれた彼を僕は守ることに決めた。僕が守っていくよ、リッキー。