
宗田花 小説の世界
Fel & Rikcy 第2部
6.遅れたクリスマス
リッキーの様子がなんとなくおかしい。そう思ったのは一昨日。チェーンをプレゼントした時はしばらく大はしゃぎだった。風邪が治りきるまでバイトも休んで付きっきりで世話してくれたし、美味しい物もたくさん作ってくれて。トマトとチキン! あれは美味かった!! 『もう一度!』って言ったけど『頻繁に作ると有難味がないだろっ』と却下された。けど、それは機嫌が悪かったわけじゃない。
昨日からはいつも朝出してくれるトマトジュースが消えた。
「リッキー、トマトジュースは?」
「かじってろ! 変わんねぇだろ、どうせ」
「何怒ってんのさ。何かしたっけ?」
「いや。何もしてねぇよ。見事に何もしてねぇ、フェルは」
怒ってるのは確かだ。けど見当がつかない。
「シェリー、リッキーから何か聞いてる?」
「何かって?」
「愚痴と言うか……急に機嫌悪くなっちゃって」
「あんた、何かしたんじゃないの?」
「心当たり、無いんだよ」
「リッキーは女の子だからね、あんた無神経なことでも言ったんじゃない?」
シェリーの言葉こそ無神経だ。僕だって傷つくことはあるんだ。
リッキーが一番愚痴をこぼしそうな相手はタイラーだ。じゃなきゃ、エディ。この二人はリッキーにとっては初めての利害抜きの友だちだからリッキーはすごく心を許している。それは僕にとっても有難いことだ。僕はリッキーに[友情]というものを教え損なったから。僕の友情はあっという間に愛情に鞍替えしてしまった。
「リッキー? 午前中も会ったけど普通だったよ。なんだろうな?」
「どうせフェル、何かやらかしたんだろう。心当たりなくってもさ」
タイラーまでシェリーと同じようなことを言う。正直堪んない。寮に戻って買い物に出たリッキーの帰りを待った。そうだ、釈然とはしないけど花でも買ってこようか……でもやっぱりそれは僕流じゃない。第一チェーン贈ったばかりだし。
(ちょっと帰りが遅いな)
そう思って外に出ようとしたら隣のアマンダに捉まった。実は……僕はちょっとこの彼女が苦手だったりする。どうやらリッキーを妻として育てているのはアマンダのような気がしてならないから。その証拠にリッキーは何かと言うと『アマンダはさ』と言うことが増えてきた。
「フェル! お隣なのになかなかフェルには会えてない気がする。元気?」
「元気だよ。ちょっとリッキーを迎えに行こうと思ってさ。買い物から帰ってくるのが遅くって」
「心配よねぇ。こう言っちゃなんだけど、女の私から見てもリッキーって魅力的だもん。大事にして当然だわ! ……あ、でもね、フェル」
急に真剣な顔になるから僕は心の中で身構えた。<でもね、フェル> いいことを言われるわけがない。
「記念日とか、そういうのは大事にしないと。せめてメジャー所は抑えとかないと女っていじけちゃうもんなのよ」
いじける……まさに、今のリッキーがそうだ!
「あの、リッキー何か言ってた? その、記念日っていうののこと」
「え? 聞いてないの?」
どうやらここに回答があるらしい。僕はさらに身構えた。いや、本腰でだ。
「何を?」
「あら、やだ……あのね、フェル。私、悪気は無かったの」
ああ…じゃ、悪気にも取れることをしたのか、言ったのか……。
「ただ、お喋りの中でリッキーのチェーンの話が出て」
ふんふん。それはどうってこと無いはずだ、あんなに喜んでたんだから。
「だから、『じゃ、クリスマスの時は何をもらったの?』って」
……ヤバい、これは相当ヤバい……。 僕は恨めしい思いでアマンダを見た。
(なんてこと、言ってくれたんだよ……)
正直に言おう。すっぱり言おう。忘れてた、そんなこと。そうだ、忘れてた! ああ、ヤバい!! だって僕らの間にどれだけの "事件" が今までに起きた? その間のイベントを一つ忘れたからってどうってことないだろう?
「ほら、男の人ってそういうの気にしない人がいるじゃない? でもいくらなんでもあれだけ町中がそのムードになってるクリスマスを忘れるわけが無いと思って」
さっきの僕の思ったことが敢え無く撃沈していく……でも、しょうがないじゃないか! 一つくらい……。
「ハロウィンとか感謝祭とかブラックフライデーとか、ちょうどイベントが目白押しだしね。そして最後に来るのがクリスマス!」
えと、ハロウィン? あれ、子どもが飴もらうやつだよな。感謝祭? 七面鳥だろ? リッキー胃潰瘍だったから無理だったし。ブラックフライデーって、ええっと……。
「ハロウィンの仮装パーティー、来なかったなんて知らなかったわ。盛り上がってたわよー。リッキー、具合悪い時だったけどパーティーに来るだけなら来れたでしょうに。感謝祭も大騒ぎだったのよ、盛り上がって。だから行ったと思ってたわ。ブラックフライデーはしょうがないかもね。なかには買い物に付き合うのがイヤだって言う男の人もいたりするし。でもああいう大規模なセールってやっぱり行きたいものなのよ。分かってあげて」
(一つくらい……じゃなかったんだね……)
それをいっぺんに聞かされたわけだ。それじゃあの顔になるのも頷ける。何せ記念日に憧れているリッキー。他のは『ごめん!』で済んでも、さすがに最後の止めになるクリスマスは……。
「じゃ、帰って来たら優しくしてあげてね。バイ」
「……バイ…」
どうしたらいいんだろう。今さら『メリークリスマス!』なんて言えやしない。忘れたって言うなんてとんでもない! 不貞腐れるぐらいでは済まなくなる!
(どうして気にしなかったんだろう…)
僕にも謎だ、だってイルミネーションは凄かったし、あちこち騒いでいたのも覚えている。ただ単に、僕が気にしなかっただけだ。言い訳出来ない。
今日は3月29日。ああ、アマンダ! どうせなら去年言ってほしかったよ。1月でもいい、寒い内ならまだいい。もう春じゃないか!
「分かったよ、何を怒ってるか」
「何だったの?」
「クリスマス、忘れてた…」
「え? クリスマスって…去年のクリスマス、何もプレゼントしなかったってこと?」
「うん。忘れた」
「忘れたって…バカ! そりゃ、怒るの無理無いわ。今さらどうしようも無いじゃないの」
「でもさ! リッキーだって忘れてたってことなんだよ? 僕だって何ももらってない」
「そういう問題じゃ無いと思うけどね」
「…納得行かない」
「そ! じゃ、リッキーにそう言えば?」
「………」
「何かプレゼントしなさい。それで許してもらうのね」
それだけ言うとさっさと電話を切られてしまった。こうなるとエディかタイラーに相談するしかない。
「クリスマス? 僕に相談したってしょうがないだろ? 彼女だっていないのに」
あっさりした返事のエディ。タイラーの返事はもう少しまともだった。
「バカだなぁ! そりゃ機嫌悪くなるよ。確かに、今頃って思わないじゃないけどさ、他の人が楽しんだものを自分は楽しんでないって結構しこりになるぞ」
「どうしたらいい?」
「そうだなぁ。リッキーってちょっとしたことで喜んだりするじゃないか。そういう点は女性より可愛らしいよ。今夜ディナーにでも誘ってみたら? ちゃんとしたレストランにさ。それとも金、困ってる?」
「何とかなると思う」
「じゃ、そうしろよ! 洒落た店に連れてってやれよ。そうだな、『ウェスト・フィッシュ・クラブ』はどうだ? あそこはいいぞ、美味いしロマンティックだし」
タイラーに礼を言って、すぐにそのレストランに電話した。リッキーは今シーフードに嵌っているからきっと喜ぶはずだ。今日は予約はもう一杯。けど明日なら7時に席を取れるという。精一杯粘って、ちょっと高くなるけど窓際の席を確保した。眺めが凄くいいんだそうだ。30ドル増しだけど仕方ない。
「お帰り!」
「…ただいま」
仏頂面のままだ。僕はすぐ買い物袋を持った。
「後は僕が片づけるよ。疲れたろ? 少し休めよ」
「…ありがと」
リッキーの声に気が滅入るけど、努めて明るい声で言う。
「明日さ、夜なんか予定あったりする?」
「別に無ぇけど」
「じゃ、食事に行かないか?」
「外食すんの?」
「たまにはいいじゃないか、ここんとこバイトもキツいしさ。いい店、教えてもらったんだ」
「どんな店?」
ちょっと声が明るくなった。
「そんなに遠くないよ。シーフードのレストランなんだ」
「レストラン……高いんじゃねぇの?」
「今回はそれ、気にするなよ。実はもう予約取ったんだ。明日の7時」
「ホント!?」
「ああ。だからさ、」
「俺、何着よう! ちょっとクローゼット見てくる!」
ホントだ、こんなことで喜んでくれるんだ、リッキーは。今度からもっとイベントに気をつけよう。秋になったらよく周りを見ないと。そうだ、ロジャーに頼んでおこう!
すっかり機嫌の良くなったリッキーは、長い時間クローゼットを離れなかった。お蔭で僕は腹がペコペコのまま、リッキーがキッチンに立つのを大人しく待った。
朝からソワソワしているリッキー。
「おい、フェル!」
「なんですか!」
現場監督のゲイリー。穏やかな監督で穏やか過ぎる所が欠点。推しが弱いんだ。
「悪いんだけどな、今日残業してほしいんだ」
途端にリッキーが過剰反応した。
「ゲイリー、フェル、今夜はダメです」
僕より返事が早い。
「じゃ、リッキーでもいいんだ」
「俺、もっとダメです!!」
「そうか……」
たいがいここで僕が折れるんだけどそれを知っているリッキーがキッと睨んできた。バカだな、僕だって予約をすっぽかしたくないよ。リッキーに笑って頷いたら安心した顔になった。そばにすっ飛んできてキスが始まる。
「おい、リッキー……」
「ありがとう、フェル! 俺、楽しみにしてんだ!」
「僕もそうだよ。大丈夫だ、ちゃんと行くから」
ゲイリーの様子がちょっと気にはなったけど、僕はあんまり残業を断らない。だから今日くらいいいはずだ。
後ちょっとでバイト終了。僕もリッキーも今日は3時上がりにしてもらってる。帰ってシャワーを浴びて支度して。僕はそんなの1時間もかからないけどリッキーはそうは行かない。だからぐずぐずしていられない。
「大丈夫か!」
ゲイリーの叫び声。僕とリッキーは顔を見合わせた。今日の持ち場は2階だったからすぐ1階に駆け下りた。
「手、切っただけだから」
ダグが自分で抑えている手の平からボタボタと血が滴っている。
「おい! 誰か後代わってくれ!」
危ない、もうちょっとで声を出しそうになる。イアンが「俺が代わる」と言ってくれた。イアンは正社員だ。そうだ、僕らバイトが口を出すことじゃない。
ゲイリーがダグを病院に連れて行った間に今度はイアンから言われた。
「フェル、今日残ってくんないか? 一人欠けたし今日は結構やることが残っててさ」
「ダメです、俺たちどうしても外せない用があるんです」
またもや返事の早いリッキー。
「1時間でもいいんだ。今日は3時上がりだろ?」
「でも!」
「リッキー、僕はお前ほど支度に時間がかからないよ。先に帰って支度してていいから」
「でも……」
もう泣きそうな顔になってる。
「大丈夫。必ず4時に現場抜けるから」
それだけあれば時間は充分間に合う。
「悪いな。リッキー、ちゃんと4時にはフェルを帰すから」
小さく頷くリッキーを抱いた。
「心配するな。それより楽しみだよ、帰ってからお前を見るのがさ。今日はきれいな感じ? 可愛い感じ?」
やっと笑顔が出る。
「どっちがいい?」
「そうだな……今日は可愛い方がいい」
「分かった。そうする」
もう3時だったからリッキーは帰って行った。早く仕事を終えたい僕は物も言わずに作業を進めた。
ゲイリーが帰って来ない。もう4時になる。
「悪い、フェル。後15分ダメかな」
15分。微妙な時間。でもまだ心配するほどの時間じゃない。
「ホントに15分だけです。それ以上は無理」
「了解! 助かる!」
そして15分。イアンがこっちを見たけど僕は首を横に振った。諦めたような顔でイアンは頷いた。良かった! これ以上遅いとリッキーが騒ぐ。
今度はバスが…来ない。現場のすぐそばにバスターミナルがある。そこから大学の近くまでバスで行くんだけどどういう訳かバスが一台も無い。
「バス、どうしちゃったんですか?」
手持無沙汰に立っている係員に聞いた。
「途中で事故があったらしくて道路が封鎖されていたんだよ。でももうすぐ着くはずだ。しばらく待ってくれ」
「しばらくって?」
「多分10分もすれば着くだろう」
これで30分遅れたことになる。現場から出る支度で5分はかかっているから。バスで30分弱。そこから走れば寮には20分で着くだろう。5時半にシャワーに飛び込んで着替えて6時。それなら間に合う。寮からは50分位だ、多分レストランには7時前に入れる。
「バス、遅れてますね」
「いや、もう来るだろう」
10分で来ると言ったバス。もう20分は経つ。僕は携帯を開いた。
『フェル、どこ!?』
出た途端に叫ばれて、慌てて耳から携帯を離した。
「ターミナルなんだ」
『なんで!?』
「事故があったらしくてバスが遅れてるんだよ」
『いつそこ出れんの!?』
「叫ぶなよ、聞こえてるから。もう着く頃なんだ。お前支度出来たのか?」
『まだ途中だ。なあ、大丈夫だよな?』
「6時ちょっとに出ればレストランは間に合うから」
『5時半くらいだろ? フェル、着くの』
声のトーンが落ちた。顔を見なくても分かる、泣き始めてる。
「僕はお前ほど支度に時間かからないよ。間に合うって。泣くな」
『……分かった、待ってる。早く帰って来て』
「OK、任せとけ」
そう言ってるうちにやっとバスの姿が見えた。4時45分だ。
『バスが来たよ、リッキー!」
「やった! 急げよ、フェル!』
『ああ! じゃな』
僕はバスに飛び乗った。他にもずいぶん乗る人がいたけれど遅れた分、バスは飛ばしてくれた。
バスを下りた大学前に着いたのが5時10分。飛び下りて走った。5時半には部屋に入れるはずだ。
「おい! フェル!」
「悪い、急いでる!」
「フェル、ちょっと数学教えて」
「また今度ね、ベッキー!」
「試験どうだった?」
「バッチリだよ、ジョー」
「ねぇ、聞いてよ! チャーリーがね……」
「ごめん! リッキーが待ってるんだ!」
どうしたっていうんだ? 今日はいつもより声をかけられて、まるで行くなと言われてるみたいだ。
寮の入り口から部屋に吹っ飛んで入った。5時36分。
「フェル! 遅いよ!」
「悪い、リッキー! 待ってろ!」
リッキーの姿を見るヒマも無い。脱ぎ散らかしてシャワーが温まるのも待たずに頭から浴びた。急いで出る。足元に脱いでいたものは全部片付いていた。バスタオルで拭きながら歩いたけど、いつもなら『濡らすな!』と怒るリッキーがもう一枚のタオルで背中を拭いてくれた。
「はい」
リッキーの差し出す下着を履き、ワイシャツを羽織り靴下を履いている間にボタンをリッキーが止めてくれる。立ったらスラックスを用意してくれて僕はそこに足を突っ込んだ。時計を見ると5時47分。
ドライヤーでリッキーが髪を乾かしてくれて僕はその間にタイを結んだ。手を後ろに回して上着を着せてもらう。5時54分。
「フェル、こっち向いて」
リッキーの細かいチェックが入る。髪は僕があれこれつけるのを嫌がるからただ手櫛で梳いてくれた。タイの形を整える。胸のハンカチをちょっと深く押し込んだ。後ろに回りまた前に戻る。
「うん、これでいい」
リッキーの見立てなんだから文句なんか無い。
「キー、ニールに預かってる」
渡されたキーを持って腕を差し出した。リッキーの腕が滑り込んでくる。時計を見ると5時58分。僕らはやっと出かけることが出来た。
落ち着いたレストランだった。窓からの夜景がきれいだ! ワインリストからはリッキーが選んでくれた。正直言って僕はどれだっていいんだけど、こういうのはリッキーに任せた方が間違いない。チラッと眺めただけで決まった。いつも赤を選ぶのに今日は白。パパっと伝えたから僕にはさっぱり分からない。
僕はようやくリッキーを正面から見た。まだ短髪だけど前髪を下ろして横は耳にかけた形でワックスで固めたらしい。だから形のいい耳が良く見える。薄いオレンジ色のスーツ。普通の男なら選ばない色だ。けどリッキーには凄く似合う。中はそんなに濃くはないエンジのスタンドカラー。今日は指輪は左の薬指にしている。左目の下だけうっすらとラメ。そんなのを見たのは初めてだ。
「どう? おかしい?」
「そんなわけ無いよ! 可愛い、リッキー!」
パッと顔が赤らむ。
「可愛いのがいいって言ったから……」
「うん、すごく可愛い。ここで押し倒したい」
「ばっ! バカっ!」
慌ててる赤い顔に、本気で押し倒してやろうかなんて思ってしまう。そうか、だから僕はグリーン系のスーツなんだな。深い落ち着いた緑。こんなの、自分じゃきっと買わない。リッキーと一緒になって、僕の着る物はすっかり変わってしまった。
ワインが来た。手慣れた手つきでボトルをチェックする。香りと味をチェック。頷いたのを見てウェイターが注ぐ。
「きれいな色だね」
「うん。スーツの色と合うようにペールグリーンにしたんだ」
「お前さ、よくそういうの分かるよな」
「ほとんどエシューに教えられたんだけどね」
「んん…ちょっと複雑だな」
「ごめん!」
「いいよ、こっちこそごめん。変なこと言った」
「…ヤキモチ?」
「ちょっとね」
嬉しそうな顔。うん、何よりも僕にはお前のその顔がご馳走だ。
食事は美味しかった! タイラーにここを紹介してもらって本当に良かった。リッキーも堪能しているのが分かる。
「フェル、どうして今日はここに連れて来てくれたんだ?」
「あ、言うの忘れた! まず、これ」
外に出る前に素早くポケットに仕舞っておいたプレゼント。小さな箱にリッキーが僕を見上げる。……キスしたい。可愛いリッキー。
「開けてみて」
少しずつ貯めていた『ヘソクリ』ってヤツを全部はたいて、バイト前にキャンパス内のショップで買ったオーデコロン。
「フェル、これ……」
「匂いは? 気に入りそう?」
ほんの少し手首の内側にスプレーする。
「わ、いい香りだ! 淡い感じ。押しつけがましくなくって」
「気に入ってくれて良かった! お店の人に相談したんだ。で、僕も気に入ったからさ。それつけてるお前を抱きたい」
また赤らむ顔がきれいだ。
「あの、なんで」
「遅くなったクリスマス。ごめんな、僕はそういうの気が回らなくってさ。いつもお前に寂しい思いをさせてる」
首を横に振る。瞳が潤み始めたから急いでハンカチを渡した。僕の持つハンカチは、いつだってこうやってリッキーに渡すための物だ。
「俺、俺、なんにも用意してねぇよ……」
「ばか、お前がいるだろ? 僕の言った通りの可愛いお前がさ。充分だよ、それで」
「うん。うん、ありがとう、フェル」
やっと肩の荷が下りたような気がする。お前から笑顔が消えると僕は困るんだ。光が消えたみたいで。ずっとお前の笑顔を見ていたいよ。それが何よりのプレゼントなんだ。だから僕は毎日プレゼントをもらってるんだよ、リッキー。