Fel & Rikcy  第3部[9日間のニトロ]  20- B(8日目 決着前夜)

 釈放されてからのフェルの動きが気になったけど、さすがに今日ばっかりはすぐには動きが取れないだろう。リッキーだってフェルを放さないはずだ。
 それでもシェリーにも油断するなって釘刺されたし、俺も安心は出来ないって思っていた。フェルを送った後、病院に残ってた方がいいのかちょっと迷う。そこにちょうど母さんが病院から出て来たから手で合図した。

「母さん、ここ!」
なんだかほっとした顔をしてる。
「俺、フェルやリッキーに会わないで帰っていいのかな」
「いけません!」
「え?」
「いえ、そ、そう、フェルは疲れてるみたいで多分今は行かない方がいいと思うわ」
「そう? 明日また来るし、いいってこと?」
「そうね、明日にしましょ! リッキーはフェルと話したがってたし」
やけに落ち着かない母さんが気になりはしたけど、疲れてるんだって言うからとにかくホテルに戻ることにした。そうだよな、あんなに辛そうにしてたんだ、今日はリッキーがフェルを独り占めするべきなんだ。

 


 夜。胸騒ぎがした。時計見てもう11時過ぎてる。誰だって寝てるはずだ。それでも心配で胸がどきどきする。とうとう寝てらんなくて病院に行ってみた。
 リズはいなかったけど、リンダって言う可愛いナースが俺のことを覚えててくれた。

「あの、もうリッキーの部屋消灯してますか?」
「ええ。さっきそっと覗いたんだけど見なきゃ良かった!」
「なんで?」
「あのね、フェルの腕の中でリッキーが寝てるの。それがもう、大きい犬の間に子猫が入って寝てるみたいで……」
想像がつくから嫌んなる。なんだ、じゃ大丈夫じゃん。

「ありがとう、帰ります」
「わざわざ心配で来たの?」
「うん、ちょっとね」
「あなた……優しいものね、いつも」

 どきっとする、違う意味で。だって、彼女すっごく可愛いんだ。俺の肩くらいしか無くって、だから上目遣いになっちゃうんだけど、それが……。

「あ、あの! 今度、どっか行きませんか!?」
「え?」
「えと、その、あ、ごめんなさい、忙しいのにこんな時に。忘れて、今の」

自分が何言ってんだか分かんなくなって背中向けた。その背中をちょこんと引っ張られた。

「お休み、ちょっと先なの。それでもいい?」

嘘っ!! え、俺、デート出来んの?
「すみません、ちょっと引っ叩いてくれる?」
こんなの夢に決まってる。頬っぺたを突き出したらちょっと笑って、

(マジ……キス……)

頭の中が取っ散らかった。

「じゃ、あの、また打ち合わせして」
「仕事じゃないんだから」
可愛い笑顔だ。俺、思わずおでこにキスしちゃって……る? る!?

「また病院に来るよね。その時に。もう行かなくちゃならないの。ごめんね」

 

 後姿見送ってたら廊下を曲がるところで振り向いて手を振ってくれた。ちょっと今のことは考えない方がいいかもしんない、全部頭っから飛んじゃいそうだ。フェルもリッキーも大丈夫。じゃ、余計な心配だったかな。

 何となく誰かと話したかった。シェリーって雰囲気じゃない。そういう時ってある、こっちの人じゃなくって、あっちの人って時。

 俺は登録してあるアドレスをあれこれ眺めた。タイラー。うん、一番喋りたいのはタイラーだ。かけようとして、間違えて下の番号を押しちまった。気づいたのは相手の声聞いてからだった。

『はい』
「タイラー?」
『いや……君、ビリー?』
「はい、あれ? 俺、エディにかけちゃった?」
『そうみたいだね、こうやって喋ってるんだから』

向こうで笑ってる。

『タイラーならかけても無駄だよ。今日はかなり現場きつかったみたいだからもう寝てるよ』
「あ、そうか。そうだよな…仕事大変だよね」
『でも二人とも喜んでるけどね。結構給料いいから。腕力の見せどころが出来たってね』
「なら良かった! 今度のことで、みんなに世話になってるから俺悪くって」
『そんな心配、要らないよ。どうしたの? こんな時間に』
「変なんだけど、なんか胸騒ぎが止まんなくて。病院来たらフェルもリッキーも寝てるって言うし。取り越し苦労かもしんないけど」
『ふぅん。取り越し苦労ねぇ』

何か引っかかる言い方だ。でもそれ以上何にも言わない。

「エディ、なんか知ってるの?」
『何を?』
ピンときた。間違いない、エディはなんか掴んでる。
「エディ、知ってんなら教えて。もうイヤなんだ、やっと釈放されたのに絶対これで終るわけ無いって分かってるから」
『兄弟だね。僕は一人っ子だからそういうの分かんないけど。君ら兄弟の繋がりってすごいなって思うよ、シェリーも含めて』
「ね、エディ。なんならそっち行く。いい?」
少し間が空いた。
『そうだね。フェルは『連絡するな』と言った。君の方から押しかけて来るんなら拒む理由は無いな。いいか、僕は君を呼んじゃいない。気がついたらノックされて僕は起きた』
「分かった」

電話を切った。さっきのキス。フェルの心配。エディの含みのある言い方。寝れるわけない、こんなんで。

 エディの部屋をノックした。すぐに開いて人差し指が口に立っていたからそっと中に入った。エディは一人じゃなかった。

「間が悪いことにさ、ついさっきロイが来たんだよ」
あ、俺の苦手な人だ。
「やあ、君も気になった口?」
「気になった?」
「フェルが釈放されたからね。あれだけ動きの速いフェルのことだ、次のことに手を出してるんじゃないかってエディと話をしようと思って来たんだよ。そしたらもう一人来てからじゃないと話さないっていうからさ」
「2回も話すの、面倒だからね」
「お前のそういうとこ、ムカつく」

仲いいんだ、この二人。そうじゃなきゃ、こんなこと面と向かって言えない。

 

「じゃ、ささっと話すよ。今日フェルが来た」
「え、いつ? そんなヒマ、無かったはずだけど」
「10時ごろ。20分位喋って帰った」

じゃ、リンダが見たのはその後。フェルが病院に帰ってからだ。

「フェルとの約束が一つある。明日の昼まで、僕からは誰にもこのことを連絡しない」
「え、じゃ、明日の昼まで話はお預け?」
「違うよ。フェルが言ったのは、僕からは連絡しないっていうことだけだ。こうやって直に聞きに来られたら話は別。彼らしくないミスだよね。多分もうすぐ片が付くってことで気が緩んだんだろう」
「で、何しに来たんだよ。それ早く言えよ」
「消えたオルヴェラの関係者のリスト。それをくれって。だから賃金台帳を覗いて印刷したんだ」
「またクラッキング?」
「ま、そうとも言う」
「お前、いつか引っかかるぞ」
「そんなバカはしない」

 

 俺、こういう友だちが欲しい。そう思った。結構俺もマニアックな話ばっかで、大学でも浮きまくるんじゃないかって心配してる。MITは変なヤツ多いから大丈夫なんて、変な慰めシェリーに貰ったけど、やっぱ友達が欲しい。

「それって……オルヴェラはリッキーを狙ったって考えれば話が繋がるな」
「繋がる?」
「そう。間の事情は全部すっ飛ばして考える。なんでフェルがそんなリストを欲しがったか。逃げ込む相手を探すために決まってるだろ? でも普通ただの友だちじゃそんな危ないヤツは匿わない」
なんか、ロイって人も凄い。
「だから相手は関係のある男ってわけだ。リッキーを狙ったならゲイだからな」
「なんで分かるの?」
「俺もそうだから」
返事、いるか?
「今夜はもうフェルは寝てるんだな?」
「うん、リッキーのとこ」
「じゃ、明日だな。ビリー、君に仕事が出来た」
「仕事?」
ロイから仕事って……
「フェルの携帯、GPSを起動しておいてくれないか」

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