宗田花 小説の世界
Fel & Rikcy 第4部[ LOVE ] 2.水
「フェルはどう?」
ハーブがあるからおいで そう言われて、バイトも出来ない、買い物も出来ない俺はほいほいシェリーんとこに出かけた。
「シェリー、こんな遠回しじゃなくって聞きたいことがあるってはっきり言えよ」
ホントは言われなくっても分かってるけど取り敢えず言ってみる。ハーブの入った小さな籠がデスクのすぐそばのチェストの上に載っかっていた。結構たっぷり入ってる。
シェリーの目が余計な事よりって言ってるから俺も遠回りに返事を遅らすのを止めた。
「変わんねぇ、あのまんまだ。もう少し時間くれよ」
「じゃ、外に出ないのね?」
頷くしかない。
「自分からは出ようとしねぇ。昨日なんとか誘い出したんだよ、久し振りの買い物で俺じゃ何も持てねぇし。無事に買い物は出来て寮まで帰って来たんだけど、たまたまこっち向いて笑ったヤツがいたんだ。でもそれ、俺のこと笑ったわけじゃなかった。なのにあっという間にフェルの顔色変わっちまって。殴りかかるんじゃねぇかって、慌てて寮ん中に引っ張り込んだ」
「部屋の中での様子は?」
「暗い顔はしてねぇよ」
「フェルがまともな時はどんなことやってるの? 何もしない?」
「家事、手伝ってくれる。一緒に掃除とか料理……ひでぇもんだけど、そういう時は普通だよ。あと……セックスん時」
「リッキー!!」
「シェリーが聞いたんだ、部屋で何やってんだって」
俺の顔はニヤケてたに違いない、顔が崩れちまうんじゃないかって心配になるほど真っ赤な顔して怒ってる。意外とシェリーってこういう話が苦手なんだ。ちょっと可愛くて笑っちまうからまた怒られるんだけど。
「あんた、わざと言ったでしょ! 今度そんなこと言ったら許さないからね!!」
さすがにこれ以上は怒らせちゃなんねぇ、何ももらえなくなっちまう。
「とにかく、まだ外に一人で出したくねぇんだ」
「それって逆効果なんじゃないの? 外の空気吸って、人と触れ合って」
「シェリー見てねぇから、外に出た時のフェル。俺に近寄るやつみんなぶっ殺しそうな顔してる」
シェリーの顔が曇った。俺もおんなじ気持ちだ。
「あの次の日からずっと笑った顔してる……シェリー、俺、怖いんだ。フェルが元に戻るのかどうか分かんなくって」
「あんたがこうやって外に出ることには抵抗無いのかな?」
「何も言わねぇんだ。今もシェリーんとこ行ってくるって言ったけどただ『うん』って言うだけで」
シェリーが立ち上がった。
「分かった! 私、今からあんたと一緒に行く。待っててもしょうがないし。何とかしよう!」
もらったハーブを持って外に出た。
「リッキー! 今お前んとこに行ったらいないから。やっぱりシェリーのとこか」
「タイラー、ごめん。俺、フェルと一緒に謝りに行きたくて…」
「そんなのいいのに」
「でも、部屋にフェルいるはずなんだけど」
「何も反応無かったよ」
いやな予感がした。
「俺、先に行く!」
「待ちなさい! あんたまだ走っちゃダメ!!」
タイラーにガシッと腕を掴まれた。
「待ってろ、車取ってくる。走ったって30分近くかかるぞ、今のお前じゃ」
タイラーを待ってる間に何度か電話をかけた。出ない……。
「どうなの?」
「出ねぇよ、なんかイヤな予感するんだ」
そこにタイラーの車が来た。
「どこかに出かけたとか?」
「それはない。フェルは俺がいねぇと外に出られねぇんだ」
「そんなに悪いのか?」
「俺が退院してから1回も自分一人で出てねぇよ」
「今度みんなで飲みに行こう! 俺たちでガードしてやりゃいいさ。お前たちの中にある複雑怪奇な事件もろもろに俺たちは首を突っ込む気はないんだ。言いたけりゃ言えばいいし。聞くしか出来ないだろうけどな。でもフェルのことは何とかしたい。そう思ってる」
いい友だちを持ったよな……これでお前があのもう一人の自分から解放されたら最高だよ。そう思わねぇか?
車が止まってシェリーが止めるのも聞かずに部屋に走った。鍵を開ける。水の音……水? バスルームにフェルがいた。頭から水を浴びてる、服着たまんまで。湯気が出てねぇ……。
「フェル! お前、なにやってんだよ!!」
包帯が濡れるのも構わずフェルを引っ張り出した。
「あ、お帰り、リッキー」
「お帰りじゃねぇよ、なにやってんだよ!」
「こうしてると余分なものが全部消えていくんだよ。お前が言ったじゃないか、僕の中に違うもんがいるって。今それを捨ててるんだ」
ゾッとした。訳分かんねぇことを言ってる。フェルがここにいない……。
「な、俺のこと分かってるよな?」
「もちろんさ、お前は僕の奥さまだよ」
後ろでシェリーもタイラーも声が出ずに見てるのが分かる。でもそれどころじゃない、今日のフェルはひどい……。
「いつも水浴びてるとすっきりして要らないものが消えていく。お前が心配するようなことじゃないんだ。父親のことだとか、アルのことだとか、オルヴェラのことだとか、全部もうどうでもいい。お前がいればそれでいいんだ」
「……いつも水浴びてたのか? 考えたい時」
「ああ。そうしてると自分が何をすればいいのか分かってくるんだよ」
「こんなに冷えちまって……」
「浴びてるうちにそんなのは消えていく。寒いとか冷たいとか痛いとか」
「お前……解ってんのか? 自分のやってること。それ、親父が水ん中に浮かんでたのが原因じゃねぇのか?」
思い出した、レイプの後の時。フェルは俺がシャワー室にいるっていう夢を見ていた。やっぱり水だ。
「リッキー」
後ろからの声に俺は舌を噛み千切りたくなった。シェリーがいたじゃねぇか! 聞かれちまった……。
「シェリー? なんで!?」
「フェル、話してごらん。聞いたげる。全部話して」
「シェリーは何も知らなくっていいんだ!」
「大丈夫よ。あんた、勘違いしてる。私が何も知らないとでも思ってたの? 知ってるの。だから話して、あんたの思ってること」
「アルが……あのヤローが喋ったのか!?」
「違う。私が自分で調べたの。分かってるでしょ? 私のこと。そういうことを放っておくわけないじゃない」
「じゃ、アルが川に突き落としたことも?」
「知ってるわ」
シェリー……知らなかったんだな? きっと何も知らないんだ。今初めて聞いた話なんだろ? だってその小さな手、震えてるじゃねぇか……。
「フェル、シェリーは」
「黙ってらっしゃい、リッキー!」
ビシッとした声だった。俺は何も言えなくなった。
「フェル、可哀想に独りで苦しんで来たのね。でも私はあんたと双子よ。私に隠しちゃだめ。他の誰よりも言ってくれなきゃ。ううん、リッキーの次でいいから。でも一人で持ってちゃだめなの」
フェルのシェリーを見る目が力無くって、俺はバスタオルを取りに行った。見てて辛い……。でも俺が逃げちゃいけない、シェリーも助けてくれるんだから。後ろから上着を脱がせて頭を拭いてやった。タオルで包み込む。
「シェリー、待ってて。着替えさせてくるから」
シェリーは俺の目を見て頷いてくれた。その顔は蒼かった。
「ほら、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だ」
「バカだな、こんなことすんな」
「うん、しない。なぁ、ちょっと抱きしめてもいい?」
ここんとこずっとこんな調子だ。セックスしてるとホッとするみたいで。
「今はだめだ、シェリーたちが待ってる」
「少しだけ。な?」
俺は抱きしめるって言うより、ハグをしてやった。俺の肩にフェルの濡れた頭が乗っかる。
「ごめん、お前が濡れるのに」
「いいんだ。俺は大丈夫だから」
乗っかってる頭にキスをする。フェルが大きく息を吐いた。
「ごめんな、フェルが落ち着かなくって」
「いいのよ。何かあったかい飲み物あげて」
「ココア入れるよ。飲む?」
シェリーが頷いた。二人にココア渡してタイラーにも渡そうとしたら手を上げた。
「俺、帰るよ。聞いていい話だと思えないし」
タイラーは大人だ。家庭持ってるヤツはやっぱり違う。廊下に一緒に出て送ってもらった礼を言った。
「悪いな、フェル元気になったら必ず行くから」
「焦るなよ、こういうことってゆっくりやるんだぞ」
「分かってる。前にもあったから」
「……そうか。何かあったら言え。お前たち、俺たちにとっちゃ特別な友だちなんだ」
その言葉に涙が出た。
「おい、お前が泣くな。じゃな、連絡待ってるから。当分家出すんなよ」
「うん、しない」
俺の肩を叩いてタイラーは帰って行った。
「フェル、最初っから全部話して。あんたと私と知ってるのが同じかどうか知りたいの」
いつもならフェルは頭が回るんだ、こんな言い回し相手にしねぇで先にシェリーに喋らせようとするだろう。でも今のフェルにはそういうことが出来ねぇんだ……。
フェルはぽつぽつと喋り始めた。きっと長いこと抱え込んできた心の傷。
「13の時だった、僕がそれを教えられたのは。元々僕とアルとは反りが合わなかった。でも僕はそれでもアルに憧れてたんだ。何やっても敵わないしいつもクールで。僕から見たらいつもアルは大人だった。けどある日突然アルの目の中にあるのは憎しみだけになっていた。まるで穢れた物を見るように僕を見るようになってた」
シェリーがフェルの左手をしっかり握ってる。俺は右側に置いた椅子に座って右手に手を載せた。
「そいつの所に引きずられて行ったのは雨の日だった。土砂降りで。その男がバーから出て来るのをアルは待ってた。何度も聞いた、何を待ってるのかって。でも何も答えなくて。それでも聞いたら『お前の父親に会わせてやる』って鼻で笑われたよ」
それを聞いてもシェリーはピクリともしなかった。
「僕はもちろん母さんがレイプされたのを知っていたし…訳が分からなかった、アルの言ってること…『お前はそいつにそっくりだよ。さすが父子だよな』そう言われた」
震えてるのを感じたからブランケットを持ってきて体を包んでやった。ちっとも体があったまらねぇ……。
「そいつがバーから出て来た時……」
言葉が止まった。これ以上話すのは無理だ、そうシェリーに言おうとしたのをシェリーに先を越されちまった。
「フェル、全部。全部言うの。心の中に溜まってたんでしょ? 言っちゃいなさい」
「……似てたんだよ、鏡の中の僕に。思わず言ったんだ、『あれがお父さん?』」
認めたくなかったろうに…お前の中じゃそいつは憎まなくちゃなんねぇ対象で、だから『お父さん』なんて口が裂けても言えなかったはずだったろうに。
でもな、思わずそう言っちまったのはやっぱお前、一瞬嬉しかったんだよ。だから余計辛かったんだ。
「その瞬間僕はアルにそいつの足元に突き飛ばされてたよ。『あんたの息子を連れてきてやった、こいつを連れてどっかに行っちまえ!!』って。『フェル、お前の親父だ、良かったな』 僕はゾッとした、アルは本気だった。僕を母さんから引き離してこいつに渡す気なんだと分かった。僕は土砂降りの地面を後ろ手に這いずって……そいつから離れようとしたのをまたアルに蹴り飛ばされたんだ」
土砂降り……また水だ……。
「そしたら…そいつが言った、『お前、俺のお袋に似てるな』 アルに向かってそう言ったんだよ」
シェリーの目が空中に泳いでる……
「もうやめねぇか、充分だろ、やめよう」
「リッキー、やめるわけには行かない。分かるでしょ? 全部今ここでフェルにはお終いにしてあげるの。これは姉の役目よ。お願い」
シェリーが…泣いてた、声出さずに。頬っぺたが濡れて……。
「そいつはひどく酔ってて……」
『ああ、あいつのガキか、お前ら俺とあいつのガキってわけか? 元気にしてるか、母ちゃん。ありゃいい女だった。忘れらんなくって二度も行っちまったがまさか二度ともガキが出来てるなんてな』
「笑ったんだ、そいつ。僕は悪い夢を見ているようで何も……」
震えが止まんねぇ体を抱きしめた。目を閉じたまんま喋ってるフェルが少し息をついた。
「でもその雨が気持ちよくて。母さんに僕がひどく悪いことしてるような気がしたけどそれを洗い流してくれてるような気がして。気がついたらアルはいなかった。見回したらそいつが僕に10ドル渡そうとして…『小遣いだ、これで帰れ。今さらガキなんか冗談じゃねぇ。それよかまた行くって母ちゃんに言っとけ』……金捨てて殴りかかったけど逆に殴り倒されて。僕はそいつに何も出来ないまま歩いて帰った……」
「アルと……私たち3人兄弟…なのよね。知ってたから。だから安心して話しなさい」
「『また行く』そう言われたから僕は何度もそいつを見張りに行ったんだ。見張りに行ってただけだったんだ……けどアルはそう思ってなかった。『そんなに会いたいのか、やっぱり親子だな』」
他人なら憎み返して済む。けど13のフェルに何が出来ただろう。
「ある日見に行った時そのバーの近くの橋のところで騒いでいて……人が死んでるって。引き上げられたらそいつだった。僕はホッとしたよ。これで終りだ、母さんも安心だって」
元々上手く行ってなかった二人。縺れに縺れてこうなっちまったんだよな。誰が悪いってあるんだろうか。全部その男が悪いに決まってんのにアルは憎しみの矛先をフェルに向けちまった。
「帰ったらアルが笑って言ったんだ。『これで後はお前だけだな。分かってるか? 母さんに笑い返すお前を見ると虫唾が走るんだよ。お前を見る度に母さんは何度もアイツに犯されるんだ』 後は……何を言われたか覚えてない。ただ、母さんを悲しませないようにしたかった。普段と変わらない僕を見せておきたかった。アルも母さんのいるところじゃ何もしないし言わない。だから表向きは何も変わらなかった」
「どうして私が姉だって知ってるって言わなかったの?」
「シェリーまで僕と同じレベルに落ちる必要なんか無いんだ…そいつに似てるのは僕だけなんだから。それに…シェリーにまで嫌われたくなかった…僕の顔を見る度にアルみたいな顔されたらって……」
シェリーに嫌われんのが怖かったんだ……。独りになりたくなかったフェル。
「バカだ、あんたは。いつも自分だけで抱えちゃって。私にもあんたにもそいつはただの他人よ。いい? アルはバカだからいつまでもそいつを引きずってる。あんたまでつき合う必要無いんだからね。少なくとも私とあんたの間には何もわだかまり無いって理解して。いい?」
「軽蔑……しないの?」
「なんで! どこを? 似てるから何なの! あんたはあんた。私の大事な弟。大事な大事な弟。今気持ちが迷子になってるんだろうけどちゃんと帰っておいで。みんな待ってるのよ、あんたのこと」
「僕は…今どうしたいんだか自分でも分からないんだ、どうやったらきれいになれるんだ? どの僕が僕なんだよ!」
「俺と一緒にいりゃ分かるさ。だって俺が一番フェルのこと知ってんだからな。ぶん殴ってでもホントのお前を引きずり出してやるよ」
シェリーがやっと笑ってくれた。
「フェル、あんたはもう過去なんか追っかける必要無い。追われる必要も無い。誰もあんたを責めないし、それどころか大事に思ってるのよ。家族はみんなあんたの味方。ジーナはそれを知ったらショックは受けるかもしれない。けどね、きっとあんたのこと、なんとも思わない。私にははっきり分かるよ」
「母さんに知らせる気!?」
「バカ、そんなことするわけないじゃない! そしてあんたは扶養者で、リッキーという奥さんがいるでしょ? いつまで奥さんほっとく気なの? あんたを心から愛してる人たちのこと、思い出しなさい。そして仲間たち。あんたはたくさん宝物を抱えてるじゃないの!」
俺に体を預けていたフェルが座り直した。
「シェリーは本当に何とも思ってないの?」
「何とも? 思ってないわけないわよ! いろいろ考えたし考えるわよ。でもね、ここにいるのは私のための私。私って言う存在は誰かのためにあるんじゃない。まして、あんたにはリッキーがいるでしょ? あんたの存在はあんただけじゃなくて、リッキーのものでもある。自分の存在を否定するヒマがあったらリッキーを大事になさい。まともな料理作って、まともな洗濯して、リッキーの役に立てる自分になりなさい。今のままじゃ、あんた夫として失格」
俺に向けた顔ににやっと笑ってやった。
「俺、いまだお前にまともな料理食わせてもらってねぇよ。ちゃんとしたシャツも出してくんねぇし。俺の手、まだよく動かねぇんだからさ、助けてくれよ」
俺の手をそっと握ったフェルの目が大きく見開いた。
「濡れてる! リッキー、包帯、濡れて」
「あんたが濡らしたのよ。あんたが水浴びごっこしてる時にリッキーはあんたをその中から引っ張り出したの。いい歳していい加減になさい。水浴びたらまともな自分になると思ってるなら、あんた、バスルーム背負って歩かなきゃなんないわよ」
フェルの目からぽろっと涙が落ちた。帰って来て一度も泣かなかったフェルの目から涙が流れる。
「あんたはとっくに自由よ。それに気が付かなかっただけ。オルヴェラは単純に悪いヤツだった。あんたが勝手にそこにあれこれ引っ付けて膨らませたの。でも気が済んだでしょ? あれだけ完膚なきまでやっつけたんだから。あいつどうなったかしらないし、知りたくもないけど、リッキーの前からあいつを取っ払ったのはあんた。いいじゃない、それで」
「なんか、シェリーにかかっちゃどんなことでもシンプルだな。俺よりシェリーの方が奥さんみたいだ」
「冗談でしょ! こんなおバカさん、弟で充分よ。夫だなんて真っ平御免よ」
「二言目には、バカ、バカってなんだよ」
やっとフェルに笑顔が浮かんだ。
「悔しかったら私より成績上になってごらんなさい」
「トップのシェリーに追いつけるわけ無い…リッキー、ごめん。僕は自分のことしか考えてなかったみたいだ」
やっと目が覚めたようなフェルを見て俺は……
「やだ! なんでリッキーが泣いてんのよ!」
「フェル、帰って来た……俺んとこに帰って来たよ……」
「リッキー……心配かけた…悪かった、本当に」
「いいんだ、フェルが戻ってくれただけで、俺……」
「ね! 私まだここにいるから! 忘れないでくんない?」
俺たち、慌てて離れた。そうだった、シェリーがまだいる。
「もしフェルが大丈夫になったら、ディナーに私たちを招待しなさい。フェル、あんたの腕前に期待しておくわ」
「シェリー! そいつは無茶だ!!」
「なんだよ、リッキー。OK、シェリー。もう少し時間くれよ。そしたらディナーにみんなを呼ぶよ。そう伝えてくれる?」
「分かった。みんな喜ぶわ」
「シェリー、俺の手戻るの待てよ」
「それじゃいつになるか分かんないでしょ」
「でも破壊的な料理食うよりましだろ!?」
「リッキー!! 言い過ぎだよ、経験積んだんだし僕にも出来るよ」
俺は頭抱えた。なんだってこんな目に遭わなきゃなんないんだよ。
「リッキーが監督すればいいじゃない」
それで済むなら今までも苦労してねぇ……。
「材料なら少しはいいのを回してあげる。時期が決まったら教えてね」
「シェリーも手伝って…」
「私はゲスト! 間違えないで」
「……じゃ、みんなに薬用意しとけって言っといて」
「なんでそんなに信用無いんだよ!」
「かけらもねぇよ、料理に関しちゃ! 今夜から特訓だかんな」
シェリーは楽しみにしてるって言って帰った。結局割りに合わねぇのは俺なんだ。