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Fel & Rikcy 第5部[ 帰国

4.繋がらない電話

  # Eddy #

「タイラー、リッキー達そっちに行ってる?」
『いや、来てないよ。どうした?』
「シェリーに11時頃聞かれてさ、二人に連絡が取れないって」
『休みだしデートに出かけたんじゃないのか?』
「でも二人とも携帯が繋がらないんだ。それは変だろ?」
「確かにな……うーん。他の連中も聞いてみたらどうかな、何か知ってるかもしれない』
「イヤな予感がするんだよ」
『どんな?』
「連絡取れなかったら後で話す」

 タイラーがロイとレイに聞いてみるって言ったから僕はロジャーにかけてみた。ロジャーも何も知らないという。シェリーはビリーに聞くと言っていた。

「シェリー、どうだった?」

『ビリーは知らないって……エディ、ホントに何も知らない? 私、すごく不安なの』
「ちょっと考えられることがある」
『なに!?』
「シェリー、みんなも呼ぶから僕んところに来てくれる? そこで話すよ」

 

 途絶えたことの無い二人の携帯。その意味することは何だろう? この前夜中にフェルと喋った時には変わったところは無かったと思う。けれど……

 

 30分もしない内にみんなが集まった。タイラーはシェリーを車で連れてきてくれた。
「何があったんだよ、俺も電話したけど繋がらなかった。フェルが電源切ったことなんて今までに無かったぞ」
真剣な顔でレイが言う。
「留守電にさえならない。おかしいよ」
ロイは一番リッキーとのつき合いが長い。ま、つき合いの内容は……フェルに悪いからやめとこう。

「誰が一番最後に喋ったの?」
「シェリーじゃないのか?」
「私、ソロリティでやるパーティーのことで忙しかったのよ」
「多分僕だと思うよ。4日前の夜中に喋ってる。誰かその後いる?」
「夏休みだしな、あちこち行ってたよ。明日俺たちも男どもで集まるから来たんだ」

「じゃ、ここまでの経過を話すよ。シェリー、君は特に気を落ち着けて聞いてほしい。途中からは僕の推測になるから」

シェリーには水を用意して一番楽な椅子に座ってもらった。みんなが固唾を飲んで僕を見る。

 

「リッキーの父親が暗殺された、兄さんのエミディオって人もだ。犯人は長男のビセンテって男だと言われてる」
「長男が家族を殺したのか!?」
「なんて家だよ!」
「レイ、ロジャー、最後まで聞いてくれよ。つまり今クーデターが起きているんだ。フェルはそれをリッキーに話した。今あの国はえらいことになってる。僕はずっとニュースを追ってたんだけど、あそこはリッキーの父親が実権を握ってたから良くも悪くももっていたんだ。今軍はガタガタになっていてギャングが横行し始めてる。ビセンテは父親を殺したけど後始末が出来るほど有能じゃないんだ。多分周りに踊らされたんだろう」

 シェリーは目を見開いたままだ。

「警察は?」
「あの国じゃ警察は無いようなもんだよ。ギャングに金もらって生活してる。警察官自身の安全もそのお蔭で保たれてるってわけ」
「ひでぇ国だな」

黙って聞いていたシェリーの顔が白くなっていく。

「エディ、まさかあの二人……」
「うん。連絡が取れないってことは」
「そんな国に……向かった?」
「その可能性は高いよ、ロイ」

しばらく沈黙が漂った。

「どうしたらいい? 何が出来るんだよ、僕たちに!」
「落ち着けよ、ロジャー。それを今から考えるんだ、冷静にね」

シェリーが立ち上がった。
「どうしよう……どうしよう!!」
こんなシェリーを見たのは初めてだ。混乱しきってるのが伝わってくる。
「落ち着くんだ、シェリー。まだ決まった訳じゃない、可能性の話だ」
「エディ、どうしたらいいの!? 一体何が出来るって言うの? どうしよう、フェル、死んじゃうわ!」

 その言葉を聞いて僕らは事の重大さを実感した。生きる、死ぬ。この前のオルヴェラの事件とはまた違う。クーデター、ギャング。加えて他国。たとえ二人がどうなったとしても僕たちは知りようが無いんだ……

「やれる限りのことをやろう。どこまで出来るか分からないけど。ロジャー、ロイ、僕らはリッキーの国マル・イ・ソルまでの経路を考えよう。タイラー、レイ、シェリーと一緒に最近の二人の動きを調べてくれないか? 僕らは丸3日遅れを取っている。急いで頼む」 

 

 残念ながらマル・イ・ソルまでの経路は幾つもあった。あの国に行くにはメキシコを通過しなけりゃならない。けれど国境を渡る場所も何ヶ所もある。
 飛行機は絶対使っていると思う、メキシコまで遠過ぎる。メキシコからマル・イ・ソルまでだって遠い。けどフェルがそんなに安直な方法を取るだろうか? 僕らが動き出すことなんてお見通しだろう。少なくともボルチモア ワシントン国際空港は使っているだろうと思う。そんなに時間の無駄をするとも思えない。いつまでここにいたのか。せめてそれが確定できれば……

 夕方タイラーから電話が来た。
『エディ! シェリーが倒れた!!』
「え!?」
『さっき一緒に隣のニールから話を聞いたんだ。一昨日リッキーがしばらく留守にするからって冷蔵庫の物をかなりの量くれたそうだ。シェリーが寮長のアシスタントに鍵を借りてきて中に三人で入ったんだ。そしたら……』
「そしたら?」

先を聞くのが怖い。こんな思いをするのは初めてだ。

『荷物が全部片してあったんだよ、服もな。段ボールやケースにまとめられていた。冷蔵庫も空だ。テーブルにブレスレットが2つあってメモがあった。一言だよ、「シェリー、これを預かっていてくれ」』

これで確定だ。二人はマル・イ・ソルに行った。

 

「一昨日の何時ごろだ? ニールとのやり取りは」
『夕方の6時ごろだったらしい』
「分かった。シェリーは?」
『レイ! シェリーはどうだ!?』
何か言ってる声がする。
『今気が付いたみたいだ。いったんそっちに行くよ』

 一昨日6時ごろ。
「ロジャー! 一昨日の夜、8時過ぎの空港出発便の乗客名簿を調べる!」
「危なくないか?」
「そんなこと言ってられない、ロイ。聞いたって空港は教えちゃくれないんだから。大丈夫、上手くやる」

 

 タイラーたちが家に着いた頃には僕らはメキシコ方面への乗客名簿を全部打ち出していた。あれこれ言わずに僕はみんなにその名簿を配った。もちろんシェリーにも。
「そのリストの中に二人を探したい。もしかしたら違う名前で乗ってるかもしれないけど遠い席のはずが無いと思う。だから探してくれ」

 シェリーには喋らせたりせずに何かやらせた方がいいんだ。みんな真剣に名前に目を凝らす。何人か候補は上がったがどれもピンと来ない。

「おい、これはどうだ? フェルナンド・ヘイワード、リック・ヘイワード」
レイの声にみんな顔を上げた。
「それよ! きっとそうだわ!」
「どこ行きになってる?」
「サンアントニオだ」

今度はサンアントニオからの乗客名簿を探したけど二人らしい名前は浮かんで来ない。

「もし飛行機を使わないとしたら陸路しかない。ノーチェックで国境越えが出来る場所がある。サンアントニオからならエルパソだ。そこまでならバスになる。けど……バスじゃもうこれ以上は追えない」

 

 シェリーが泣き崩れた。みんなからは声も出ない…… シェリーの肩を抱いた。
「ごめん。本当にごめん。これ以上やれること無いんだ……ノーチェックってことは、エルパソで二人を止める手段は無いんだよ。ビザも何もチェックしないんだから」
「俺たちは……ただ待つしか無いのか……」
「二人が連絡を取る気持ちになるのをね。でもタイラー、多分あの性格じゃ」
「連絡してくるわけ無い」
「そうだね。その通りだと思うよ、ロイ」

みんな呆然としている。

「シェリー、送ってくるよ」
「いや、タイラー、今シェリーを一人にしない方がいい」
「じゃどうするんだよ」

レイも不安で堪らないんだ。何もできないことにみんなにも失望感が生まれ始めている。
「しばらくここで落ち着かせるから。その後僕が送るよ」

 みんなもショックだったんだろう。頷いて部屋を出て行った。あの事件の時にはみんなやれることがあって、そしてそれが結果に結びついた。けれど今回はここで行き止まりだ。ただ二人の無事を祈るしか無いんだ……

 

 泣き続けるシェリーの肩をただ抱きしめていた。大丈夫とか、きっと無事に帰ってくるよとか、そんな白々しいことなんか言えない。だからただ無言で抱いていた。

「エディ、エディ、エディ……きっと帰ってくる……きっと二人は無事に帰ってくるわ……」

「そしたらぶっ飛ばそう」
「ええ、ええ、そうよ、悪いことなんか起きるはず無いわ……」

 どうしてそんな気持ちになったんだろう…… 僕は肩に置いていた手を下ろしてシェリーを抱きしめていた。僕の背中にシェリーの手が縋りつく。見下ろす目と見上げる目。シェリーが自分の唇を押しつけてきて……僕は……それに応えた。長い長いキスをする。

 ハッとした、シェリーは心細くなっただけだ。そうに決まっている。

「ごめん、シェリーは女の子がいいのに。ごめん」
「違う、違うの。そう……言ってた方が楽だったから……違うのよ、エディ。だから謝んないで」
……じゃ、今のキスは……?

「今の……え? シェリー……」
「エディ、私、あんたが好き。ずっと好きだったんだと思う。あんたの気持ちは知らない。でも今だけでいい、こうしていて。私こんな風にフェルと離れるの……初めて……」

 泣き始めたから僕はシェリーの顔を押し上げた。震えるシェリーにまた口づける。少しずつ落ち着き始めるシェリーに、僕はどんな気持ちを持っているんだろう。

「シェリー。今日は落ち着くまでここにいていいよ。ずっといても構わない。帰りたくなるまで」

もう一度抱きしめて地図を見直した。
「これを調べたからって何も変わらないと思う。けどシェリーは知りたいよね? ほんの少しの情報でも」

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