Fel & Rikcy 第5部[ 帰国

7.出来ること

  # Sherry #

 昨日は9時過ぎまでエディの所にいた。勢いとは言え、ついに告白してしまったエディへの思い。正直愛してるなんてまだ言えない、だって好きだと思ったばかりだし。
 エディがどう思ったのか知るのも怖い。自分が女性としては評判悪いことくらい分かってるし。それに周りの目だってある。今さら男性を好きになったなんて通るわけない。だからエディには申し訳無いことをしたのかもしれない。

 今日は一日泣いてた。フェルを知ってから本当の意味で離れたことは無い。いつも優しかったのは姉だと分かっていたからなんだ。それも私を傷つけないために黙っていた。
 フェルのことを考えるといつも切ない気持ちになる。しっかり血が繋がった兄弟だから。双子なんだから。あの子を支えられるほどの姉になりたかった。だからずっと私は頑張って来たんだ。けど……

 本当に何も出来ない? もうどうすることも出来ないの? リッキーを恨みたくなんか無い。いつの間にかあの子も私の中じゃすっかり弟になってしまっている。大事な存在に。

 でももしフェルに何かあったら……リッキーだけ無事に帰って来たら……自信が無い、自分を抑えることが出来るかどうか。

 

 何も? 何も本当に出来ない? 何度目かの繰り返す自問。考えて、シェリー。二人は偽名で飛行機に乗った。じゃ、偽のパスポートを使っている。

 エディとフェルが話をしたのは4日前。事件が起きたのはそれよりちょっと前だった。じゃ、どうやって偽のパスポートを用意したの? ちゃんと飛行機に乗れたってことはプロが作ったってこと。フェルが関わる相手でそんな人、いた? 私の知らないところでそんな付き合いがあったんだろうか。

 不意にビリーの話を思い出した。『売人の車を爆破』17にもなってなかったフェルにどうしてそんなこと出来たんだろう。誰かいる、フェルが付き合った仲間にそういう裏事を教えた誰かが。

 ビリーに聞く? いえ、それはダメ。理由が必要になるし、きっとジーナに筒抜けになる。私でさえこんな状態なのにジーナが知ったら……
 そういう関係を知っていそうな相手。他に話を漏らさない相手……


 支度をして飛行機の時間を見た。もっと早くにそれに気づけば良かった。けど今日は泣くのに忙しかった。明日の早朝じゃないと飛行機が無い。鉄道にしようか……迷っている時にノックが鳴った。

「ごめん、遅い時間に。エディだけど」

一瞬どくんと鼓動を感じた。

「どうしたの? 入って」
「いや、遅い時間だしここで。その、どうしてるかなって思って」
「心配してくれたのね、ありがとう。連絡取らないでごめんなさい」

なるべくぎくしゃくしないように話した。だって……やっぱり冷静になると恥ずかしい。

「どこか行くの? 出かける格好だね」
「ちょっと……でも行く手段が無いから考えていたところ」
「遠く?」
「うん」
「こんな時に出かけるなんて……フェル絡みだね?」

エディには何でも分かるんだと驚く。本当に深い所までいつも冷静に考えている。
「ね、入って。私の考えを聞いてもらいたいの」

 躊躇しながらやっと入ってくれたから、エディは紳士だと思った。コーヒーを出して、私はさっきの考えをエディに話した。なぜかエディには何でも話してもいいような気がしてくる。

「なるほどね。じゃ、ブロンクスでの知り合いってことだね? 爆破、偽造パスポート。年齢から言ってそんなに簡単にギャングにコネがあるとは思えない。君も知らないんだろう? フェルの友だちに聞くつもりだったの?」
「兄に……」
「兄?」
「ええ、アルバートという長男。彼なら裏の話を何でも知ってる」
「お兄さんか。電話とかは?」
「そうはいかないの……エディ、時間大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ」
「誰にもこういう話をしたことが無くって……もし……もし良かったら聞いてほしい、長い話になるけど」

その次にエディのした行動に驚いた。エディは私の手を両手で優しく包んでくれた。
「君の話、聞きたい。もし力になれる部分があるのならなりたい」

 

 これまでのことを話した、いつの間にか泣きながら。小さい時の話。ジーナのこと、フェルのこと、アルのこと。

「すごい……話だな……改めてその中で生き抜いてきたフェルを尊敬するよ。彼はずっと戦ってきたんだね、いろんなものと。まさかレイプまでされていたなんて思いもしなかった」
「私、話し過ぎたかもしれない……」

エディは首を振った。きちんと私の目を見てくれている。

「僕は聞いて良かったと思うよ。フェルとリッキーの繋がりって、どう見てもただ事じゃない。けど全部納得いった。今も二人で戦っているんだ、必死に。僕は今回の二人のしたこと、正直言って理解できなかったよ。オルヴェラの時もそうだったけど。いくらリッキーの家族が亡くなったからと言って、危険を冒してまで行く必要があるのかってね。落ち着いてから行けばいいじゃないかって」

その通りだと思う。誰もがそう思うだろう、よく考えて行動しろって。

「けど、違う。そういう問題じゃないんだね。会えない、戻れない状況にあったからまだ我慢できた。今行かなきゃリッキーは何年も待つことになるだろう。今のリッキーに待てるわけ無いんだ、お父さんが自分を殺そうとしていたということを知らないんだから。フェルはそれをリッキーに言えなかった。だから止めるんじゃなくて一緒に行った。リッキーを独りにしたくないから。フェル、死ぬ覚悟をしてるね」

 

 聞きたく……ない言葉だった。でも、私もどこかで認めていた。フェルは無事に帰れるなんて思っていない。だから部屋の荷物を片付けて行った。だから……二人分のブレスレットを置いて行った、私に。
 あれは……涙が止まらない、あれは
「あれは、形見だったのよね、あのブレスレット。二人がいたんだっていう証。私とお揃いのブレスレットを置いて……」

エディが抱きしめてくれた……
「いいんだ、我慢しないで。今は泣いた方がいい。こうしてるから泣いて」

 エディの胸が濡れていく。とうとうしがみついた。声を上げた。背中をずっと撫でてくれるエディ。うんと優しくゆっくり体を揺すってくれる。

 

 不思議だけど落ち着いて行った。いつの間にか声は収まって、涙も止まり始めた。
「ありがとう。私、みっともないわね」
体を離した私をぐっと引き寄せてエディの深いキスをもらった……長いキスを。

「僕もシェリー、君が好きだ。良かったら僕ら……付き合ってみないか? シェリーが困るなら無かった話でいいから」
「エディ、困らないの? だって私の評判は……」
「君の評判とつき合うわけじゃないよ。僕はシェリーという女の子とつき合いたいんだ」
生まれて初めて女の子になった……え、女の子? 私?

「うるさい女よ」
「可愛いと思うけど」
「すぐ皮肉言うし」
「君の皮肉は気が利いてるよ、いつも」
「……きついし」
「僕は多分負けないよ、君に。イヤってこと?」
首を振った。
「うれしくて……初めて、こんなこと。まともな恋愛も今までしてこなかった。本当に初めてなの」
「僕も恋愛初心者だよ。今までコンピューターがあれば良かったんだから」

もう一度キスした。ホッとする、エディの胸は。

「さて、タイラーに車借りるよ」
「運転出来るの!?」
「出来るよ、免許持ってるんだから」
「見たこと無い」
「大学には車持ってきてないからね。実家にあるんだけどここには飛行機使うからさ」

知らないエディがいる。

 

 すぐにタイラーに電話してくれた。今、『男どもの騒ぎ』ってのに行ってる。こんな時だから断りたかったらしいんだけど主催者側だからそうも行かずにいる。ロジャーとロイは音響だのなんだのやってるらしいし、レイは裏方を仕切ってる。

「2、3日いいって。行こう」

こうして私たちはアルのところに向かった。

『やぁ、久し振りだね。君が俺のケツを蹴って以来だ』
「蹴り心地良かったわよ、あんたのケツ。話があるの。時間取れる?」
『へぇ! 俺に話? 構わないけど今どこにいるんだ?』
「あんたの会社の真下」
『益々驚いた! わざわざここに来るなんてよっぽどの話だね?』
「ええ。それで?」
『分かった、上がってくるといい。14階のオフィスにいる。エレベーターを下りてそのまま右に真っ直ぐ進んでくれ。俺の名前が貼ってある』

 イヤなヤツだけど回転は速い。出来れば詳細を話したくない。

「僕はどうする? ここで待つ?」
 考えて、ついて来てもらうことにした。彼は冷静だ。いてもらった方がいいと私の勘が言っている。

 

 14階の右に曲がっていくつか部屋を通り過ぎたところにアルの名前を見つけた。金プレートでも貼ってあるかと思ったけど、うんと質素なプレートだった。ノックをするとすぐにドアが開いた。一人じゃ無いことに驚いている。

「やぁ、シェリー」
ハグはせずに握手。
「で、君は……フェルの結婚式で見かけたような……」
「ええ、僕は覚えてますよ、Mr.アルバート・ハワード。エドワード・キャヴェンディッシュです」
「キャヴェンディッシュ? イギリスの?」
「まぁ、繋がりはありますけどね」
「それは光栄だな! どうぞ座ってくれ。コーヒーでいいかな?」
「お気遣い無く。今日はシェリーの付添人ですから」

話がよく見えなくてただ二人のやり取りを聞いていた。エディって……何者なの?

「なんだ、驚いた顔して。シェリー知らないのか? キャヴェンディッシュ家ってイギリスの貴族の家柄だよ。公爵だったね?」
「ウチはただ名前を引きずっているだけです。貴族なんかに何の価値もありませんし。それより用件に入りませんか?」

アルがやっと私を正面から見た。面白そうな顔をしている。

「で、ここまで押しかけるほどの用って何だい?」
「教えてほしいの。フェルが仲のいいギャングって誰か」
「ギャング?」
「アルなら知ってるでしょ?」
「なんでそんな古い話を蒸し返すんだ?」
「知ってるのね? 楽しそうな顔してるもの」

アルは猫が鼠をいたぶるような顔をする時がある。それって自分が優位に立っている時の表情。

「俺がそれを教えなきゃならないほどの何をフェルはやらかしたんだ?」
「それは今問題じゃないわ」
「いや、それが問題だろう? そのために君はこんな所まで来た。さて、フェルが今何かやらかすとしたら多分リッキーが絡んでるな? そうじゃなきゃ縁を切ったギャングなんかと蔓むわけがない」

縁を切ったギャング? やっぱり回転が速い。何とか先に進みたい。

「あんたはフェルに借りがあるわ。だから返して」
「借り?」
「ええ、そう。長いことあんたはフェルを苦しめた。だから」
「苦しめただって? 何の話だ」
「あんたと私とフェルの父親の話よ」

 アルの形相が変わった。鋭い目つき、テーブルの上の拳が白くなる。一瞬で荒くなった呼吸を抑えようとしている。

「フェルが話したのか」
「まさか」
「じゃ、誰から聞いた。知ってるヤツはいない」
「あんたがソイツを殺したって話のこと?」
「やっぱりフェルだな。あのクソヤロー」
「クソヤローはあんた。全く同じ血だったなんてこっちだって勘弁して欲しいわよ。言っておくけどフェルに聞いたんじゃないわ。情報源を明かすつもりはないからそのつもりで。私の口を割ろうなんて思わない方がいいわよ」
「割れるとも思ってないよ」

もう冷静に戻っている。食えない男。

 

「じゃ、用件だけ終わらせて。誰? そのギャング」
「シェリー、もうフェルのことに首を突っ込むのは止めておけ。あいつは周りをトラブルに巻き込んでいくヤツだ。いい加減離れたらどうだ?」
「無理な話ね。可愛くて大事な弟なの。フェルは私にとって特別の存在なのよ」
「君はもっと賢い女性だと思っていたが」

言い返そうとした時にエディが割って入って来た。

「ちょっと口を挟ませていただきます。Mr.」
「アルでいい」
「アル、もう同じような話で16分堂々巡りをしているような気がします。あなたには教える気がある。ただあなたにとって嫌がらせの類の優先度の方が高いようですね。本当に教える気が無いならさっさと話を終わらせているでしょう? どうしたら満足するんですか? シェリーがあなたの足元に這いつくばって教えて下さいと乞えばいいんですか?」

アルが黙ってエディを見て、エディも平然とした顔でアルを見返していた。

「貴族の出にしちゃずい分君は失礼な男だな」
「あなたが生産性の無い話を楽しんでいるからですよ。フェルがどうのこうの、もういいじゃないですか」
「君に何が分かる?」
「何も。なんなら説明聞きますが」

アルが黙ってエディを見て、エディも平然とした顔でアルを見返していた。

「俺はフェルを助けるような真似はしたくない」
「アル、あんたがそこまでフェルを憎むのはなんでなの?」
「シェリー、君もあの男を見ていたらきっとフェルを憎んでるよ。まるで鏡に映したみたいにそっくりだった。母さんがどんな顔でフェルをいつも見てると思う? 母さんの気持ちを考えたことがあるか!?」
「その男の顔を思い出すからフェルを憎んでるの? あんた、そんなに自分の父親の顔が忘れられないの? あんただけよ、そんなヤツのことにいつまでも躓いてんのは」

アルの顔がどんどん冷えていく。
「話は終わりだ。もう帰ってくれ。フェルのことは知らない、名前も聞きたくない」

エディが私の腕を引っ張り上げた。

「アル。ならこれからフェルの実家に向かいます。全部話した上でお母さんにあなたに問い合わせてもらいましょう。それが一番早そうだ。シェリー、失礼しよう」

こわばった顔のアルにエディが丁寧に挨拶をした。
「お忙しい所をお時間いただいてありがとうございました。失礼します」
私の腕を掴んだままエディがドアを締めた。


「エディ、エディ、どうする気なの? ホントにジーナに話すつもりなの?」
「いいから」

そう言ってどんどんエレベーターに向かって歩いていく。エレベーターのボタンを押したところで廊下の向こうから声がした。

「通称ミッチだ。後は探せ」

バタン とドアが閉まった。エディがにこっと笑った。
「じゃ、ミッチってヤツを探そう」

驚いた、頭脳戦でアルから答えをむしり取るなんて。

「当てはある?」
「名前が分かったから多分大丈夫」

仕方ない。他に聞く相手はいなんだから。ビリーに電話した。話し中。5分位してまたかける。話し中。
「一体何やってんだろ!」
「誰?」
「ビリー。あの子なら詳しいはずだから。でもずっと話し中なの」
「彼女とでも話してるんじゃないの?」
「あの子、そういうの奥手なのよ。きっと友だちと長電話してるんだわ」

もう一度かけてみた。繋がった!
「ビリー? 長電話してんじゃないわよ!」
『え? シェリー? なに、今頃』
「何あたふたしてるのよ」
『いや、別に……で、なに?』
「あんた、ミッチって知ってる?」
『ミッチ?』
「そ。ギャングのミッチ」
『えぇ!? なんで!』
「何でもいいから。ってことは知ってんのね? どこに行けば会える?」
『ヤバいって! なんで会わなきゃなんないのさ!』
「用があるから」
『………フェルに何かあったの?』
「どうして?」
『ミッチに用だなんて、フェルが関係してるとしか考えられないから』
「そんなにすごい相手なの?」
『ブロンクス仕切ってる内の一人だよ。羽振りがいいんだ。誰も近寄んないよ、避けて通る』
「そうなの?」
『何にも知らないでミッチに会おうとしてんの? 無茶だよ、会うわけないし何されるかも分かんないのに』

「そんなに危険なヤツ?」

『情け容赦ないんだ』
「なんでフェルはそんなのと関係あるの?」
『知らない。けどあの二人が仲いいのは確かだよ。うんと年離れてるのに』
「幾つ?」
『30前だったと思うよ』

そんなに歳上なの?
ため息が出る。最初からビリーに聞けば良かったのかもしれない。妙に隠そうとしないで。

「そんな相手と仲いいの?」
『うん、ミッチはフェルのこと大事にしてた』
「だったら私が行っても……」
『だめだめ、そういうの通用しないんだ。それだったら俺が何も知らないわけ無いじゃん。フェルもミッチとのこと、あれこれ言わなかった』
「それでも行く。どこに行けばいいのか教えて」
『今から行くの?』
「遅いってこと? 明日の方がいい?」
『ギャング相手に時間関係無いと思うけど。どうしても行くなら俺も行くよ。いきなりシェリーが行くよりいいと思う。少なくとも俺の名前くらいは分かってくれてるはずだよ』
「ありがとう、お願い」
『ねぇ、何があったんだよ。また何かトラブルなんだろ? フェルが直接会えば済むことなのにシェリーが会うなんてさ』
「今は何も聞かないで」
『……分かったよ。今どこ?』
「アルの会社からブロンクスに向かうところだったの。そっちに方向転換してもらったから」
『アルに会ったの!? それって本当に大ごとなんだね! 誰が運転してくれてんの?』
「エディ」
『え? ええ? 何が一体どうなってんの?』
「とにかく待ってて」

 

 知られたくなかったけどこうなったらビリーにも話すしか無い。オルヴェラの時だって頑張ってくれてたし。今はビリーに力を借りるしかない。

「ごめんね、エディ。私たち、ずっとあんたに厄介かけっ放しだわ」
「いいさ、少なくとも退屈はしなくて済むし。……ごめん、不謹慎だった」
「ううん、本当にありがとう。こんなに助けてもらってどうやってお礼していいか分かんない……」
「じゃさ」

車が止まった。

「キスして」
「え?」
「ほら」

エディの手が私の首にかかって引き寄せられた。私はまるで魔法にかかったみたいにエディの望む通りに近づいていく……
優しいキス。男の人のキスがこういうものだとは思わなかった。あまりにもそっと唇を舐められたから自然に口が開いていく……

「わ、わたしね、キス、慣れてるから!」
「何申告?」
「だってさっき笑ったでしょ」
「違うよ、なんかシェリーとこうなれるなんて思わなかったから、だからつい嬉しくて」

 

 車が発進して震えたからホッとした。多分私の心臓の音、車の中に響いてる。そう言えばエディの運転って優しい。性格が出るのかな。キスも優しかったし……やだ、恥ずかしい……

 

 

「ごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ、エディ。俺、夜外にいるの好きなんだ」
後ろに乗り込んだビリーは元気溌剌という言葉がぴったり似合う。

「でさ、謎だらけなんだけど。まず、なんでエディが一緒なの?」
「それは……」
「それはね、今僕らが付き合ってるから」
「は? え? 今なんて……うっそ!! だってシェリーは」
「シェリーは普通の子だよ、ビリー。僕の彼女にケチつけるな」
「彼女って……」

暗くて良かった! きっと今私、真っ赤になってる。

「じゃ、その……いいや。また落ち着いたら聞かせて。で、なんでミッチんとこ行くの? フェルは?」
どう言えばいいの? フェルは……

「フェルはリッキーの母国に行ったんだよ。足取りが追えないから手掛かりを探してるんだ」
「リッキーの……ええええ!! だって今クーデター……」
「知ってたの?」
「ニュースくらい読むよ、ネットでゆらゆらしてれば」
時々ビリーに驚かされる。

「じゃ、ミッチが絡んでるってことは例えば偽造パスポートとかそんなこと?」
「あんた、そういうことすぐ分かるのね」
「まぁね」
「道は?」
「案内するよ。会ってもらえるように努力する」

 

フェルの育ったサウスブロンクス.jpg
(フェルが住んでいた頃のブロンクスのアパートメント)

 久し振りのブロンクス。昔は気にしなかったけど、こうやって夜通るのっておっかない。ビリーがついて来てくれて良かったかもしれない。

「そこ、左に曲がって。次、右」
時間はもう1時近い。本当に会ってくれるだろうか。それともビリーの言った通り門前払いされるんだろうか。

「その角で止まって」
エディが静かに車を止めた。ビリーが車を下りたから私もドアを開けた。
「シェリーは待ってて。俺が聞いてくる」

結構待たされた。15分位してやっとビリーが戻ってきた。
「会うって」


 私もエディも急いで車を下りた。もう気が急いている。ボロいビルの6階。古い階段を上っていくと、見るからに怪しげな男の人がドアを開けてくれた。

 中に入ると黒づくめのスリムな男性が座っている。立ち上がって手を差し出してくれたから握手をした。
(礼儀正しい)これ、第一印象。

「座ってくれ。悪いが何のもてなしも出来ない。アポが無かったからな」
「ごめんなさい、突然押しかけて」
「君はフェルのお姉さんだって? ビリーに聞いて驚いたよ。好奇心が湧いたから会う気になった。双子だって本当か?」
「ええ。そのフェルのことで来たんです」
「フェル? 彼がどうかした?」
「マル・イ・ソルに行くのに手を貸したんでしょう? 今どこにいるのか教えてください!」
「残念だがお嬢さん。何の話か分からない。久しくフェルにも会っていないしね。悪いが見当違いだ」
「パスポート、作ったでしょう? お願いです、フェルは死んでしまうかもしれない……」
「それは彼の選択だ。フェルは自分を曲げない。だから俺は彼を気に入っていた。会えて楽しかったよ。出口はそこだ」

これで帰れるわけが無い!
「せめて無事かどうかだけでも教えてもらえませんか?」
「君は誰だ?」
「オブザーバーだと思っていただければ」
「じゃ、オブザーバー。俺は知らない。これが答えだ」
「ここまで来たのに……本当に何も教えてくれないの? なんで!? あんたにそんな権利、無いわ! 私たちは兄弟なのよ!!」
「シェリー! 止めとけって!」

引っぱるビリーの手を振り払った。

「フェルは君らに黙って出て行ったんだろ? ならそれが答えじゃないのか? 俺はフェルの意志を尊重すべきだと思うね」
「死んだら……もう会え……なかったら……」
「それもフェルの意志だ。いくら双子でも1本の道を一緒に歩いているわけじゃない。どこかで別れる。今がその時なのかもしれない。もし無事に彼が帰って来たなら伝えてくれ、昔の友人が会いたがっていたと」

諦めて立った。きっとこれ以上は何も言わない。
「一つだけ教えて。どうしてフェルとミッチは仲がいいの?」
「ビリー、今日はずい分質問に答えたと思うが」
「どうしても聞きたい」
溜息が漏れた。
「フェルは俺の命を救ってくれた。そういうことだ」


「口が……固いのね……」
「そういうもんだよ、ボスって」
「でも絡んでるのは分かったわ。……ここまで? 私たちの出来ることって」
「シェリー、君は精一杯やったよ。ここで終わりかどうかはまた考えてみよう。ビリー、ありがとう。夜中に悪かったね」
「フェルが死ぬかもって……そうだよな、あんな状態の中に行ったんだから」
「ビリー、このこと誰にも」
「言う訳ないよ、シェリー。フェルならちゃんと帰ってくる。俺、信じてる。帰って来ないわけ無いんだ。フェルは強いんだから」
「そうね……信じるしか無いのよね……」

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