Fel & Rikcy  第3部[9日間のニトロ] 10- B

  4日目

 ブライアンのアパートは簡単に見つかった。部屋番号から言って、3階のあそこかと見当がついた。明るい。まだフェルいるんだろうか。車が見つかるとヤバいと思う。だから上手い具合にそばにあるコンビニの駐車場に入った。こっからなら見失なうことも無いしフェルからも見えない。


 20分くらいして見覚えのある姿が出てきた。フェルがデカいのはこういう時に助かるんだ、間違えっこない。しばらくして見えてきたタクシーに手を上げた。移動だ。ブライアンの所に行くかフェルを追っかけるか。ちょっとだけ迷う。

(フェルだ)

行き先を知っておきたい。ブライアンは知ってるかもしんないけど、きっとフェルが口止めしてるだろう。そうなれば聞き出すなんて無駄だ。俺は間に3台くらいおいて後をつけた。

 かなり前の方でタクシーが止まった。参った、この辺り暗くって車止めると目立つ。俺は先にライトを消してからゆっくり移動した。

 薄暗い建物の影の中でフェルがそばのアパートを見上げるのが分かった。そのままじっとしてる。ってことは、お目当ての相手が留守なんだ。俺は住所を頭に叩き込んだ。後でエディにリストと照合してもらえば誰のアパートか分かる。

 フェルはまるで彫像みたいに動かなかった。何を考えてんだろう……何をする気なんだろう、これから。それがいい事じゃないことだけは分かってる。

  ――フェル、何する気なんだよ、リッキーが悲しむよ……

 

 でもきっとそれはフェルの頭から飛んでるんだ。俺とシェリーにどれだけのことが出来るんだろう。

 フェルが動いた。時計を見たら1時間近く経ってる。クルッと向きを変えて明るい方に歩き出した。今日は帰ることにしたんだ。良かった。

 タクシーで病院の裏口に乗りつけたのを見て、俺はエディの所に向かった。

 

 

「今度は君か!」

呆れたようなエディの声に、へ? って顔になった。

「朝はフェルに報告してさ、さっきはシェリーと話したよ。で、君ってわけだ」
「ごめん! その、よく知りもしないのに俺首突っ込んでて……」
「そんな風に思ってないよ! リッキーのために動いてるんだから仲間だよ。ついでに言うと怪しげなフェルを何とかしたいんだろう? 僕の仲間たちもみんな心配してるんだ。すっかりフェルが変わっちゃって」

 

 そうか、やっぱ仲間ってすげぇな。空気が伝わるんだ、ビリビリしてるフェルの。今回のフェルは前の時の『普通のフェル』とだいぶ違う。ぶっ飛んでキレてるような気がする。

「俺、フェルを何とかしたくって……ホントならこれ、リッキーに頼むことなんだ、フェルを落ち着かせてくれって。でもリッキーのことが原因だからどうにもなんないんだ」
「分かってる。僕らは君たちの抱えてる問題の芯の部分を知らない。でもだいぶ事はデカいようだね。こっちから見てるとフェルの行動が早すぎて大変なんだろう? 手伝うよ、何でも。気にしないで僕らを使ってくれ」

有難い……ホントにあの二人を大切に思ってくれてるんだ。

「この住所、該当するヤツを知りたいんだ」
「どれ?」

 チラッと見てすぐにPCを叩いて、「ああ、ナット・ブレイだ」と呟いた。それってブライアンの妹が付き合ってるヤツの兄貴じゃん!

「例の現場でのフェルたちじゃない方のグループだ。こいつはちょっとクセが悪い」
「教えてくれよ」
「うん。ブライアンはナットとケンカしたって話だったからそうフェルに渡した資料には書いたんだ。でもさ、妹が付き合ってる相手の兄貴とケンカしてグループ離れるかな? だからもっと調べたんだ。ま、調べたのはタイラーだけどね。ナットはいろんな現場の人間ともつるんでいたんだ。だからそこにフェルの目的の相手がいるんじゃないかって思うんだよ。つまり犯人」

 俺たちがここに辿り着くまでに、とっくにフェルはナットんとこに行ってる。これじゃ……

「俺さ、ちょっと考える。俺とシェリーだけじゃフェルに追いつけないかもしんない」
「追いつけないとどうなる?」
「エディ、フェルのホントの姿ってさ、リッキーでさえ見てないんだよ」

エディはしばらく考えていた。

「僕とタイラーはたまたま、フェルがリッキーを庇ってバットで殴られた時に居合わせたんだ。あれがフェルの別の姿なら……その一部だとしたら、かなりヤバいんだろうと思うよ」

 

 いい加減、俺も自分で考えようと思った。シェリーに言われて動いてんじゃだめだ、何とかしなきゃなんない。


 ナットってのからフェルが犯人に行き着くのはきっと早いだろうと思う。それじゃどうする? もう追っかけ回すっていうんじゃ埒が明かない気がする。
 なら逆にするか? 俺が先にナットんとこに張りついたら? そしたら放っといてもフェルが来る。一気に犯人にも手が届くかもしんない。


 今夜はもうフェルは動かないだろう。多分リッキーんとこに戻ってるはずだ。じゃ、明日だ。あいつらの仕事が終わる頃。その前に張り込み始めればいいんだ。

  5日目


 今日のフェルの動きは見えてるし、今なら羽根を伸ばせる。レンタカーの用意もした。


 昨日、シェリーに新聞の記事を見せてもらって、フェルがバイトしてるって聞かされたからリッキーは少しホッとした顔になってる。

 フェルがいるからリッキーがめっちゃくちゃテンション高いのが嬉しい! きっとフェルが久しぶりにリッキーのことをべったりと世話を焼いているからだ。これなら安心してられるから俺は買い物だなんだって頼まれごとを引き受けていた。
 シェリーは別口で動いて、また後で来る。リッキーは時々不安な顔でフェルを見るけど、何も言わなかった。

 


「フェル、水」

 

 始まった…… リッキーはコップとかじゃ水飲まないんだ。そりゃフェルがいなきゃコップ使うんだけど、初めて見た時には正直……

「はい、奥さま」

 

出た! この後は全部知ってる。見てたって見てなくったってやるんだ、二人は。要するに俺はただの空気なんだ。

 

「体、拭いてほしい」
「はい、奥さま」

 

「あのさ! 俺、どこにいりゃいいのかな!!」

ちょっとは嫌味言いたくなる。

「好きな所にいろよ」

……そこ、ハモるのか……

「見てる! やれよ!」
「やるさ、何言ってるんだよ」

 

 で、ホントにフェルはリッキーを素っ裸にしたから俺は慌てて廊下に出た。この後、どれくらいして中に入ったらいいんだろう。うろうろしてたらドアが開いた。

「ビリー、いいぞ」

 終わったのか。……なにが? 慌てて首を振った。健康に良くない、俺まだ特定の彼女いないし兄貴相手の妄想で処理したかない。

「ああいうのいい加減にしろよ。母さんいたらやんないだろ? 俺ん時もやるなよ」
「お前離れで階段下りる俺、見たじゃねぇか。今さら何だよ」

ダメだ、二人とももう隠すとこ無いって顔してる。

 夕方5時。またシェリーが来た。ナットんとこに行くから代わりを頼んだんだ。リッキーは寂しがり屋だし、考え込む質なんだって分かったから俺たちは一人にしたくないんだ。

「パーティー、3日後になったからね」
 小さな声でシェリーに囁かれて え? って顔したらウィンクしてきた。どうやれば大使館相手のパーティをちょちょいって用意できるんだ? 取り敢えず頷いてナットのアパートに向かった。フェルはまだ病室の中でリッキー相手に笑ってる。

 

 

 

 車をナットのアパートの通りの向かいっ側に堂々と留めた。今6時ちょっと。今日の現場の上がりは6時半だってレイから連絡があった。動きがあるまで構造学の本を読んで待つことにした。

 7時過ぎ。フェルがレンタカーをアパートの真ん前に留めた。アパートの中にすぅっと入っていく。多分部屋ん中で待つ気なんだ。

 8時ちょっと前。荒っぽい運転の車がすぐそばに止まって、やかましく喋りながら二人組が中に入っていった。

 10分くらいしたら窓が開いた。フェルだ。中に向かって喋ってる。開いた窓からすぐに何かが割れる音が聞こえた。それっきり静かだ。
 30分位して下りてきたフェルの顔を見て、腹括んなきゃ と思った。フェルは笑ってた。

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