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Fel & Rikcy 第6部

1.どこ?

[リッキー! リッキー!!]

[フェル! フェル!]

一際背の高いフェルが人波の向こうで俺を呼んでいるのが見える
俺も手を伸ばす、声を張り上げる

 

[フェル! フェル!!]
[どこだ? リッキー、どこだ?]
[ここだよ! ここだ、フェル!!]

一生懸命に手を振る 背を伸ばす

両手を突き出してフェルに手を振る

 

フェルが横を向く

後ろを向く

こっちを向く

[リッキー、どこ? リッキー!]
[ここ! ここにいるよ! ここだ、見てよ! 俺、ここにいる!!]

  

 


「リッキー! リッキー、どうした!?」

 ハッと目が覚めた。ひどい汗……ひどい動悸…… 目の前にいるフェルの顔を触って触って触って、そして抱きついた。

「どうした? 震えてる」
「怖い……夢、見た……」

フェルの大きな手が撫でてくれる、抱き返してくれる。

「帰ってきたばかりだ、まだ落ち着かないんだよ」
「……うん……」
「まだ早いよ。もう少し寝たら? ちょっと待ってて」

ベッドを抜け出したフェルが寝室を出て行った。 とん とん とん 足を引きずってゆっくり歩く音。
(フェル…フェル!)
なんだか怖い、もう帰って来ないんじゃないか……

  とん とん とん

 

すぐに寝室に戻って来たフェルがベッドに来るまで息をつめていた。

「ほら、着替えとタオル。拭いてあげるから着替えて」

サッパリしてもらって胸に抱かれた。

「もう怖い夢なんか見ないよ。眠るまでこうしてるから」

優しい心臓の音が聞こえる……繰り返し聞いていると波の音に聞こえてきた。
(ああ……フェル、お前はここに、俺のそばにいるんだ……)

「きっとそれね、フェルが死にかけた時の恐怖が蘇ってるのよ。私はフェルが無事に帰って来てからの姿しか見ていないでしょう? でもあんたはそこにいて目の前で失うかもしれない愛する人をたった一人で見ていた……そのせいよ。足を切断するかどうかまで自分一人で考えなくちゃならなかった。リッキー、あんた、頑張ったの。自分が大変だったのに、フェルのために頑張ったのよ。大丈夫だから」

 シェリーが何度も肩を抱いてそう言ってくれた。怖い、怖い、今頃になって怖いんだ…… フェル、いるよな? そばにいるよな?

 


 杖は当分取れねぇと思う。でも明るい顔のフェルが眩しくて……

「ごめんな、荷物持たなくて。左手は杖だけど右手は空いてるんだから少しは持てるよ」
「大丈夫、俺一人で。たいした量じゃねぇよ、こんなの。それに車あるし。ホントにくれた人にお礼言いてぇ!」

あれ? 変なこと言った? フェルが一瞬困った顔に見えた。

「そうだね。その人多分、もうアメリカに帰って来ないと思うんだ。大事にしてた車なんだって。だから僕たちも大事にしような。もっといいのが欲しくなったら言って」
「いい。俺、あれ好きだ」
「そうか」

フェルが笑ってくれたからキスした。俺のフェル。俺の笑顔。ちゃんとここにいる。

 

 俺たちは不思議だけどまだマリソルでのこと話しちゃいねぇ。わざと避けてんじゃなくて、なんか話せねぇんだ…… 今は、この時間に浸っていたい。こうやってただ一緒にいたい。

 

 フェルのリハビリを手伝うのは俺の喜びになってる。一緒に汗を流して、一緒に座り込んで。フェルは痛くなると俺を見てにっこり笑う。

「お前が一番の薬だから」
 蕩けるような言葉…… 幸せだと思う。セックスはまだしてねぇのに、そんなんで満足感が溢れるんだ。なのにどうして不安になるんだろう…… もういなくなんねぇのに。


「っ……!」
「フェルっ!!」
「だい……じょうぶ、ちょっと痛んだだけだから」
「なぁ、やっぱ病院に行こうよ。俺、心配だ」
「いいって。傷口も乾いてきたし。後は良くなる一方だよ。痛みだって結構減ったんだ」
「お前、そういうの嘘つくから」
「嘘? 僕はお前に嘘なんかつかないよ!」

 違う、フェルは気づいてねぇ。無意識な嘘。俺を安心させるための嘘。それを聞くと……堪んねぇ気持ちになる……泣きたくなるからフェルにしがみつく……

「どうしたんだよ、この頃変だぞ」
「ううん……ううん、大丈夫だ。俺、大丈夫だから」

 なるべく目を離さねぇように。この前は椅子に杖が引っかかって転んだ。だからフェルの歩くところは広く空けてある。
 シャワーでは特に気をつけてる。乾きかけた傷が濡れないように。もう自分一人で大丈夫だって言うけど、心配で心配で……

「リッキー、聞いて。君は一人になってしまっただろ? 国にはもう誰もいない。ごめん、こんなこと言って。けど、多分そのせいでフェルもいなくなったらどうしようって怖くなってるんだよ。あんなに君を愛してる人はいないよ。僕らだっている、助けになるかどうか分からないけど。君は一人になんかならないから」

 シェリーに聞いたんだと思う。エディからの呼び出しでそんなことを言ってもらった。

「エディ……ありがとう。変なんだ、俺。分かってんだよ、考え過ぎだって。でもどうにもなんねぇんだ。あん時、足切らなくて済んだから良かった。でももしその必要があったら……切断してもしなくてもフェルが死んでたら……痛い思いだけさせて死んじまってたら……怖いんだ、もう平気なのはずなのに。フェル、目の前で笑ってくれてるのに。なんでだろう、怖いんだ」

「フェルと、そのこと話した?」
「ううん、話してねぇよ。だってあんなに頑張ってんのに、今は俺のことなんかで悩ませたくねぇんだ」
「僕は話すべきだと思うよ。フェルは懐が深い。大丈夫だよ、受け止めてくれるよ」
「……エディ、このことフェルには言わないでくれよな? お願いだ、言わないで」
「…分かった。言わないよ。でも自分から言うんだよ、必ず。それが二人のためだと思って」

[リッキーっ! 逃げろっ!!]

[いやだ、フェルも一緒だ!!]

浮かんでる俺の体

両手を伸ばす、精一杯

両手を突き出す

フェルが……フェルが手を伸ばす、俺に

 

指先が触れそうになる俺に

助けを求めてるんだ

あの手を、あの手を、あの手を……

[リッキーっ!!]
[フェルっ!!!!]

 

一瞬触れた指先

でも……俺の手に残ったのはスカーフだけ……

「…ッキー! 起きて、リッキー!」
「フェル……」

胸が…苦しい……

「ほら、おいで。ここにいるよ」
「いる? フェル、いる?」
「ほら、触って。僕だ。お前を抱いてる」
「うん、うん。俺、抱かれてる。フェルに抱かれてる」
「そうだよ。ちゃんと僕がいる」

 

 コポコポコポ……

コーヒーの匂い…カチャカチャいう音。とん とん とん……杖を突く音。

「フェル?」

声が出る前にベッドの中で手が探した。
「フェル!?」
「こっちだ、リッキー。起きたか?」

 寝室の入り口に掴まって向うを見た。明るい光の中でフェルが俺を見る。きれいな青い瞳だ……にこっと笑って おいで を手でしてくれる。俺は『今』が壊れそうな気がしてそっと歩いた。

「ほら、奥さま。コーヒーをどうぞ」

杖を突いてんのに椅子を引いてくれた。

「うん。ありがとう。早く起きたの?」
「今9時になるよ」
「え? ホント?」
「よく寝てたから。いつも起こしてもらうからね、今日はゆっくり寝て欲しかったんだ」

コーヒーを一口飲んだ。

「美味い……」
「良かった! リッキーは何でも上手だからさ、コーヒーくらいはちゃんと美味しいの淹れたかったんだよ」

嬉しそうな顔だ……

「フェル……俺、幸せなんだ……」
「知ってるよ。僕もそうだから」
「でも……」
「ん?」
「なんで……」

涙が落ち始める…

「なんで怖いんだろう……」

手で顔を覆う。怖いんだ、フェル。

 とん とん とん   そばで止まった杖の音。

「リッキー。ちゃんと僕を見て、ほら」

顔を上げた。つーっと涙が頬に流れるのを感じた。手を取られて唇が触れる。

「ね。いるだろ? いろんなことがあったからね、その後遺症なんだと思う。さ、おいで」

ベッドに連れていかれた。

 

「奥さま、横になって」
言われるままに横になった。確かにここにあるフェルの焼けた素肌。シャツが捲られる、フェルの唇が這う。もうそれだけで……

「そんなに感じてるの? もう濡れてる」
「っは……言わ、ないで……」
「だってほら……」

俺を、フェルの潜り込んできた手が俺を優しく撫でる。

「こんなにぐっしょりだ」

  っぁ ぁ

 口が塞がれてフェルの熱い舌が俺の口を蕩かしていく……耳を嘗められて…首を下りて……胸を吸われて、弄られて……

 あっ、はぅ……

後ろを指が刺激する……感じる、フェルがここにいる……

  ……や……

いつまでも後ろを刺激する指。けど入って来てくれない。

  や……だ、おねが……

「入れてほしい?」

一生懸命に頷いた、ほしいんだ、入って来てほしいんだ……

「僕の上に乗って。下りてきて」

欲しくて、欲しくて……ふらつく体を持ち上げる。フェルの体を跨ぐ。

「動かないで、そのまま」

跨いだのに……何も起きない、何もしてくれない。目を開けた。フェルが俺を見上げてた。

「きれいだよ、僕を欲しがってる時のお前。見せて、その顔」
「いやだ、それだけじゃ……」
「今は見たいから。お前のその顔を見ていたい。ほら、動いちゃだめだ」

我慢して、うんと我慢して、フェルの先端が俺に触れた時電気が流れたように痺れた……

  っあ! っあっ、あ、あ……

「入ってないよ、リッキー、腰を揺らして」

魔法にかかったみたいに腰が揺れる、ゆっくりとフェルを俺が包んでいく、俺の中が満ちていく……

  ぅっぅっう……息が、つまりそう……ああ、フェルがいっぱいだ……

「自分で動いて、リッキー」

むり……うごけねぇ、あああ、うごかないで……激しく俺が揺れてる、頭の中までゆらゆらゆらゆら……

「見て……ああ、いい気持だ……見て、リッキー」

揺れながら目を開けた……

「お前が動いてるんだよ……感じる、すごく感じる、お前がきれいで……」

  ――おれ? おれがうごいてる? 

 聞いた途端に顔が天井に向いた、背中が反った、もっと深くにフェルが入ってくる……あああ……ふぇるがいる、俺の中に……うんと奥に……

 大きな波にさらわれる、奥に熱いものがたくさん注がれる……フェルからも震えが伝わってくる…… 俺の弾けたものが……飛び出して行く……


「あああ、ふぇる……」
フェルの胸から動けねぇ……あああぁ、ふぇるが、おれのふぇるがいる。

「すごく……良かった、久し振りのリッキーの中」

喘ぎながらフェルが言う。俺はまだ口が利けねぇ…… 髪を掻き上げてくれてキスがいくつも贈られた。

「お前が最高だ。こんなに感じる、お前だから。お前だか……」


 すぅっと声が消えた。見上げたらフェルが眠ってた。またフェルの胸に耳を当てる。速かった胸の鼓動がだんだんゆっくりになる。俺のフェルが、ここで生きてる。

俺もいつの間にか眠っていた。

[りっきー あいしてるよ]

フェルの手が俺の手を掴んでいる気がした……キスをもらったような気が……

​.

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