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Fel & Rikcy 第6部

10.Happy Birthday -1

 あれからフェルはゆっくり良くなってきた。みんなも心配して交代でそばにいてくれたけど、体力つけるってまたトレーニングが始まったし規則正しい生活を始めた。だからみんなも日を置いて集まるくらいになっている。

 俺はランニングから帰ってシャワー浴びたフェルが淹れるコーヒーで目を覚ますのがほとんどだ。

「俺もいっしょにやる」
 初めはそう言ったけど、やれたのは2日。今は俺のペースに合わせてやることが出来ないって、前よりすごいメニューをこなしてる。フェルが必死なのが伝わってくる、もうコカインなんかに縋りつくもんかって。
 ちゃんと食べて、片付けも一緒にして、けど寝るのが早くなった。しばらくの間このペースでやらせてくれって、だから俺は自分のペースに戻って、フェルの淹れてくれるコーヒーの匂いでベッドから出る始末だ。

 ちょっとだけ俺はご機嫌斜め。あんなことあったばっかりだし、仕方ないって思ってるし。今はそんなことフェルに要求しちゃいけねぇって分かってるし。けど…… 我ままな俺がまた顔出し始めてる。抱いてほしいんだ、すっごく。フェルが調子悪くなってからさっぱりだ……

 この前ちょっと肌出してフェルの前を歩いた。

「リッキー、なんか着とけ。風邪引くぞ」
「フェル、俺……」
「なに?」
「ここ…… そうだ、ここ何かおかしくないかな、ちょっと腫れてない? さっきぶつけて」
「どれ!」

すぐに俺の後ろの孔のとこを見てくれて…… (ああ、もしかしたら……)って思ったのに。

「痛いか? 貼り薬貼っとこうか?」

そんなの…… 屈辱だ、俺のケツ、あんなにみんな引ん剥くのに一生懸命だった俺のアソコに貼り薬? だからすっごい剥れた顔をした。

「じゃ、氷で冷やそう」

すぐに用意してくれて、俺は痛くもないケツにずっと氷をつけさせられてそのせいで痛くなっちまった。

(そうだ、ただの俺の我がままなんだ……)
 今そんなこと考えるなんて、フェルの望む奥ゆかしい奥さんってのからえらく遠くなっちまう…… おれは一生懸命に耐えた。だって、フェルは今頑張ってんだ。俺はその応援をするべきなんだ……

 

 やっと頭ん中からセックスの欲求を無理くり追いやった。我ながらよく頑張ったと思う。栄養のあるもの。健康的なもの。食べやすいもの。それが今は課題だ。いろんなバリエーションでフェルの食卓を賑やかにしてやる。
 まだ食欲はしっかり戻ってないし、頬はこけてる。心配性のシェリーには風邪だったんだと言ってある。んなも口裏合わせてくれたし。だからシェリーはビタミン取りなさいってフルーツを届けてくれる。

 最初シェリーがフェルを見たときはあまりの変わりように言葉が出なかった。
「あんた…… 病院には行ったの? 本当に風邪だけ?」
「大丈夫だよ、ちょっと調子悪いのに勉強無理しちゃったんだ」
そんな具合にシェリーの追及を俺たちは何とか躱した。


 あん時に俺は誕生日のことを口にしたけど、正直気にしちゃいなかった。だってフェルってそういうの忘れんの得意だし。俺だって自分の誕生日より、フェルがあの苦しみから解放された方が嬉しかったし。
だから、もうそれでいいって思ってた。

「ねぇ。今週の金、土、日って空いてる?」
「週末ってこと? だってバイト……」
「マスターなら大丈夫だって。でもお前に用があるなら別だけど」
「なんかあんの?」
「久しぶりにデートしないかって思ってさ」
「デート⁉ 行く! 俺、行く!」

早速クローゼットを開けた。

「おい、今日はまだ火曜だぜ」
「うん! でも着るものあるか心配で」
「いっぱいあるだろう! それに僕はお前が裸でも構わないけど」

 やだ、今それ言われんの…… 途端に俺……

「なんだよ、感じてる?」

気がついたら俺の耳元で囁いて…… あっという間に抱えられてソファに連れて行かれた。
「ほら、顔見せて」
フェルの膝に横に座らせられて、俺は落ちまいと首にしがみついた。それをいいことにして、フェルが俺の耳をしゃぶり始める……

 あ あん……っは…

「リッキーの声って破壊的だよ……」

それを言うならお前のキスだって…… フェルの片手が俺のジッパーの上に滑り落ちて、俺は期待で胸も頭も蕩けそうで…… 後ろなんか、その、とっくにぐずぐずになっちまってて受け入れ準備万端で……

 肝心の場所はただ素通りして、左手は俺の肩を抱いてキスを熱烈にくれるし、右手はゆっくり下半身を撫でまわすし…… 思わず仰け反って体が震えて……

「あ、お湯が沸いた。コーヒー淹れてきてやる。ちょっと待ってろ」

待つ? 何をだ? あそこまで行った俺の体に『待て』って言ってんのか?

「はぁ??」
「どうした? 何かあったか?」

俺は寝室を荒っぽく閉めて中からカギを掛けた。

「おい、リッキー! コーヒー入ったよ!」
「お前は入っちゃいねぇ!」
「なに言ってんのさ」
「バカっ‼」
「何が! お前、僕のコーヒー好きだろ?」
「あのな! 世の中にはフェルのコーヒーとは変えられないもんもあるんだよっ‼」
「なんのこと?」
「ばかっ! とんちんかん! にぶちん! お前なんか嫌いだ! 入れてほしかったのは別のもんだっ‼」

 


 俺は寝室に立てこもっちまったから家出が出来ねぇ。仕方ないから窓を開けてそっから逃げ出した。

 タイラーはいなかった。携帯無いのが致命的だ。レイは…… こんな時にはハナクソっくらいの役にも立たねぇ。ロジャーは論外だし、ロイに言えるわけがねぇ。シェリーがこの手の話を聞いてくれるわけがねぇし。残るは……

 ドンドンドンっ‼  そう待たされねぇでドアが開いた。

「ハイ、リッキー。頼むよ、僕のところのドアを壊すなよ」
「その言い方ってさ! まさかフェルから電話あった?」
「あったよ。君がいなくなりゃ片っ端からかけて回るに決まってるだろ?」
「俺、携帯持ってないんだ、寝室から逃げ出してきたから」
「穏やかじゃないな! 君にとっちゃ寝室は聖域だろ?」
「だって……」

クスクス笑ってるエディがちょっと大人っぽい。

「シェリーと上手く行ってんの?」
「うん。彼女、可愛いからね」
「可愛い⁉」
「そうだよ。なんて声出すんだよ。今まで男性と付き合ってきてないだろ? もちろん女性ともだけど。だから初恋なんだって。で、実は僕も初恋だったりする」
「えええええ⁉」
「驚いた? だからお互い何やっても新鮮でさ。もう手を握るのに何十分かけたか」

俺が急に立ったから驚いた顔してる。

「なに、帰るの?」
「俺、ここに来た意味無い」
「なんで? 聞くよ、なんでも」
「その前に手を握るとこからキスまで、エディの話に何時間かかるか分かんねぇ。だから帰る」

 止めるのも聞かずに俺は外に出た。俺は俺の欲求不満の話で来たのに、エディはシェリーとののろけ話で一日潰す気だ。今までの世話になった数々を棚に上げて、俺は最後の手段でニールんとこに行った。


「あら、リッキー。今ニールいないのよ」
「ううん、アマンダと話したかったから」
「ってことはフェルね? フェルは典型的に鈍いんだもの、ある程度我慢が必要よ」
「そうだけど!」
「フェルの鈍さって凄いわよね! この前ね、ほら、投票騒ぎがあったでしょ? あの時にフェルを推してたベッキーって子がいたのよ。絶対フェルを手に入れてやるって」
「手に入れる?」

俺はそれ聞いただけで頭が沸騰しそうになった。え、でもベッキー?

「で、フェルが落選したから望みが絶たれちゃったじゃない? だからあの子、誕生日パーティにフェルを招待したわけ」
「それ、俺も行ったよ」
「そう! 笑っちゃうわよね、ベッキーはフェルしか招待しなかったのよ。なのにフェルは当たり前のようにあんたを連れてったじゃない? それでもね、ダンスくらいは出来ると思ったらしいの。ところがあんた、彼女がフェルの差し出した手を取ろうとしたとたんにワインのグラス落としたわね」
「あれは……」

 別に狙ったわけじゃなかった。俺のちょっとした不注意だ。お喋りに気を取られてテーブルの端のワイングラスに気が付かなかった。

「血相変えてフェル、あんたのとこにすっ飛んでって。あの時ちょうど見てたんだけどベッキーはフェルの手を掴んだのよ。そしたら振り払われちゃって。いつも男子を振り回してる子だったから見てた子たち、きっと(やった!)って思ったはずよ」

 

 とっくに俺の指先なんて良くなってる。けどフェルはすぐに俺の手を取ってケガが無いか確認して、指先を1本ずつ摘まんでくれた。

「これ、感じる?」
「これは?」
「じゃ、こっちは?」

いくら大丈夫だって言っても、あの後はそれっきり俺から離れなかった。そうだ、フェルは最高の夫なんだ。

「で、今回はなんだったの? 何で喧嘩したの?」
「ううん、いいんだ。ありがと、アマンダ! 俺、すっきりした!」
「ちょっと! リッキー!」


 部屋をノックする。開いた途端に体をぎゅぅっと抱きしめられた。

「ごめんよ、何を怒ったのか分からないけどごめん。だからどこにも行かないでくれよ」
「俺こそごめん。悪かった。一生懸命やってるのに俺は我がままばっかりなんだ。もう大丈夫だから」

二人でソファに座った。さっきのコーヒー、冷えてるけど美味かった。

「淹れなおすよ!」
「いいんだ、これで」

コーヒーにやきもち妬くなんて俺はアホか? そう思うと我ながら可笑しくなってきた。

「ホッとしたら眠くなってきちゃったよ」
「ここで寝てりゃいいさ」

 フェルを膝に寝転がせてやる。その髪をすぅっすぅっと撫でてるうちにフェルは本当に寝ちまった。まだ目の下が青い。決めた! 俺はこの隈が消えてもうちょっと頬がぽっちゃりするまでフェルを困らせないんだ!!

 

「なんかさ、この頃食事豪華になったね」
「そう? シェリーとかアマンダとか差し入れがたっくさんくるせいかな。ほら、腐らせるよりいいし。……美味しい?」
「当たり前だよ! 作ってるのは僕の奥さんなんだぞ。美味しくないわけが無い!」

 最高だ! 最近は全然外食もしないし、朝昼晩、俺はちゃんとこれでもカロリー計算までやって料理してる。だって、食い過ぎで体壊しても困るし。俺はフェルが満足する奥さんでいたいんだ。

 

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