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Fel & Rikcy 第6部

3.置いてかないで

 このところフェルの様子がおかしいと感じていていた。考え事をする時間が増えた。話しかけてもどこか上の空で、呼び直して『あ、ごめん。なに?』って返事をすることが多い。

 

「フェル、なに考えてる?」
不安で仕方ねぇ、考えてる最中のフェルの顔があまりに真剣で怖いんだ。
「ごめん、もうちょっと考えてから話すから。少し待っててくれる?」

セックスもほとんど無くて、調べ物に割く時間が増えた。講義が終わったら『先に帰ってて』なんて言うし、こっそりついていくと事務課に入って長いこと出て来ない。

(なんだろう?)
少なくとも変なことを考えてるんじゃなくて、それは安心したんだけど。

 


「今、話しても構わないか?」
そう聞かれたのは考え込み始めてから10日くらいしてからだ。

「今から話すこと、まだ決定事項じゃない、迷っていることなんだ」
「なに? 何を迷ってんの?」
「これから先のこと。将来だよ。僕らはもう大学3年だ。来年は4年になる。本当なら卒業してからのことをとっくに考えてなくちゃならない。けど目途さえ立ってないだろう? いろいろあり過ぎたからね、それはしょうが無いと思ってるよ。もう終わったことだし。でも先を考えなくちゃならないと思うんだ。特に僕にはお前という守るべき相手がいるんだから尚の事だ」

だんだん不安が募ってくる……フェルの言い出すことが怖くて堪んねぇ……

「俺も働くよ。確かに奥さんだけど、お前と同じように働くこと出来るよ」
「何を? 取りあえず生活を保つってだけならこのままやっていけるよ、卒業してからも。でもその先に何がある?」

答えらんねぇ…… フェルの言ってることはホントは当たり前のことだ。俺だってそれ、真面目に考えてた時あったし。でも…… 俺の中には、どこまで行ってもフェルと共にいるってことしかねぇんだ……

「同じ方向性を持つっていうのは、バイトだから出来たことだよ。けどこれは全く違うものだ。僕らはそろそろそういうことを考えなくちゃならない」
「……フェルは? フェルは今どう考えてるの? 俺と……離れることを考えてる?」

声が震えるのを自分でも感じた。そんなこと急に話されても俺は何の返事も出来ねえ……

「違うよ。僕らの将来を考えたいんだ。お前と一緒に歩いていくことに変わりは無いよ。なんにもね。ただ、そのためにきちんと先を見据えたい。僕は今取ってる単位数を減らしてもう一年在学しようかと考えてる。考えるゆとりが欲しい。今思ってるのはそんなことだよ。最初に言ったけど、これは決定じゃない、僕も迷ってるんだ」

 置いて……行かれるような気がした…… 分かってる、いつまでも今のままの俺たちでいられるわけじゃねぇってこと。でも……置いてかれちまう、これじゃ……

「俺……俺、どうしていいか……」
「リッキー。僕はもっと早くお前と考えるべきだったと思うんだ。だから自分のことだけじゃなくて、お前のことも一緒に考えていきたい。僕らは一緒に進むんだ。不安になることじゃないんだよ」

 

 それでも……フェルが突然大人になっちまった…… 俺はどう反応したらいいのか分かんねぇよ、フェル……

「お前はまだやりたいことも具体的に考えちゃいないんだろ? 僕らの先の生活もさ。でも逃げてちゃダメなんだよ。いつまでもここで暮らしていけるわけじゃない。それって次の始まりなんだって思ってくれないか? 気持ちが落ち着くの、手伝うよ。お前一人で考えなくてもいいんだ。僕もお前に相談しながら考えるから。結論はなにも出ていないんだからね」

震えてるのを感じたフェルがそばに来た。

「ごめん、突然みたいな言い方になっちゃって。本当に僕も迷ってるんだ、自分のやりたいこともはっきりしてないから」


 いつかは考えなくちゃいけないこと。[現実]ってヤツ。学生時代が……終わっちまう…… それがこんなに辛いなんて。


 でも。フェルの言う通りだ。考えなくちゃ、そろそろ。俺のしたいことを見つけなくちゃ。したいことを考えちゃなんねぇ時期が長過ぎたから、俺はきっと臆病になってるんだ。

「俺の手を離さない?」
「離すもんか」
「俺を置いてかない?」
「僕のそばにいてほしい」
「俺を……愛してくれる? これからも」

口を塞がれた、覆いかぶさるようなキスで。

 

「ばか、僕がお前に愛されていたいよ。お前は僕の全てなんだから」

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