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Fel & Rikcy 第6部

8.ビリーの恋

『ホントにビリー、そっちに行ってないの?』

「来てないよ。いったいどうしたの? 母さん」
『あなたの所に行くって……先々週も行ったはずなんだけど』
「…あ、ああ来たよ。散々遊び惚けて帰ったんだ。そう言えば昨日メールもらってるの忘れてたよ、こっちに来るって書いてあった。今講義で忙しくてさ、すっかり頭から飛んでた」
『そう! なら良かった! 今、大変なのね? じゃ、ビリーをすぐ追い返して。自分のことに専念なさい』
「分かった。ありがとう、母さん」


「なに? 母さん、なんて?」
「どうやらビリーはここに来てるって嘘をついてどこかに行ってるらしい。しかも今回だけじゃないみたいだ」
「え? なんか変なことにでも首突っ込んでんじゃねぇだろうな!」
「あいつ、ああ見えて意外と堅いから大丈夫だと思うんだけど」

一応、携帯にかけてみた。母さんの言った通り繋がらない。これじゃ口裏だって合わせられない。ホントにあいつはおっちょこちょいだ、せめて僕には言っておけばいいものを。

「どうすんだ? 俺、出来ればビリーを助けてやりたい」
「うーん……自業自得って気もするけどね」
「そんなこと言うなよ! ずいぶんビリーには世話になってんだ!」

分かってる、リッキーはビリーに自分の弟だったマルゼロを重ねている。無理も無いんだ、兄弟は全員死んだんだから。ビリーはリッキーにとってただの僕の弟じゃないんだ。

「でも探しようが無い。連絡が取れないんだからどうしようもないよ。行き先だって見当もつかない」
「シェリー、知らねぇかな!」
「……そうだな、聞いてみようか」

『ビリー? 何も聞いてないわよ。ジーナには内緒ってこと?』
「そうしたいんだ、わけも無くこんな風に母さんを心配させるヤツじゃないし」
『そうねぇ……そう言えば前会った時に様子がおかしかったわ』
「おかしいって?」
『ミッチって人を探す時にビリーに連絡を取ったの。なかなか電話が繋がらなくて文句言ったのよ。そしたらなんだかしどろもどろだった』
「電話の相手って?」
『ごめん、分からないわ』

結局僕らは手詰まりになった。

「仕方ないって。これ以上は何も出来ない」
リッキーは悔しそうな顔をしてるけど本当のことだ。

 


 それから2日経って、携帯が鳴った。

『フェル? 俺……』
「ビリーか? お前何やってるんだよ! 母さんが心配して電話かけて来たぞ」
『え? フェル、なんか言った?』
「言わないよ。お前は僕の所に来ていることになってる。先々週もな」
『あの、ごめん……』
「どうしたんだ? 元気無いじゃないか」

こんなに沈んだ声は初めてか? そこにリッキーが買い物から帰ってきた。僕は口の動きで ビリー と伝えた。

『俺、話あるんだ。っていうか、相談』
「相談? 構わないけど。珍しいな」
『すぐ行ってもいい?』
「いいよ。リッキーも喜ぶ」
『うん……じゃ、40分位で着くから』
「ゲート、連絡しておくから駐車場に真っ直ぐ来い」
『分かった』

 リッキーの心配そうな顔が近づいてくる。
(可愛い!)
そのまま抱きしめてキスをする。

「ま、待てって! ビリー、何だって?」
リッキーの喉を舌で辿りながらシャツの中に手を潜り込ませる。
「止めろって! ビリーの話」
その口を塞ぐ、ホッとする、リッキーの唇に。 ……言えずにいることが胸につかえて苦しいから、すぐにリッキーに逃げたくなる……

  っは! あぁぁ んっん……
胸を抓んで捏ねて口付けて……リッキーの手が首に回る、腰が押しつけられてくる……


 突然、理性が戻った。

「ごめん! ビリー、後30分位でここに来る」
「あ? お前!! こんなことしてる場合じゃねぇだろっ!!」
「愛の営みを『こんなこと』って言うなよ」
「じゃ、ビリーがドアを開けた時にお前はどんな姿を見せるつもりだったんだよっ!」

リッキーの手が自分のソコを覆っているからつい言ってしまった。
「もう濡れてる? 急いでヤる?」
「バカっ!! 急いでシャワー浴びるから買い物、冷蔵庫にしまっとけ!」


 リッキーが服を着終わって髪をとかしている時にノックがあった。危ない所だった。
「やぁ、フェル……リッキー……」
その元気の無い声にリッキーがすぐに飛んできた。

「座れよ、ビリー。レモネードあるぞ。飲むか?」
「うん。ありがとう」

何だかいい子の見本みたいだ。口数も少ないし。

「相談って?」
「俺……好きな子がいて……」
「やっとお前にも恋が芽生えたのか! 一生独身かと思ってたよ!」
「茶化すなよ、フェル! で、相談ってどう打明けたらいいかとか? それともデートの誘い方?」

首が横に振れる。こんなビリー、見たことが無い。

「俺、もうつき合ってる。フェル、リンダって覚えてる?」
「リンダ? リンダ……」
「フェル、覚えてねぇか? 病院のナースで可愛い子」
「病……あ、あの子か! 覚えてるよ、優しい子だったな」
「うん! いい子なんだ! 俺、あれから何度もデートしてて」
「その度にここに泊ってるって嘘ついたのか。ばかだな、正直に母さんに言えばいいのに」
「ごめん……」
「で? 何の相談だ?」

ビリーがごくっと唾を飲んだ。
「俺……」
その次の言葉に僕らは思考停止した。まさに青天の霹靂!!!!

「俺、結婚したいんだ、リンダと」


「結婚って……お前、年幾つだよ!」
「なんだよ、二人が結婚した年と変わんないよ!」
「俺たちはいろいろあって一緒になった。お前もそこ、分かってるよな?」

下を俯いたビリーは、キッと顔を上げた。
「結婚する! 俺、決めたんだ!」

ちょっと深呼吸だ。僕が熱くなっちゃいけない。

「ビリー、お前初恋だろ?」
「うん……」
「気持ちが燃え上がるのは分かるよ、覚えがあるしね。誰だってそうだし。けれど今はちょっと立ち止まった方がいい。勢いで決めちゃいけない」
「ビリー、リンダもおんなじなのか? お前と結婚したいって」
「そうだよ、リッキー。俺たち同じ気持ちなんだ」
「リンダはいくつだ?」
「22」
「2つ上か……」
「なに!? リッキー、歳上だからって反対!?」

すぐボルテージが上がるビリー。こういうところ、ちっとも直っていない。

「ちげぇよ、お前、乱心すんな。歳上の女性って聞いて安心だなって思ったんだよ。お前にはそういう人の方がいいんじゃねぇかって」

ホッとした顔のビリー。
「じゃ、ジェフと母さんにまず相談すればいいじゃないか。そりゃ僕らも相談には乗るけど、ちゃんとした話にしたいんなら筋を通さないと」

何を迷っているのか。ビリーは口を開かない。

「ビリー。何かあるんだろ。言えよ、聞くから。どうしたんだ、一体」
「……俺、子ども出来た」

 僕とリッキーは目を合わせてそのまま固まった。一瞬思考停止。子ども? 子どもって言った?

「お前!! なにやってんだよ! いきなりそれか? で、子どもが出来たからって結婚しようって安易に考えてんのか? 責任取るとか、そんなこと言ってんのか!? それじゃ愛じゃねぇだろっ!」

リッキーの剣幕に僕まで気圧されてしまった。

「違う! そりゃ時期はもうちょっとしてからって思ってたけど、それがなくても結婚するつもりだったんだ。でもこうなったなら早い方が赤ん坊のためにもいいって……」
「ビリー、お前気をつけなかったのか? それって男性側が気を遣ってやらなきゃならないことだろ? 恋愛はいいんだ、セックスも。そういうことじゃなくて、彼女を大切に思うならお前が気をつけなくちゃならなかったんだ」
「分かってる……俺が悪かったって思ってるよ……だからこれ以上リンダを困るようなことにしたくないんだ」

 腕組みをして考えた。生憎、僕もリッキーもそういったことを心配する状況に無い。だから正直どう考えてやったらいいか分からない。

 僕は携帯を取り出した。
「やぁ、タイラー? 僕だ。ちょっと時間空いてるかな。うん……こっちから行ってもいいんだ。うん……うん……分かった。助かるよ、ありがとう」

途中からビリーの手が僕の腕を掴んだけど事は急を要する。
「タイラー呼んでどんすんの!?」
「だって子どものこと聞くならアイツしかいない。すぐ来るよ、ヒマしてたって」

 ビリーはまるで裁判でも受けるような顔をしている。今からそんなじゃ、ジェフの前でどうするんだか。

 

 

 ノックがあってドアを開けた。
「悪いね、ちょっと相談というか、意見を聞きたくてさ」
「何だよ、難しい話か? あれ? ビリー、久し振りだな!」
「やぁ、タイラー」
「元気無いな、どうした?」

「ビリーがね、結婚するんだって言うんだよ」
「え、え?」
「で、相手は2つ上のリンダって子。あの病院のナースだ。あの事件の時に知り合ったんだよ」

「早いんじゃないか? 卒業してからとかさ」
「子どもが出来たんだ、タイラー」
ビリーは自分から言った。

 

さすがにタイラーも驚いている。

「子ども? え、そのリンダとの?」
「うん……」
「今、何か月なんだ?」
「えと、先月から……無いって、その……」
「先月!?」

やっぱり経験者は違う。的確な所を突いてる。

「おい、それじゃ話にならないよ。妊娠検査薬とかは? ナースだから分かるだろ」
「夕べ会って、その、パニくってて、二人で」
「おいおい! しっかりしろよ! まず、検査。で、はっきりしたら考える。子どもは認めるつもりなんだろ?」
「うん」
「なら考えることなんか無いさ。すぐに結婚しちまえ。責任とかそういう考え方はするな。夫婦とか親子とかって、息長く一緒に過ごして行かなくちゃならない。それを考えて好きだっていう気持ちに間違いないなら躊躇うな」

ビリーの顔つきがしっかりしてきた。僕とリッキーはただそのやり取りを聞いてるだけ。

「じゃ、これからジェフに報告して……」
「バカ、その前にまず検査。確定してからの話だ、結婚なんて。リンダに連絡取れ」
「分かった」

電話のために寝室に行かせた。
「良かった、タイラーに相談して。こういうの、僕らには分からないからないよ。な、リッキー」
「すげぇな! やっぱ経験者って話が早いもんだな」
「あんまり言うな、俺だってあの時には泡食ったんだし」

 

 ビリーが戻ってきた。
「検査しろって言ったか?」
「あの……」
「どうした?」
「したって……」
「それで?」
言い淀んだのを見てタイラーが笑い出した。
「違ってたんだな? そうだろ?」
「……うん……」

 取り敢えず、兄という僕の立場からしてみたらホッとした! だってこれ以上母さんを困らせたくない。

 

「ビリー、座れ」
タイラーの真面目な声に僕もリッキーも座った。
「男には責任があるんだ。妊娠とか出産とか、それを女性は一人で背負わなきゃならない。俺もバカなことしたよ、今思えばそう思う。結婚するのはいいんだ、ただ責任をちゃんと負えるだけの人間にならなきゃ親になっちゃダメだ。ビリーだってまだ学生だろ? それともお腹に赤ちゃんのいるリンダにキツいナースの仕事続けさせるつもりだったか?」

 神妙な顔をしているビリー。タイラーはやっぱり大人だと思う。僕らならこういう話はしてやれない。

「じゃ、今度からは気をつけるな? 結婚するならちゃんと二人で将来を考えろよ」

ビリーはしっかり頷いた。

 立ち上がったタイラーの手を握った。本当に感謝だ。

「ありがとう! 僕が言わなきゃならないことをみんな言ってくれた。それに助かったよ、僕らには分からないことだから」
「いいんだ、俺の失敗談も何かの役に立つってことだな。じゃ、また今度な。今夜はレイと飲みに行くんだ」

 タイラーを外まで見送った。タイラーとレイはあの事件から結構仲がいい。一緒の現場で働いてお互いに気楽に感じたそうだ。大人のタイラー、嘘と迷いの無いレイ。確かに楽なのかもしれない。


「ビリー、一つだけ」
「なに? フェル」
「ウソついてリンダとつき合うなら別れろ。母さんたちにも言えないような関係ならやめるんだ」
「その……言いにくかったんだよ」
「理由はどうでもいい。僕もリッキーとのこと、はっきり宣言したろ? ちゃんとリンダを家に連れて行って紹介するんだ。約束できるか?」
「……分かった。そうする。フェル、リッキー、ごめん。俺、軽はずみだったと思う。ちゃんとするよ、リンダとのこと。今夜母さんとジェフには話す。次のリンダの休みの時には家に招待するよ」
「そうしろ。隠れてつき合うな。後で後悔するようなことをするんじゃない。いいな?」

 

ビリーが帰って、リッキーが差し出したカップを受け取った。コーヒーのいい香り。

「なんかさ、フェル、やっぱ兄貴だな」
「そりゃ兄弟だし」
「じゃなくて。いい兄貴だなって思ったってこと。さっきの、良かったと思うよ。俺の時もフェルは隠さねぇでくれた。だから俺も堂々としてられて。感謝してんだ、あん時のこと」
「改まって言うなよ」
「ううん、あん時恥ずかしかったけど、やっぱフェルのやることは正しいって思ってさ。隠し事が無ぇってのはいいことだよな、俺もそうもうよ」


  ――リッキー、僕は………


 その笑顔を正面から見ることができなかった。今はまだどうしていいのか分からないんだ、自分でも……

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