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J (ジェイ)の物語」

​第3部
18.束の間の休息

 仕事が順調な傍ら、ジェイは12月が一日一日と過ぎていくのが怖かった。最初の呼び出しは1月14日。もちろん弁護士も花も一緒に行く。しかし相田の顔を見るのが、どんな顔で自分を見るのかが怖い。さらに、相田が何か言いだすのではないか……それを思うと心が底無し沼に沈んでいく。自然と手が止まる時には花が声をかけた。

「ジェローム」
顔を上げると花が頷く。生きている世界に戻ってきたような気がする。花はそんなジェイを見てあることを思い出した。

「ジェローム、忘年会のこと考えたか?」
「忘年会?」
「あ、まだ聞いてないんだな。新人は忘年会で余興をしなきゃならないんだ」
「よ、余興?」
「そう。俺は面倒だったから哲平さんに前に出て来てもらって、いきなり投げた。結構ウケたよ、哲平さんは本気で怒ってたけど」

目に浮かぶようだ。いや、それどころじゃない。

「俺もなんかやんなきゃならないんですか!?」
「もちろん。今から考えといた方がいいぞ、お前は特にそういうの苦手だろ?」

人生の中でそんなものを考えたことすら無い。
(後でネットで検索しないと!)
他の事が頭から飛ぶ。花のやったことなど参考にもならない。

「他の人は? 俺より前に入った……例えば高野さんは?」
「歌、歌った」
「じゃ、橋田さんは?」
「やっぱり歌。振付が付いてたな」
「ふりつけ……じゃ……じゃ、澤田さんは!?」
「あいつ、応援団だったから喚いてた」
「……井上さん」
「知らない、俺入社した時にはいたからな」
「他に誰か知らないですか?」
「知らない、俺、若手だから」

花はちょっと笑っている。泡食っているジェイが面白い。
(何やるのか楽しみにしようかな)
この辺は三途川と似ているかもしれない。下手にヒントなどやりたくない。

「花さん、助けて。俺、どうしたらいい?」
「さあな、困ったなぁ。時間あるから考えたら?」
「さっき今から考えた方がいいって言ったじゃないですか!」
「だから、俺は考えたら? って言っただけだろ?」
「……なんか、花さん意地悪してる」
「は? 俺、そう見えるってこと?」
「え、いや、あの……」
「ま、俺から意地悪取ったら何が残るかって話だけど」
「花さん! さっきから俺に冷たい気がします!」
「悩め、悩め。お前の余興、楽しみにしとくよ」

 お蔭でジェイの頭の中の優先順位が変わってしまった。まず、無事に忘年会を乗り越えないといけない。

「蓮……」
「どうした、何があった? お前終わりごろから気もそぞろになってたな」
「見てたの?」
「俺はいつもみんなの様子を見てるよ、お前だけじゃくて」
「なんでそんなに仕事出来るの?」
「なんでって……」

 まだ家には着いていない。帰りの車の中だ。ここでは仕事の話をしてもいいと、互いに暗黙の了解がある。

「蓮はすごいよね、尾高さんとか池沢チーフとか、そんなに歳違わないのに」
「なんだよ、俺はこれでも頑張ってきたんだぞ」
「でも凄すぎると迷惑だよ」
「何突っかかってるんだ? 言えよ、何かあったんだろ?」
「なんか……八つ当たりしたい」
「なんだって?」
「蓮に八つ当たりしたい! って言ってんの!!」

ジェイのおかしな態度が気になるというより、蓮のツボに嵌ってしまっている。笑いたいのを懸命に堪えて隣を見ると、ハンドルを握って頬が膨れているのがやけに子どもっぽい。
(まるでゴーカートに乗ってる子どもだな)
自分でそう思って想像したら、息が詰まるほど苦しくなってきた。

「なぜ八つ当たりしたいんだ?」
「蓮がR&D作ったんだよね」
「俺がか? 俺は会社の指示に従ってあそこを任されただけだ」
「でも、最初のいろんなことは蓮が決めてきたんでしょ?」
「いろんなこと?」
「歓迎会はこうやるとか忘年会はこうやるとか」

ジェイの言いたいことが分からない。

「まあ……そうだな、形は作ったけどな。後はみんなの自主性に任せたが」
「なんで余興なんて作ったの? 蓮の責任だよね!」
「おい、どうしたんだよ。変だぞ、お前。余興は確かに俺がやらせ始めたが……あ! 今年はお前か!」
「今年から無しにしてよ」
「そういうわけには行かないよ」
「なんでさ! 蓮、俺が可愛くないの!?」

(いや……今の質問そのものが可愛いぞ)
声を出すのさえ苦しいほどおかしい。

「返事してよ! 今年だけ無しにして!」
「我が儘だろ、それ。みんなやってきたのに」
「やること、無い」
「考えろよ」
「無理」
「そう言わずに」
「じゃ、蓮が考えて」
「みんな自分で考えてやったんだ、それくらい自分で何とかしろ」

車が止まった、急ブレーキで。

「おい! 危ない!」

ジェイが蓮に向き合った。

「蓮なんか、嫌いだ!!」

 さて、困った。車は発進したけれど、あれからジェイは口を利かない。

「お前、大人げないぞ。社会人だろ?」
「…………」
「しょうがないなぁ。俺も甘いよな、みんなが何やったか教えてやる」

 ジェイの怒った顔が少し解れた。

「最初は新人がやったんじゃなくて、みんなが打ち解け合うためにやったんだ。池沢はマイクを使わずにあの声で『自分は大声が出る』とか言った。三途は、登山の話だな。哲平はベラベラ早口でまくしたてて『これくらいのスピードで話せる』とか訳の分からんことを言ってた」

思わず笑った。だって池沢も哲平も、らしいから。

「後は…浜田は『俺は口が軽いから気をつけてください』だったかな。広岡はパニックを起こしそうだったからパスさせた。ああ、田中。仕事に対する姿勢とか仕事の目標を言ってたよ。最初からクソ真面目だった。覚えているのはそんなもんかな。花は変わってたぞ」
「知ってる、哲平さんを投げたんでしょ?」
「なんだ、知ってたのか。最近は歌うのが流行ってる。ま、手っ取り早いからな」

手っ取り早いだろうけど、みんなの前で歌うのはカラオケじゃないからいやだ。

「参考になるの、無かった……何やれって言うの? 俺、何も無いよ……」
「もう少し考えろ。やっぱり自分で決めるべきだと思うよ。なんでも人に頼るな」

 多分、三途川や池沢に相談しても同じような答えが返るだろう。特に三途川はあまり相談したくない。何を言われるか分からない。

(澤田さん……相談してみようかな)
大阪出身だし、こういうことを考えるのは得意そうな気がする。

(後は……)
落ち着いている人に聞いてみたい、意地悪じゃなくて。
(そうだ! 和田さんと中山さん! 和田さんは気さくだし、中山さんは落ち着いてるし。蓮とか花さんとかと大違いだ!)


 次の日、何とか時間を見つけてまず澤田に話しかけた。

「余興? 面白きゃいいんだ、なんだって」

そう聞いた途端にリストから外した。

「そうだね、俺なら子どもの話かな。これ見てよ、可愛いだろ? 先週撮った写真なんだ。こっちは月曜、これは昨日」

和田も却下。散々写真を見せられた。

「いいんだよ、そんなに気を張らなくても。面白かった本の紹介とか旅行の話とか」

ため息が出る。中山は優しいけれど参考にならない。花は納得しないだろう。

(後、相談できる人は?)

「どうした? 悩んだ顔して」
「広岡さん! 俺、困ってて」

ジェイはわけを話した。広岡が微笑む。

「ジェロームは真面目だからなぁ。その場の勢いで話せるタイプじゃないし。結構普通の話でもいいんだよ。そうだな、例えば、どこのお店はランチとしてお薦めですとか、好きな食べ物とか。意外とそういうのってウケがいいんだ。後は……お前、免許取ったろ? 分からないこととか、逆に質問するんだよ、こういう時はどうしたらいいかって。教えたがりが多いから勝手にみんな話し始めるよ。ゲームの話でもいいし、映画でもいい」

 広岡が一番参考になった。これで足掛かりが出来たような気がする。
(車と、映画……コメディかゲーム!)
ゲームは最近テトリスをやっている。楽しくて仕方ない。
(ゲームの話がいいかも! 達成感とか話そうかな! きっとそれならウケる!)

「どうだ? いい余興見つかったか?」

悪戯っぽく花が聞いた。

「はい! もう決まりました」
「どんなことやるんだ?」
「内緒です」
「へぇ! じゃ、うんと楽しみにしてるよ」
「任せてください!」

 ジェイには荷が重かったのだ。やはり、余興は今年は止めた方が良かったかもしれない……

 不思議なことに、花は指示を出しながら仕事を進めていく時には日頃の不遜な態度が消えていた。ジェイは今、花の補助だからそれが良く見える。
 花の考え込む時間は短い。スケジュールを見ながら声をかけていく。

「中山さん、今空きましたか?」
「空いたよ」
「じゃ、これ打ち合わせたいんですが。池沢チーフ、一息ついてますよね、一緒にお願いします。三途さんはチームの他の仕事の指揮を取ってください。千枝さん、三途さんの補助で。野瀬チーフ、今日やっぱり無理そうですか?」
「30分位なら空けられるぞ」
「じゃ、この資料目を通してもらえますか? 実現可能かどうかチラッと考えてほしいです。返事、メールで下さい、簡単な理由も」

 そして中山と池沢とミーティングルームに入っていく。
(蓮みたい……)
それは、以前池沢が思ったことと同じだ。

(凄いなぁ)
 自分はきっとああいうタイプにはなれない、そう思う。どちらかというと誰かの下で自由に動ける方がいい。言われる前にやっておく。そこに仕事の快感を感じる。リーダーで突き進むことは無理だろう。蓮の花を見る目が満足そうに見える。それが羨ましいとは感じない。花なら当然のことだと、自分まで嬉しくなる。

 忘年会が近づいてきた。今日は金曜日。来週の金曜がその日だ。家に着いてからメールが届いているのに気がついた。

『よ! 元気にやってるか?』
(哲平さんだ!)
『そろそろ忘年会の時期だよな。行きたいんだけどさ、こっちも同じ日で無理なんだよ。どうしようか迷ったけど心配だからメールした。余興、用意できたか? お前不器用だからな。これは本当は当日まで内緒の話だが、野次飛ぶんだ。でも恒例のことだからその時に焦るなよ。みんなやられてるんだ。野次飛ばすのは野次将軍一人だけだ。それは当日会場で抽選で当たったヤツがやることになっている。だから誰が飛ばしてくるか分からない。とにかく落ち着いてやれよ。なんなら笑ってやれ。じゃな』

(野次……将軍?)
誰もそれは教えてはくれていない。哲平のメールにも内緒なのだと書いてあった。

(何を野次られるんだろう?)
 忙しい中をメールしてくれた哲平のことを思うと、簡単に問い返せない。きっと誰も教えてくれないだろうけど、当日突然野次を飛ばされるよりはマシかもしれない。

(向うも抽選ってことはやらされるって意識なんだ。そんなに怖がんなくてもいいかもしれない)

前もって教えられたことで、妙に安心感が出ていた。あれからまた何回かテトリスをやっている。どこが楽しいのか、よく分かっている。哲平には簡単に返事を返した。

『忙しいのにありがとうございます! 頑張ります』

「蓮!」
「どうした、何かあったか?」
「定期買うのにお金下ろしたんだけど、残高が変なことになってる!」
「変?」

うっかり多く引き出したとか、そんなところだろうと思った。

「この通帳、定期代下ろして14万のはずだったんだ、けど62万円になってる!」
「……お前、それ給料の入る通帳か?」
「うん」
「ボーナスが入ったんだよ」
「ボーナス?」
「明細もらっただろうに。いろいろ引かれてるから手取りだと少なくなるけどな、来年はもっと出るぞ、今年は新米だからそれだけだ」
「それだけって……ええ! こんなに出るの!?」
「業務に対する評価だからな、手を抜けば減る。だから多く欲しければ頑張れ」

残高明細に目が釘付けになっている。夏のボーナスはいくらでもなかった。当然だ、働いて2ヶ月なのだから貰えるだけでも不思議なくらいだ。
(これ、貯金用の通帳にすぐ移さなくちゃ!)
何十万という収入、それが自分のものなのだ。

 忘年会当日。

「服は持ったか?」
「持ったよ」
「帰りはお互いに酒が入ってるから電車で行こう。お前、飲み過ぎるなよ」

 それにはもう懲りている。それどころか正体を失くすこと自体が怖い。他のメンバーにも、各チーフから厳しくお達しが出ていた。
『あまりジェロームに酒を飲ませるな』


 この日ばかりはみんな朝から浮かれている。それにチラチラとジェイに視線が集まる。
(そこまで期待されると困るんだけど)
だんだん不安になってくる。

「花さん……」
「なに?」
「俺、やっぱり余興不安で……」
「大丈夫さ、みんなどうせお遊び感覚なんだから」
「でも」

本当に不安な顔をしているから時計を見た。

「ちょうどいいや、休憩だ。4階に行こう」

ホッとした。手放されたらどうしようかと思っていた。

「で? どこまで聞いたらいいんだ?」
「あの、俺、近頃嵌ってるゲームのこと話そうかと思って」
「いいじゃないか! ゲーム好きなヤツ多いしさ、食いつかれると思うぞ」
「ウケるってこと?」
「そ! いいテーマ選んだな、お前にしちゃ上出来だ」
「良かった!」
「お前がゲームやってるとは知らなかったよ」
「ヒマつぶしにと思って。結構俺、上手いんです」
「そうか、今度行くからさ、相手しろよ。俺も自分のを持ってくから」
「はい!」

 これで安心だ。何せ、花のお墨付き。後はあんまり話を長引かせないようにしようと、それだけを考えた。

 

 前回トラブルがあったから違うホテルが会場になった。ジェイに思い出させない方がいいだろう。そう、幹事の澤田と柏木が気を配った。

 司会は澤田。蓮の挨拶、乾杯の音頭は野瀬。ある程度仕事を一段落させてからの忘年会だからみんな寛いでいる。ジェイも少しワインをもらった。しかし、時間が経つほどに酒を飲む気分じゃなくなっていく。

「飲んどけ、それくらいなら」

花がそばに来た。

「前に行ったら上がるぞ。アルコールの力、借りとけ」

それもそうだ。ジェイはグラス半分近いワインをぐっと飲んだ。しばらくしたら、気持ちがふわふわしてくる。
 その時に声がかかった。

「ジェローム、前に来い!」

司会の澤田だ。ジェイを呼ぶ前に野次将軍のくじ引きをしてある。実は今回はそのくじにみんなの悪戯心が入っていた。知らぬは当人ばかりなり。

 

(来た!)
 酒がそれなりに回っているから思ったより動揺していない。前に出て澤田からマイクを渡された。喋ろうとしたら野次が飛んだ。

「どうした! 声が聞こえないぞ!」

(え、蓮? なんで?)

正直言って自分がそのくじを引くとは蓮も思っていなかった。
(やりにくい……また『嫌いだ!』って言われるのか?)
だがこればかりは仕方ない。蓮はそのくじ引きが八百長だったとは知らない。ジェイは途端に舞い上がってしまった。

「あああの、」
「なんだ? 何が言いたいんだ?」

野次は徹底的にやることが伝統だ。

「課長! 話させてください!」

どっとみんなが笑った。これまで野次将軍に言い返した新人はいない。

「えと、これから今俺が嵌っているゲームについて話します」

(ゲーム? え? お前がやってるゲームって……)
蓮は野次を忘れた。顔を覆いたい。
(お前のゲームはみんなにはゲームの内に入ってないぞ)

「すごく楽しいから皆さんにも是非やってほしくて。『テトリス』っていうんですが」

ほとんどの者が『は?』という顔をしている。花が泡食った。
(しまった! 何のゲームか聞いとけば良かった!)

 そんな会場の様子も分からないまま、ジェイは一生懸命ゲームの説明を始めた。みんなも野次が飛ばないことにさえ気づかないほど呆気に取られていた。

「で、何がいいかというと、全部をクリアした時の達成感が堪らないんです! 皆さんも是非、やってみてください!」

(終わったんだけど……)

 目をぱちぱちさせていた澤田がハッと気づいたようにジェイの手からマイクを取った。

「えっと、以上、ジェローム・シェパードの余興でした……」

(俺、何か間違った?)
会場が静かなままでどうしていいか分からない。その内、小さな笑い声が起き始めた。それはどんどん大きくなっていく。みんなが笑い転げ始めた。澤田からマイクを取ったもう一人の幹事、柏木が笑いながら喋った。

「いや、お前だから通用するよ、今の余興! あんまり驚いたから笑うタイミングが分からなかった! 最高だ、みんな、ゲームの原点に戻れたか!?」

その言葉にまた爆笑が起きる。

「あの、良かったんですよね? あれで」

そっと柏木に聞いたのにそれは持っているマイクを通して会場に響いた。

「いいことにしてやるよ!」
「もう、堪んない!」
「テトリスと来たか!」
「やめて、また笑っちゃう……」

(成功……なの?)
イマイチ会場の反応が違うような気がしてならない。

「どうなるかってハラハラしたよ! 良かったな、笑ってもらえて。あのままシラケるんじゃないかって心配した!」
「花さん……みんな、何で笑ってるんですか?」

池沢がそばに来た。

「アレ話したのがお前だからウケたのさ。哲平がここにいたら引っ繰り返って笑うよ、きっと」
「だめだめ、そんな言い方してもこの子、全然分かってないわ。あのね、ジェローム。テトリスって、みんな小学校の低学年くらいでやってるの。それを堂々と遊び方の説明から始めたからみんな呆気に取られたのよ」

三途川の説明にジェイは固まった。

「小学校の……低学年?」
「せっかく課長を嵌めたのにさすがに黙っちゃったわね」
「菜美ちゃん、それ言っちゃだめ!」

「嵌めた?」

真後ろから蓮の声が低く響いた。

「やばいっ!」

浜田の声。一言多い、口の軽い男だ。

「浜田、俺を嵌めたって、つまりくじ引きは八百長か?」
「だって面白いじゃないですか! 課長、将軍やったこと無いからやらせちゃおうって澤田さんが言い始めて……」
「浜田! 余計なこと言うな!」
「ふぅん。澤田。正月明けのフロアの掃除はお前がやれ」
「課長、俺がやらなくても清掃のおばさんが来ますよ」
「全員のデスクを拭け。それならおばさんたちも手を出さない」

後はそれほどジェイの余興の話を引きずることも無く、和気あいあいと忘年会は終わった。

 

 


「元気無いな」
「俺……恥ずかしい、小学校の時にゲームなんかやらなかったし」

電車の中だから抱きしめられないけれど、そんな衝動に駆られた。
(酷なことをさせたのかもしれない)

「大丈夫さ、みんな結局は喜んでたんだから。悪かったな、もっとちゃんと相談に乗れば良かったよ」
「蓮のせいじゃないよ。俺がものを知らなすぎるんだ……」
「花が言ってたよ。いろんなゲームを教えてやるって。来年、泊りがけでお前の所に遊びに行くってさ」
「本当!?」
「ああ。だからたくさん教えてもらえ。あいつはゲーマーだからきっと楽しいぞ」

ジェイが嬉しそうな顔をするから蓮も幸せな気持ちになっていく。

(もっとお前に遊びを教えてやらなきゃな)

1月はジェイにとって苦しい月になるだろう。それまでは楽な気持ちにさせてやりたい。

 そして年が暮れていく。ジェロームを悪夢の年が待ち受けていた。

    ―― 第3部 完 ――

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