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J (ジェイ)の物語」

第三部
​5.歪んだ影 -2

 走ってくる足音が聞こえた。入って来た野瀬と池沢が愕然とした顔をしている。
「悪いな、今日はもう解散にしてくれ。俺の代わりに野瀬、お前にスピーチを頼む」
「分かりました。すみません、課長」
「なんで謝る?」
「俺たち、聞いてたんです、柏木から。こういうことを横浜でもしていたって。でも高を括ってました。ホントにすみません」
 聞いて花が食ってかかった。
「じゃ、黙ってたんですか、それを聞いておきながら! ジェロームはずっとこいつに狙われてたんだ、それを知ってたらもっと早く手を打てた!」
「すまん……お前の言う通りだ。じゃ、解散させてきます」
 野瀬は会場へと向かった。

「お前も知ってたのか」
 池沢に顔を向ける。
「はい、けど本当にこんなことをやるなんて……ジェロームは大丈夫ですか?」
「さっきちゃんと返事をしてくれたからな。多分大丈夫だ、酒が入り過ぎてるからまた意識が無くなったが。こいつにあまり飲ませないようにしないと」
「そうですね……みんなにそれ、来週注意しておきますよ。こんなことが起きたんじゃみんなで気をつけないと。こいつ、どうしますか? 警察呼びますか?」
「……ジェロームの意識がはっきりしたら聞こう。会社としてはかなり痛いことになるな、同僚しかも男を男が襲ったんだ。立派なスキャンダルだ」
「確かに……」
 そこに三途が帰って来た。
「シングルを一室借りることにしました」
「それは有難い! 池沢、運ぶのを手伝ってくれ。三途、その辺に散らばっているジェロームのものを持ってきてくれないか」
「こいつは?」
 花が相田を足でこずいた。蓮がチラッと目を足元に向けた。
「お前、時間は大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「じゃ、しばらく見ていてくれ。ジェロ―ムを落ち着かせたら下りて来るから」
「分かりました。喜んで見張ってますよ」
「やり過ぎるなよ」
「もちろんです、課長。抵抗されなければ」
 花がニヤッと笑った。
「……ま、そうだな。抵抗されれば仕方ない」
 黙認したことになるかもしれないが、それはどうでも良かった。花がやらなければ自分がやるだけだ。

 3階の一室にジェイを運び込んだ。体を横にして池沢と靴を脱がせたり世話をしているうちに、ふっとジェイが目を開けた。
「おいっ! ジェローム、気がついたか!?」
「ちーふ? え、ちーふ?」
「ああ、俺だよ。大丈夫か、どこか痛くないか?」
「だいじょぶ……あの、かちょうは」
「俺ならここにいる。喉渇かないか?」
「みず、ほしい」
「三途、頼む」
「はい」
 冷蔵庫の音がする。支えられて水を飲んだ。
「はあっ おいしい」
「少し眠れそうか?」
「はい、ねむい」
「じゃ、休んでろ。後で覗きに来る。電気は弱くしとくからな。携帯はここだ。何かあれば呼べ」
「ありが……」
 もう後は聞こえなかった。様子を見る限り何かを覚えているとは思えない。
「これからどうするんですか?」
 蓮は電話をかけ始めた。
「河野です。お休みの所をすみません。クィーンホテルで歓迎会をしていたのですがトラブルが起きまして」
「ええ、あまり有難くない部類です。同僚を襲ったバカがいまして」
「いえ、性的な意図からです。男性が男性をです」
「分かりました、お待ちしています」

「部長が飛んで来るってさ。部長に任せるのが一番いい」
 池沢が笑った。
「そりゃ、いい! それであいつ、クビですね」
「自主退職になるだろうがな」
「いいですよ、何でも。あいつと仕事するんじゃなきゃどうなろうとも構いません。このままウチにいるんなら、毎日覚悟してもらわないとね。花がいる間はジェロームに一歩も近づけないだろうし」
「花に助けられたな」
「ま、どう見ても殴り過ぎだけど」
 自分も2発殴ったと池沢に言おうとして、三途が小さく首を横に振ったから言葉が止まった。
「花のこと、誰も責められませんよ。相田にしたって訴えるはずがありません」
 三途の冷たい言葉に池沢が頷いている。

 

 その相田は床に倒れたまま襟首を花に両手で掴まれていた。どうやら意識を取り戻したらしい。
「どうした」
「いや、コイツが血迷ったことを言うからちょっと確認してただけですよ」
「う、そじゃない、あいつが誘ったんだ……おれじゃない」
「あれだけ酔っ払ってるジェロームにそんなこと出来るわけないだろっ! それにあいつは酔ってようがなんだろうがそんなことするヤツじゃないっ!!」
 花がまた殴ろうとするのを止めた。
「離してください! なんで止めるんだよっ!」
「今部長を呼んだ。多分この歓迎会でこいつはサヨナラだ。歓送会をするつもりはない」
 やっと花は手を離した。相田の頭が床に落ちる。

 野瀬が戻ってきた。
「みんな帰らせました。誰にも事情は話していません」
「ありがとう。野瀬、池沢、月曜にミーティングをする。どうにかして仕事を回さなくちゃならないからな。対策を考えよう」
「分かりました」
「三途、済まないがもう一室借りてくれないか。出来れば1階で」
「どうするんですか?」
「こんな場所に部長を呼ぶわけには行かないだろう。他の客にも迷惑がかかる」
「はい、すぐに」
 こういう時の三途川は本当に頼りになる。判断も行動も早い。

「か、ちょう、おれは……あいつがさそったんだ、おれ……わるくな」
「黙った方がいい。俺は今機嫌が悪い」
 ビリっとした蓮の声に相田は黙った。しばらくして三途が戻ってきた。
「1階に取れました」
「ありがとう、今日はいろいろ面倒をかけたな。花もだ。大ごとにならずに助かった」
 頭を下げる蓮に花が慌てた。
「俺、その、哲平さんに頼まれたから……」
「ずっと見てたよ、歓迎会の間。お前、三途と一緒に本当にジェロームのために良くやっていた。だからこれで済んだんだと思う。お前が見つけなかったら今頃……」
その先は言えなかった、吐き気がしそうで。犯されていたかもしれない、ジェイは。
『やだ……やめ……』
あの声が木霊のように響く。
(殺してやりたい)
だから部長を呼んだ、今の自分にはまともな判断は出来ない。
 
 三途川の手配した部屋に手早く相田を運んだ。誰かに見られて事件沙汰になっても困る。ベッドに横にさせるわけでも無く椅子に座らせた。自分たちはソファに座る。その状態で部長の連絡を待った。
 それほど待たずに蓮の携帯が鳴った。
「はい、今フロントに行きます。少しお待ちください」
「俺が行きます」
 池沢がすぐに動いた。
「悪いな、頼む」
「私はちょっとジェロームを見て来ます」
 三途が立った。
「すぐ戻ってくれ」
「はい」
 花は相田を見てまたムカムカと殴りたくなっている。
「俺、ここにいていいんですか?」
「目撃者はお前と三途だ、いてほしい。こいつが何を言い出すか分からんからな」
「分かりました」

 すぐにノックがあって、大滝が入って来た。
「一体どうなっているんだ!」
「酔ったジェローム・シェパードをトイレに連れ込んで襲おうとしたんですよ。宗田と三途川がそれを止めてくれました」
「ちが……ぶちょう、ちがいます、こいつら、よってたかって……」
「君の話は後だ。で、シェパード君は? ケガは無いのか? その……無事か?」
「今別の部屋で休ませています。酒も入っているし。もしかしたらケガをしているかもしれません。後で医者を呼ぶつもりです。部長の仰る意味では、彼は無事です」
 そこに三途川が戻ってきた。
「どうだった?」
「はい、今はだいぶ落ち着いたようで目が覚めていました。声はしっかりしてましたよ」
「そうか……良かった! いや、それが何より大事だ、良かったよ! 料金は会社が持つ。だから良くなるまでずっと泊まらせるといい。私が責任を持つ」
「ありがとうございます」
 蓮は目が覚めているというジェロームのところに池沢を行かせた。残ったのは三途川、花、野瀬だ。
「三途川くん、宗田くん。ありがとう。心から礼を言う。二人から話を聞きたい。状況を教えてくれ」
「歓迎会の席でジェロームは周りから散々飲まされてかなり酔っていました。俺と三途さんで連れて帰る手はずを取っている間に姿が見えなくなったんです。最初の頃からこいつはジェロームをつけ狙っていたんでピンと来て……で探していたらトイレから声が聞こえたんで飛び込みました。こいつ、ジェロームを脱がせて覆いかぶさってて……ジェロームは抵抗してましたけど何せ酔ってましたから」
「脱がせて?」
「ええ。上着は脱がされていてワイシャツのボタンは全部外れていました。ベルトがそばに落ちていてファスナーが開いていました」
 大滝の表情がさらに変わる。野瀬の目は汚らわしいものでも見るかのように相田を見下ろしている。
「あいつが誘ってきたんだ! 自分から脱いだんだ!」
「有り得ません! 花が今言った通りです。私も見ました。こいつの足元に脱がされたジェロームが倒れていました」
 三途川が花の証言を支持する。大滝は頭を抱えた。
「部長、どうなさいますか?」
「シェパード君のところに案内してくれ。医者を手配するから診てもらおう。それから出来るなら話を聞きたい」
「分かりました」

 大滝は自分の掛かりつけの医師にすぐ来てくれるように頼んだ。蓮の案内でジェイの部屋に向かう。
「困ったことになったな。ケガが無いといいんだが」
「私もちゃんと見たわけではないので」
 さっきの二人の話で充分腸が煮えくり返っている。これでケガでもしていたら……

 

 部屋に入るとすぐにジェイの顔が向いた。口を開きかけてすぐ後ろから入って来た大滝に気づいた。
「だいぶ水を飲みましたから。少しは落ち着いているようです」
「ありがとう、池沢」
 ジェイは起き上がろうとして頭がぐわんとし、目を閉じた。
「いいんだ、そのまま横になってなさい。大丈夫か? 聞いて驚いたよ。今、医者も呼んだ。すぐに来るからちゃんと診てもらおう」
「すみません、俺、何がなんだか分からなくて……」
「どこから記憶があるのかな」
「あの……」
 チラッと蓮を見た。蓮はジェイに頷いた。
「あの、その、ジッパーを下ろされて……はっきりとは……」
「ああ、言いにくいよな。悪かった。その先は言わなくていい。相田にはそれ相応の償いをしてもらおう」

 あれだけの酒を飲んだ後だ。余計な動きも加わった。さっきから気分が悪かったが部長がいるから必死に我慢した。だがとうとう耐えられなくなり蓮を見た。その訴えるような目に気づいた。
「どうした、真っ青だぞ!」
「は、はき、たくて……」
「待て! 部長ちょっと廊下へ!」
「分かりました!」

 すぐにジェイを抱えてトイレに連れて行った。散々吐いてへたり込むジェイに水を渡す。今は二人きり。
「れん、ごめん。ごめんなさい、俺また迷惑かけて……」
「謝るな、お前は完全な被害者だ。俺こそもっと気を配ってやれなくて悪かった。後で花と三途に礼を言っとけ。特に花はお前のために相当相田をぶん殴っていたからな」
 抱え上げてベッドに横たわらせた。
「少し顔色が戻ったな。良かったよ」
 ほっとする、今日はいろいろあり過ぎた。
「ありがとう………俺、相田さんに……?」
 まだ酔いはかなり残っているから記憶はぼんやりしているようだ。
「今はいい。それよりゆっくりしろ」
 頬を優しく撫でるとジェイは目を閉じた。

 ノックの音。蓮は部長を放りっぱなしだったことを思いだした。
「すみません、追い出してしまって」
「いいんだ、今医者がホテルの前に着いたらしい」
「じゃ、誰か行かせます」
 蓮は池沢に医師を連れてくるように頼んだ。少ししてまたノック。来たのは白髪で小柄な医師だ。ジェロームを診ている間、蓮と大滝と池沢は外に出た。

 ドアが開き医師が出てきた。
「どうかね?」
「明日になればあちこち痣が出来るでしょうね。腕、肩、腿に痛みがあり、どうも思い切り掴まれたようです。外傷はありません。言いにくいですが、首にも痣がしばらく残るでしょう、吸われてますからね」
 大滝の溜息。蓮の震える拳。
「どのくらいかかると思っていいかな、その、首の痣が消えるまで」
「結構かかりますよ。簡単には消えませんから」
「じゃ、診断書を出してくれ。彼には治るまで休暇を与えたい」
「分かりました。ではまた、改めて。あ、鎮痛剤と安定剤を出しておきますね。今は大丈夫でしょうがかなりショックを受けると思いますよ」
「助かるよ。もう一人診てもらいたい。池沢くん、相田のところに先生を案内してくれ」
「分かりました。先生、こちらへ」

 大滝が辺りを見回す。廊下の突き当りにソファが見えた。
「河野、ちょっといいか?」
 大滝についてソファに座った。
「対応策を考えなきゃならん。悪かったな、相田がどういう男か全く把握出来ていなかった」
「それは私もです。この業界はクセの強い人間は幾らでもいますからね。でもこんなのは想像の範囲外です。ジェロームはとても素直なヤツなんです。今時珍しいくらい純粋なヤツで……先生の言った通り、酔いが覚めてからショックが心配です」
「その辺のケア、引き受けてくれるか?」
「もちろんです!」
「今回のこと。落ち着いたらシェパード君に確認しなきゃならん、訴えるのかどうか。れっきとした暴行だからな、相田には辞職願を書かせるつもりだ」
「部長。それって訴えられる前に会社から切り離しておくってことですか?」
「当然の自衛策だよ。在職中に訴えられたんじゃ会社対シェパード君にもなり兼ねん。それは避けた方がいいだろう?」
 確かにそうだ。会社は穏便に済ませたいだろうから相田が在職している限り動きにくくなる。ジェイの扱いにも匙加減が加わるかもしれない。相田が辞めれば、逆に会社はジェイを支援できるだろう。
「分かりました。これからのことですが、ウチとしてはかなりキツいことになります。しばらくは私が穴を埋めますが」
「チーフを兼任するのか?」
「はい」
 そう返事をしてちょっと考えてみる。それは得策ではない。忙しさのあまり全体を把握できなくなる恐れがある。別のことを思いついた。
「部長、ウチの中山良二ですが、田中から仕事を引き継いでいます。それをそっくり相田に渡したんですが。中山にチーフ代理をさせてもいいですか? 彼なら上手くチームを牽引して行けます」
 しばらく考えたが大滝にも今すぐの打開策が出ない。
「よし、田中を戻すまでそれで行こう。チーフの後任はすぐには見つからんが、数としての単なる欠員補充ならすぐに人を回せる」
「誰でもいいってわけじゃありません」
「分かっている。今度はきちんと人選するよ。しかし私生活のことまで拾いきれんからなぁ」
 大滝の嘆きも分かる。大滝にすれば、せめて今回の不始末の相手が女性であってほしかったというところだろう。口が裂けても言えないが。
「相田の所に行ってみる。君は彼のそばにいてやってくれ。まだ具合悪そうだからな。無理はさせるな」
「はい」
 池沢が部長に同行した。

 

 中に入る。ベッドの上のジェイの顔は白かった。
「まだ気持ち悪いか?」
「さっきよりいいんだけど」
「何かしてほしかったら言え。しばらく二人きりだ」
「蓮、俺ホントに謝りたいんだ。酔ってたし、今も酔ってるけど……そんなの言い訳にならない」
「そんなこと無いよ」
「気がついたらジッパー下ろされてキスされてて……すぐに動けなかった、ホントのことと思えなくて……まだ記憶、ボヤけてて……」
「いいんだ、怒ってなんかいないから。大丈夫だ」

 首筋にくっきり赤い跡が残っている。早く体を洗ってやりたい。そう思った。
 心配なのは明日の朝だ。今はまだいい。夢の中の出来事のように呆然としているのだから。けれど、朝が来て、酔いが醒めて、現実を認識したら? ジェイのことだ、ショックはそのまま心へ突き刺さり大ダメージを残すだろう。
(守らなければ)
 明日が土曜で良かった。明後日が日曜で良かった。せめて2日はじっくりそばにいてやれる。診断書が出ても出なくても大滝はジェイを休ませるだろう。首のマークは会社にとっても致命的だ。でも休んで一人で家にいられるのだろうか……
 髪を撫でている内にまたとろとろとしてきたようだ。目が開いたり、閉じたり。その間隔がだんだん短くなり、閉じている方が長くなる。
(眠るんだ、ジェイ。きっと明日は辛い思いをする。ぐっすり眠れ。悪い夢を見るな)

 小さなノックがあって開けると花がいた。
「相田のこと、報告に来ました。一応ですね、顔は充分腫れている。鼻血は止まってます。拭いといたからそうグロテスクには見えなかったはずですよ。課長のパンチもいい音立ててたからなぁ。あ、全部俺が殴ったことになってるんで今さら覆さないでくださいよ。問題にしないと部長も言ってくれたし。相変わらずジェロームが誘ったとかくだらないこと言ってるけど、部長もそんなの信じちゃいないですから。部長、今日はこのまま帰るって言ってました。明日午後、ここに来るそうです。で、ジェロームに訴えるのかどうか聞いて全部決まるって言ってました」

 言うだけ言って、気遣わし気な顔で眠っているジェロームの方へ目を向けた。

「大丈夫でしょうかね。こいつ、明日まともでいられるのかな……」
「俺もそれを心配してたよ」
「子どもだからなぁ。会社のそばの『フェアリー』って知ってます? あそこでパフェ食べてた時のジェロームの顔、幸せそうでしたよ」
「こいつ、そういうの食ったの、社会人になってからなんだって言ってたよ」
「え?」
「だからきっと食べても食べても足りないんだろう。給料が出るまではプリンもゼリーも食べられないって言っていた。だから本当に幸せなんだよ」
「……俺が昼、つき合います、こいつに。好きなとこついてって知らないとこに連れて行く。哲平さん、うざかったです。しつこいし。でもあのお蔭で俺もちっとは変われた。ジェロームにいろんなこと、教えたいです」
「そうか。頼むよ、本当に」
「あと、合気道教えようと思ってます」
「合気道?」
「ええ。俺、かなり悔やんでるんだ。この前教えてやるって言ったんですよ、ジェロームに。なのにそのままにしちゃって。せめて基本だけでも教えておきゃ良かった……」
「お前が悪いわけじゃないさ」
「でも、取り返しがつかない。今夜、どうすんですか? こいつ、ここに一人?」
「いや、俺が泊まるよ」
「課長が?」
「ああ。俺の部下が俺の部下に傷を負わせた。こいつに申し訳無いことをしたと思ってる。相田がオフィスで絡んできた時、ちゃんとしておけば良かった。あれきり放っておいたからな」
「明日、ここにいます?」
「ジェローム次第だな」
「じゃ、メールします。来週は俺と三途さんでカバーしますよ、こいつのこと」

 今は穏やかに眠っている。花から、医師が渡してくれたという安定剤を受け取った。酒が抜けて不安定なら飲ませた方がいいと。
(これを使わずに済んでほしい)

​ 池沢と野瀬、三途川が来た。
「どうですか?」
「今眠っているよ。今日はこのまま起きないだろうとは思うんだが」
「そうだといいです。俺も調子に乗って飲ませちゃいましたから。ジェロームに可哀想なことばかりしてるな、俺って」
 野瀬はジェロームを酔わせたから自分が悪いことをしたと思っている。
「田中チーム、どうなるんですか?」
「まだ何も決まってないよ。それは来週の話だ。それより池沢、もう田中チームじゃないぞ」
「すんなり出て来ちゃうんですよ。そうかと言って、口が裂けても相田チームとは呼びたくない。連中が可哀想ですからね」
 三途川は女性らしくジェイを気遣った。それに二人にした方がいいだろうとも思う。
「じゃ、私たち帰ります。何かあったらいつでも連絡してくださいね。ジェロームのこと、よろしくお願いします」
「気をつけて帰れ。お前も一応女だ」
「課長、セクハラで査問会開いてもらいましょうか?」
「分かった! お前の勝ちだ。二人ともウチのクィーンをお送りしてくれ」
「了解、ボス。女王様には適当に媚び売っときます」

 急に静かになる。明かりを小さくして蓮はソファに横になった。眠れるだろうか そう思いつつ、いつの間にか眠っていた。

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