always

Me and you. Always.

 電話では何回かやり取りしていた。けれどモーテルが近くなってくると、俺は胸がどきどき高鳴っていた。もうすぐだ。もうすぐ、デュークに会える。

 駐車場に車を入れると、驚いたことにそこに彼が立っていた。
「デューク! 待っててくれたの!?」
ちょっとはにかんだような顔をして、箒を見せた。
「ちょうど掃除してたんだよ」
俺はすぐに嘘だと分かった。駐車場はきれいだ。
「で? 集めたゴミは?」
しまった! という顔で慌てるデュークを俺はニヤニヤして見ていた。
「お前、その顔やめろよ」
しかめっ面をしたデュークは、それでもすごく優しかった。
 俺は飛びついてハグした。
「ただいま! デューク!」
そんなことされるなんて、思ってもいなかったんだろう。箒を持ったまま「お、おう、お帰り」 と戸惑う彼。
「ハグは? ちゃんとハグしてくれよ」
そう強請ると、「ちょ、ちょっと待て」と箒をきちんと下に置いておずおずとハグを返してくれた。
 まるでデュークらしくないハグ。俺は手を離さなかった。
「ちゃんとやって!」
「……おう」
じわっと力を入れるデューク。その返事がおかしくて、俺はもう一度言った。
「ただいま‼」

  煎れたてのコーヒーが用意されていた。周りを見ると整然としていて文句のつけどころなんてなかった。デュークの仕事っぷりは完璧だった。
「ありがとう」
コーヒーを受け取ると俺は聞いた。
「なんで、ハグ、あんなに躊躇ったの?」
「……されたこと、無かったからさ」
「え?」
そんなわけない。デュークみたいに気持ちよくて、きれいで完璧な男がハグされたことが無い?
「ずっと旅暮らしだしな。たいした人間関係なんか持ってないんだよ。おっさん、俺なんかに優しくてさ。役に立ちたい。初めてそう思ったよ」
「だって、親とか、友だちとか……」
ちょっとだけデュークの顔が歪んだ。
「いないんだよ、きれいさっぱりとな」 

 笑うデューク。俺みたいに泣かないの? ハグされたの、初めて……? それ以上、聞いちゃいけない気がした。

「お前帰って来たしな。俺はお払い箱だ。おい、モーテル、大事にしろよ」
俺は愕然とした。
「出て行っちゃうの? なんか…… 用あるの? どっか行くの?」
 考えてみると、バカな質問だ。卒業するまで働いてやる。彼はそう言ったんだから。勝手に俺は一緒にこのモーテルで働く姿を想像していた。
「だって、経営者が帰ってきたんだ。俺は臨時のバイトだぞ?」

「……行かないでほしい、デューク」
「どうしたんだ、お前。一人でやってく自信が無いのか?」
「……無いよ…… 無いよ! あんたがいないのに、1人でやっていけるわけがない! 自信なんてこれっぽっちも無いよ!」
「おい、また泣くんじゃないだろうな! 男がそんなに気安く泣くんじゃない、しゃんとしろ!」
「……目だね」
「なんて?」
「2度目だって言ったんだ。『しゃんとしろ』前にもそう言ってくれた、俺がボロボロの時に。あの時、デュークがいてくれたから俺は頑張れたんだよ。どうしても出て行くの?」
「ジョシュ……」
「名前、呼んでくれたのも初めてだね。いつもお前、お前って。出て行くんなら、俺の目を見て俺の名前を言って、そして出てくって言ってよ」
「ジョシュ……俺は得体がしれないだろ? 名前もデュークとしか言ってない。俺がどんなやつか、知ら」
「知る必要なんかない! デュークが言いたくないなら言わなくていい。何も聞かないよ。ただ、あんたにいてほしいんだ」

 それほど、俺の中にデュークは根を生やしていたんだ。デュークのために帰って来た。デュークに会うために帰って来た。それが全部だ。
 俺は、自分がデュークでいっぱいなのを今初めて知った。彼にすがりついた。どんなにみっともなくても、駄々こねるガキみたいでも構わない。デュークが残ってくれるのならそれで良かった。

   しがみついてる俺を、やっとデュークは抱いてくれた。その抱き方はまるで子供をあやすようだった。
「お前なぁ……」
そう言って、俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。溜め息をつく。
「弟って、こんな感じなのかなぁ……」
次の瞬間、俺はぎゅっ! と抱きしめられた。
「ああ! 居てやるよ。お前の好きなだけ居てやる。本当にそれでいいんだな? 俺は人使い荒いぞ」
「それ、俺の言葉だよね? 経営者なんだから」
抱きついたままそう言った。
「こんなみっともない経営者があるか。仕事も俺が上だし、歳も俺が上だ。おまけに」
デュークはそっと俺の腕を外した。そして、俺の濡れた目の周りをその指でぬぐってくれた。
「な? お前の面倒見てんのは俺だろ?」

 恋に時間は要らないんだ。そして、男とか女とか、そんなことも。俺はデュークに恋してた。目はデュークを追いかけ、耳はデュークの声を探した。
いつも触れたくて、それを我慢して、やっと触れればもっと触れたくなった。


 お客さんはちゃんと来てくれていた。中には「ヘイ! デューク!」とか「ハーイ、デューク」とか。そんな親し気な挨拶をしてくる客もいた。
「すごいね! なんか、みんなデューク目当てに来てるみたいだ」
「そんなことあるか。前にも言ったろ? 客室の面倒をちゃんと見ていれば客は喜んで泊まってくれるんだ。おっさんがそう教えてくれたんだ」
そう答える彼は、すごく嬉しそうだった。

 フロントの裏は、小ざっぱりした広い部屋になっていて叔父はそこで寝起きしてた。ベッドが一つ。だからデュークはソファに寝ていた。俺は戻ってからすぐもう一つ、デュークのためにベッドを買った。
「いいよ、ソファで!」
居心地よくしてあげたくて、そう言うデュークを押し切った。
「経営者よりいいベッドなんて……」
「デュークが遠慮? へえ、遠慮出来るんだ」
「なんだよ! 俺だって人並みの感覚あるぞ」
「俺を殴ったくせに」
「いつ!」
「俺が 構うな! って怒鳴った時」
「あれは……スキンシップってやつだ」
「デュークのスキンシップって、荒っぽいんだね」
「ほざいてろ!」
それでベッドの件は一件落着となった。

 

 俺はここにどんどん馴染んでくれるデュークが嬉しかった。同じ空間で呼吸が出来る。寝癖で飛び跳ねた頭が見れる。シャワーを浴びて大人しく前髪が垂れた顔を見ることが出来る。

――あ 髭を剃ったね。
――おい、濡れた足はちゃんとマットで拭けよ。
――え? もう寝たの? 

 その傍に行って、俺はその髪に触れたかった。何度も何度も、手を伸ばした。でも、勇気が無かった。もう一度…… そしてもう一度。
 その手を掴まれた。デュークは黙って俺を引き寄せた。キスを…… 俺の口の中に舌が入って来る…… それは熱くて……
 いつの間にか俺はデュークの体の下になっていた。その熱い吐息が俺の首筋を下りていく……

 デュークは突然、俺の体を突き放した。
「悪い。 ちょっと冗談が過ぎたな」
そう言うと立ち上がった。
「デューク……」
「気にすんな。寝惚けちまってたらしい。昔の女が傍に立った夢見たもんだから」
そこにあの皮肉な笑みが浮かんでた。

 そうなのかもしれない。いや、きっとそうなんだ。こんな幸せなこと、そう容易くあるもんか。
「ごめん、俺もつい傍に行っちゃって。勘違いさせちゃったんだね」
 デュークは背中を向けた。冷蔵庫に向かうとビールを出して、俺にも栓を開けたのをくれた。
 デュークの熱い舌が入った口の中は、いっぺんに冷たいビールの味になった。それはひどく苦かった。


 デュークは時折り3日とか、1週間とか、そんな感じで出かけた。どこに何をしに行ってるのか。俺も聞かなかったし、彼も言わなかった。
 何も知らなくて構わない、俺は最初にそう言ったのだから。帰って来てくれるなら、ただそれで良かった。
 時折り、車に乗る時の彼はひどく厳しい顔をしてる時があった。そして、俺は知っていた。その車にかなりの武器が積まれているのを。