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Fel & Rikcy  第2部

3.バカ 二人

 俺は今猛烈に怒っている。もうフェルをぶっ飛ばしてきた。

『夫婦喧嘩にならないように気をつける』
そう言ったフェルに俺の方から宣戦布告した。


「謝んないと帰って来ねぇからな!!」
「謝ってるじゃないか! だいたいそこまで怒るようなことか?」
「俺のプライドを著しく傷つけた!」
「傷つくなよーー、あんなことで」

「バカ!! フェルのバカ!」

「僕がバカでいいよ、だから仲直りしよう、リッキー。もうあんなこと言わないよ、悪かったよ、セックスしよう、4回していいから」

「バカッ!!」

 ってわけで、俺は今シェリーんとこ。言われる前に引き出しに行って、4枚になったタオルの2枚目を使ってる。

「あのね、リッキー。今回のこと、確かにフェルが悪いわ。悪いとは思うんだけど、そんなに泣くこと? フェルは冗談で言ったのよ。あんたが可愛くてしょうがないんだから」

「俺は」 ひくっ 「プライド」 ひくっ 「俺……」 ひくっ 「傷ついたんだ」 ひくっ

「ああ、もう……」

 シェリーが立って3枚目のタオルを持って来た。

「タオル、4枚じゃ足りないわね、この調子じゃ」
「シェ、シェリーならどうなんだよ、そんな  ひくっ こと言われたら許せんのかよ ひくっ」

「まぁ、ムカつきはするけど。でも笑えると思うけどね」
「俺は笑えねぇ!!」

 あれから少しずつ胃潰瘍が良くなって、フェルは俺が
「もういい」 

「もうヤだ」

「眠らせて」 
そう言っても俺を抱き続けた。

 フェルは化け物なんだ。気を失っても気がつくともう俺の中に入っていて、気が遠くなりそうなほど俺を快感の向こう側に追いやる。俺はフェルの上に仰向けに寝かされて、頭をフェルの肩に預けてた。

「病院に行く時、約束したろ? 『もういい って言ってもヤるからな』って」


 そう耳元で囁かれた。ぞくっとするんだ、耳にフェルの声が忍び込むと。それだけで俺の芯が熱くなる。逃げようと顔を反対に反らそうとしても、しっかりフェルの頭に抑え込まれて舌が俺の耳に入り込んで来る。両手の指が俺の胸をこねて抓んで先を撫でる……

  はぁ……逃げらんねぇ……いやだ……

 そう言いたいのに呼吸するので精一杯の俺。天井が揺らいで見える。下からは俺の孔に押しつけられるフェルのソレ。でも入っては来ない、ただそこにあるだけ。胸から手が下りて時々俺を握っていく。ほんのちょっと上下に扱いて、先だけを擦っていく……俺の手は何も出来ずに届かないシーツを探す……

  あ もう……も やめ、……ふぇる も やめて……

何回言っても動き回るフェルの手、舌、そして…… 胸を曝け出して、上を向いて、俺は喘いでるだけ……

 やっとベッドに下ろされた時には俺の孔はぐずぐずに蕩けちまって、頭の中もぐずぐずになっている……俺の膝が押される……フェルが俺の胸にキスを落としながらゆっくりと入って来る……

すごくゆっくりで……あ……もういやなの……に……いきなり突き上げら……突き上げてきた腰がそのまま……

  や! ぃや……死にそ……言えない……唇ふさがれて……

やっと息が……ああ 息を 息を吸わなくちゃ……

  ぅ、っは、っは、……も…おかしくな………
頭が真っ白で、もう眠くって、もうイヤで、もういい……やめて……

「もういい?」
俺はやっと頷いた。
「ホントにもういいの?」

言いながら口が塞がれた。ああ もういいんだ、もう……
「僕ももう無理……でもキスなら……」
ああ、お願い、勘弁して……フェルのキス、またイかされる……? 動けない俺の口の中で動き回るフェルの舌

……も むりだから、おねがい、やめて……手も動かない……お願い、ふぇる……喉の奥を擦られて、上顎を擦られて

  ……ああ、もう……

「ごめん、もうやめる。だからちゃんと息して、大丈夫だから。ごめん」


 喘ぎ過ぎた俺の胸が有り得ないほど早く上下する……頭を持ち上げて水飲ませてくれて、体を拭かれて、ブランケットで包まれた。敏感になりすぎた俺の体が、どこを触られてもひくひくする。

 ブランケットの上からフェルが抱いてくれた。

「もう何もしないから。こうやってるから寝ろよ。ごめんな、もうしない」

俺はやっと眠らせてもらえた……

 


 それが2晩続いて、三日目の朝だ、それが起きたのは。

「リッキーの頭って触り心地いいな」

 ちょっと伸び始めた俺の髪。その髪を大きな掌でさわさわと撫でるフェル。眠いしだるいし。最初は俺も気にしなかった。いつまでもさわさわしてるフェルの手。

「やめろよ、もう」
ちょっとした抵抗。

「だって手にちょうどいい刺激になるんだ」
「いやなんだ、それやられんの」
出来るなら早く伸ばしたい、元の髪みたいに。

「お前の髪が僕の上で揺れるの、大好きだ」
ちょっと嬉しくなった。俺の自慢の髪だから。

「でもさ、この触り心地もいいと思わないか?」

  ――ん?

「あのさ、なんかに似てるなぁ……あ、この前見たネット通販のやつだ。覚えてるか? これ買おうかってお前が言ってたじゃないか、『たわし』だよ。あれに似てる!」

フェルが笑い出した。
「あれ、鍋、磨くやつだ」
俺は少しムカッ腹が立ち始めてた。

「そうだったな、リッキーの頭に洗剤つけて磨いたらピカピカになるかもしれ」

俺はベッドからフェルを蹴り落とした。

「なにするんだよ!」
「なにするって!? ふざけんな! 俺の頭、なんだと思ってんだよっ!」
「冗談だよ、バカだな」

……人の頭、コケにしといて、バカ? バカって言った?


 俺は黙ってバスルームに入ってシャワー浴びた。途中でフェルが入ってこようとしたから、断固として入れなかった。黙ってバスタオルで体拭きながら下着をつけた。フェルがシャワーに飛び込んで、あっという間に出て来た時には俺はボストンバッグを開いて服を詰め始めていた。

 

「どうする気だよ?」
「出てく」
「なんで!」
「たわしって言った、俺の頭のこと。バカって言った、俺のこと」

「お前だっていつも僕のこと『バカっ』って言うじゃないか」
「そのバカとこのバカとは違う」
「どう違うんだよ、おんなじだよ」
「違う」

俺はバッグのジッパーをジーッと音を立てて閉めた。

「話し合おう、な? そんなに怒るなよ、悪かった。本当に悪かった」
「俺、気にしてんのに…… フェル、それ知ってんのに……」

 最後の方は喉の大きな塊がつかえていて声がしゃくれていた。俺はバッグをそこに落とすと、フェルの顔面を殴った。

「り……りっき……」

「謝んねぇと帰って来ねぇからな!!」

 

 

「リッキー、これ、飲みなさい」

また例によってホットミルク。

「俺、落ち着いてる」
「いいから飲みなさい。いい? 言っとくけど私、あんたたち夫婦の仲裁役としてここにいるんじゃないの。でも他の所に行っちゃダメよ。どんなにバカバカしいことでも聞いたげるからここに来なさいね」
「どうして? ……俺が心配?」

ちょっと嬉しいかも。

「バカバカしすぎて恥ずかしいから。私なら耐えて聞いてあげる。だから他の誰のとこにも行っちゃダメ。約束よ、リッキー」
「バカバカしいってなんだよ……」


 ホットミルクって本当に効果あるのかな。俺は少しずつ冷静になり始めてた。

「俺、どんな風に見える? ガキ? 甘ったれ? バカ?」
「全部よ」
「全部ーー?」
「そ、全部。リッキーってさ、反抗期とかしてきたのかな?」

「反抗期?」

「うん。いろいろあったよね、リッキーには。もしかしたらね、今安心して毎日を過ごすようになったから、普通の子が経験してくるようなことを一気に体験してるのかもしれないわね」

 そこに コンコン ってノックがあった。

「やっぱりー。リッキー、シェリーんとこにボストンバッグで家出してどうすんのさ」

「え? ボストンバッグ? そんなの持ってたっけ?」

「タイラーんとこに置いてきた。今夜泊めてもらうから」
「やめろよ、僕と一緒に帰ろ。本当に悪かった、もう言わないから」

「それに……」
「それに? 小出しにしないでちゃんと言いなさい。たわしの他に何かあるの?」

「俺……殺されるんだ」
「誰に!」
「フェルに」

シェリーがフェルの顔を見た。

「あんた、まさかリッキーに乱暴してるんじゃないでしょうね」
「まさか!」
「されてる」
「リッキー! お前が僕を殴ったし、ベッドから蹴落としただろう? 僕は何もしてないぞ」

「俺、ヤり殺される」

「は?」

シェリーとフェルがぽかんと口を開けた。そっくりだ、その顔。

「もう二晩、ヤられっぱなしなんだ、やめてくれって言ってんのに」
「リッキー!! ここは私の部屋なの! あんたたちの寝室じゃないからね!」
「だって、さっきシェリーは何でも聞いたげるって言った!」
「言ったけど! そんなこと、聞きたくない!」

「シェリーの嘘つき!」

 

 呆気に取られてたフェルが、ドアから飛び出そうとした俺の腕を掴んだ。

「ホントにいやだったの?」

こくっと頷いた。

「そんなに? お前の『もっと』と『やめて』はおんなじに聞こえるんだよ」
「俺は『やめてくれ』って言ったんだ」
「ほんとの『やめて』だったの?」

「出てって!! そんなこと、私の前で言わないで! バカ! 出てけ!!」

 シェリーがクッションを投げつけてきたから慌てて二人で外に出た。


 ドアを閉めたところを背中からフェルに抱きしめられた。

「ごめん、あんなにヤりたがってたからたくさんしてやろうって思ってたんだ」
「フェル……たくさんし過ぎだよ」

優しくキスしてきたから俺もそっと応えた。


 ドアがバン!と開いて、俺の背中に叩き付けられた。

「当分、来るんじゃない! 自分たちの部屋でやって! 弟が二人ともバカだなんて、私が一番不幸だわ!!」

 

 


「ホントにごめん。もう髪のこと、からかわないよ」
「俺、気にしてんだ。早く伸ばしたくて」
「知ってる。だからごめん。それから今夜はしないよ。少し間空けような」

もう一回キスしようとしたとこにタイラーからの着信。

「リッキー! 『たわし』と『ヤり過ぎ』が喧嘩の原因だって? 荷物、取りに来い! 俺の所にそんな話持って来るな! バカバカし過ぎる!」


 みんな冷たい。俺はこんなに一生懸命なのに。結局、フェルだけが俺の味方なんだ。

 その夜、やっぱりフェルに抱かれて、でも一回だけだったからホッとして眠った。

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