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Fel & Rikcy 第6部

10.Happy Birthday -2

「お前、今日の講義は?」
「えと、1時から4時まで入ってる」
「そうか」
「なに?」
「じゃ、旅行の準備、僕がしとくよ」

俺は一瞬何のことか分からなかった。

「旅行に行くの?」
「言っただろ、週末は」
「だって、デートだって言った!」
「なんだよ、デートが旅行じゃいやなのか?」

俺の目はこれ以上無いってくらいに開いたまんまだったらしい。

「リッキー! 大丈夫か⁉」

慌ててそばに来たフェルが俺を揺さぶった。俺はその体に飛びついた。

「デートって、旅行だったの⁉」
「そうだよ、3日間もこことデート先と行ったり来たりするつもりだったのか? 分かってるんだとばかり思ってたよ」
「俺、今日の講義すっぽかす!」
「だめ。それは許さないよ。ちゃんと講義は受けてこい。いいな?」
「だって、準備……」
「泣くなよぉ……今10時半だろ? それから講義から帰って来て1時間。それだけあればリッキーも支度できるよ。一緒にやろう。僕がやってあげとこうって思っただけなんだ」

 フェルってなんて優しいんだろう。俺は毎日どんどんフェルが好きになっていく。愛って言葉の中に、好きって言う気持ちはどれだけ入れられるんだろうって不思議になる。

 

 


 講義から帰ってきて、俺はすぐクローゼットを開けた。

「ね、どんな旅行? 服、何持ってったらいいかな」
「ほとんどカジュアルでいいよ。ただ一着はお洒落なのにしてほしいかな。そうだなぁ、色っぽい系がいい」

 パッと振り返った。だいたいフェルが求めるのは可愛い系なんだ。けど色っぽい? こんな風に突然違うことを要求されるとドキドキしちまう。

「聞いていい? どこに行くの?」
「内緒」
「聞かないと用意できねぇよ」
「じゃ、注文がある」
「注文?」
「なるべく肌出して。薬指には結婚指輪。空いてる胸にゴールドのチェーン。寒くないようにその上に去年買ってあげた毛皮のコート着てほしい」

  
 去年の毛皮のコート…… あれは、フェルが自分の欲しいもの全部止めて買ってくれたもんだ。俺がたった一言、「あのコート、素敵だ!」って言ったばっかりに。だから勿体なくて着てねぇんだ。

「そんなにお洒落すんの?」
「ああ。僕はね、『僕の奥さん、凄いだろ!』って叫びたいくらいなんだ」

肌が…… ぞくぞくする…… 下半身がコントロール出来なくなってくる。
(だめ、まだ昼だ、旅行はまだ後)

「リッキー」

いつの間にかフェルが脇に立っていた。俺の髪をかき上げて耳にかける…小さな声で囁いてくる…

「僕のスウィート。お前は魅力的過ぎる。だからあんまり綺麗なところを他のヤツに見せたくない。けど今度の旅行ではお前のいつも以上に美しい姿を見たいんだ」

そのまま俺の膝はガクガクしちまってフェルに縋りついた、もう立ってられなくて。

「おい、まだ旅行前だぞ。そういうのはお預け」
「えぇぇ?」

「お預け。我慢しとけ」

 こんなに我慢してきたのに。もうとっくに濡れてんのに。ってか、もう勃ってるの、治まんねぇよ‼ それでもフェルが知らん顔してるからしょうがなくて俺はトイレに行った。さっきのゾクゾクしたのが体をまだ這いまわってて、あの声が耳に響いてて……

 やっと落ち着いたから部屋に戻ったけど、かなり俺はご機嫌斜めになっていた。
「ハニー、6時には出たいんだ。そのつもりでね」
ちょっとブスッとして返事しなかった。いきなり後ろから抱きしめられたと思ったらくるっとフェルの胸に俺の体が回された。

「な……」

俺が声出せたのはそこまでだった。蕩けるような久しぶりのキス…… 俺の口の中で優しく舌が動いて、その内暴れはじめた。喉の近くまで撫でまわされて舌を吸われる…口の中を撫でまわして舌を絡めとって…… 息が………

 あ、ぁっぁっ‼

「イっちゃったの?」
低い声で囁く声がとどめだった。立てない、頭がもう何がなんだか……


 気がつくとソファの上に寝かされて、俺は下半身引ん剥かれてきれいにしてもらってた。ちょっと恥ずかしい……
「どうした? 照れるなよ、僕はいくら見ても見飽きないんだからね」
「やだ…… そんなこと言っちゃ……」
頬にキスをくれた。
「貞淑な奥さま。あなたの僕(しもべ)のこの僕にここを拭かせてください」

恥ずかしい! 顔が熱い、拭かれているとこが震える……

「こらぁ、後は夜だって。今はだめだよ、これ以上。でも夜は容赦しないからね」

今度は別の意味で震えた。

「俺、壊れちまう……」
「うん。壊れるくらい感じてほしい。お前のイく顔、今日はたくさん見るからね」

 

 

 

 ボルチモア・ワシントン国際空港から3時間半。直行便でサンアントニオへ。フェル曰く、『これでお金使うって勿体ないからさ。座席は我慢して』って、それでも前みたいな緊迫感無いし、楽な旅だ。

「なぁ、サンアントニオ?」
「そう。今回は楽しみに行くだけ」

 嬉しくなった! フェルの言う通りにしよう。そう思った。きっとこの旅行はただデートに行くだけなんだ。そうだ、デートだ!

 空港に降りてフェルが荷物を全部持ってくれた。
「俺、持てるよ」
「奥さまは持っちゃダメ」
くすぐったいフェルの言葉。俺は甘やかされて蕩けちまう。タクシー捕まえてカッコよく旦那さまが言う。
「ブルールーフ・イン・リヴァーウォークホテルへ」

「いつの間にホテル予約したの?」
「お前がポワンとしてる時」
「俺、ポワンなんてしねぇよ!」
「セックスの後はしてるだろ?」

 俺は思わずフェルの足を蹴飛ばしちまった。だってタクシーの運ちゃんが吹き出したから。でもすぐ後悔した。フェルの顔が一瞬歪む……

「ごめん! 痛かった? 痛いとこ蹴った? 立てそう?」
「心配するな。大丈夫だから。ごめんな、蹴飛ばされても仕方ないこと言ったよ」
「そんなこと……」
「泣くなよ、頼むから」

フェルが俺の耳に口を寄せた。
「今夜、うんと楽しもうな」
俺は危うくも一回蹴飛ばすところだった。

「すげぇ‼」

 ホテルの前に立って俺は叫んじまった。慌ててフェルが俺の口を押える。でも、ホントすごかった。こんなホテル泊まったことねぇ。
 ライトアップされてて入り口にはホテルマンが立っている。こっちを見るとすぐに来て「お客様、お荷物をお持ちします」なんて、映画ん中みたいなことを言う。
 フェルがその後に続いて、振り返った。

「リッキー、どうした?」
「俺、俺、足が竦んでる………」

フェルが迎えに来て腕を差し出された。
「奥さま、どうぞ」
 まるで結婚式ん時みたいだ。なんだか頭の中がホントに<ぽわん>としそうだ。フロントでキーを受け取ってサインしてる後姿がカッコいい…… 俺はつい口の横を手の甲で拭った。涎が垂れてるような気がしたんだ。
(今夜、あの背中に俺は触るんだ……)
 初めて抱かれるような気がして、考えただけでもじもじしちまう。

 

 ホテルマンがスーツケースを持って歩く後ろを、俺たちはついていった。
「こちらでございます、ハワードさま」
中に荷物を運んでくれたホテルマンにフェルが笑いかける。
「ありがとう」
ちゃんとチップを渡すフェル。すると、「ご用がありましたら何なりとお申し付けください」って彼が言う。

(ああ…… 俺は今、きっと映画の中にいるんだ。そんな夢を見てるんだ……)

 閉まったドアの前に突っ立ってる俺をフェルがいきなり抱きかかえた。
「フェル! 足、痛いのに!」
「お前抱えるのくらい、どうってことないよ」

部屋の真ん中まで来て、フェルが口づけてくるから俺はそっと口を開いた。両手をフェルの首に回す。しっとりと唇を舐められて、今度は入って来た舌が俺を翻弄する…… 喘ぐ俺をそれでもフェルは離さない。
「……ふぇ…いき……」
口の中を貪るフェルにとうとう言った。

「…por faver…」

 口を離されてドキドキする鼓動を落ち着かせようとするのに、今度はフェルの舌が俺の首筋を舐め下ろしていく……

「っはっ…… ぁぁ…… や…」

フェルが歩くのを感じる、けど俺への愛撫がやまない。感じて、感じて、ポワポワして……
 ベッドに下ろされて耳元で囁かれた。
「濡れてる?」
俺は何度も頷いた。
「さわって、ふぇる、さわって……」

 なのに俺はとんでもないセリフを聞かされた。
「後でね。さ、食事に行こうか!」

  はぁぁぁ?????

 呆気に取られた俺に背を向けて着替え出すフェル。あっという間にスーツ姿になって「どうしたの?」なんて聞くから俺は殴り倒してやろうと起き上がった。

「なに?」
「お前さ! 男が発射寸前に止められると思ってんのか!?」
「おい、下品なこと言うなよ。仮にも俺の奥さまだぞ」
「仮ってなんだ⁉ 仮って! それに俺は奥さんだけど男なんだからな! 出そうになってんのに食事だ⁉」

 不思議そうにしてたフェルがにこっと笑ってそばに来た。俺はこれ幸いとグッと握りこぶしを作った。不意打ちならきっとフェルに負けねぇ。なのに予測してるみたいに腕を掴まれてまたキスをもらっちまった。呆気ない俺……
「むふっ……んん、っ」
すぐ陥落しちまって「行こうか?」って言われて頷いちまった。勃ちかけてる俺のを触ってにこっと笑った。
「ここが濡れてんならシャワー浴びといで。服、出しとくから」

 俺はフェルの言う、『貞淑な妻』ってヤツになった。大人しくバスルームに行ったんだ。

 出てくるとベッドの上に俺の着るもんが並べてあった。鏡の中の俺。コバルト・バイオレットのスーツにアザリアっていうピンク系のバイオレットのスタンドカラー。それにゴールドのチェーンが揺れている。左の手首をフェルにもらった香水で湿らせたティッシュでそっと撫でる。

 フェルの着てんのは、ドーン・ミストっていうグレー系のスーツにエアウェイ・ブルーのワイシャツ。タイはスーツとおんなじドーン・ミストにオメガ・ブルーのストライプが入ってる。

 もう俺の髪はたっぷり長くなっていて、肩にほんのちょっとつく。フェルのお好みの右側だけ耳にかけるスタイルで、右耳にチェーンに合わせて小っちゃな丸いゴールドのピアスをしてある。
 右側のピアスって、守られる女性って意味だ。俺は自分にフェルを守る確固たる意志を持ってるけど、可愛い妻になるためには右がいいなって思ったんだ。

 フェルの差し出す腕に手を添えて、ホテルのレストランに向かった。

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