
宗田花 小説の世界
Fel & Rikcy 第3部[9日間のニトロ] 6- F
4日目
「どこから話していいか……」
「1から聞かせてくれ」
「じゃ……妹のことから」
それでもブライアンは喋り出すのにちょっと迷っていた。でも僕がブライアンの顔から全く目を離さずにいたからとうとう諦めたような顔で口を開いた。
2か月くらい前、たまたまこの部屋で仲間同士飲んでいるところにケイトが来た。その後から来たのがナットの弟のバズ。ケイトは他の連中よりバズと話が盛り上がっていた。
内気で臆病なケイトが嬉しそうに喋っているのを見て、ブライアンは喜んだ。バズは見てくれはかなり良かったし、ナットと違って下品な言葉を使わなかった。ケイトを大事にしているように見えた。だからきっと兄貴とは違ってちゃんとした男なんだろうと。
マークがそれとなく注意してくれたのもあまり気にしなかった。その後二人は付き合うようになっていった。
ある時ナットから持ちかけられた『うまい話』。その中身は『ゲイ夫婦』から金をせしめること。違う下請業者の二人組に、リッキーが一人になった時を連絡してくれと頼まれたと言う。リッキーをその二人がどうするのかは分からないけど、それで僕がいくらでも金を出すようになるとナットは言われたらしい。
断ると、ケイトがどうなってもいいのかとナットに脅された。
『バズは覚醒剤をやっている危ないヤツだ。でもお前が言うことを聞いて手伝うなら、弟とは縁を切らせてやる。聞かなきゃお前も一緒にヤクをやってると噂を広めてやる。妹のことも保証しない』
ブライアンは仕事を辞めるわけにはいかなかった。ゲイリーから正社員にならないかと話が来ていたからヤクの話なんかとんでもない。ましてケイトのことがかかっている。選択の余地は無かった。自分もあまりゲイが好きじゃない。大したことを頼まれたわけじゃないんだしと自分に言い聞かせて引き受けた。妹がこれでバズと手が切れるならと。
リッキーの様子を掴むためにナットとケンカしたことにして、マークたちから離れて僕たちのグループに近づいた。
そしてあの日の午後。たまたまリッキーが一人になった。ブライアンは僕が3階にいることを確認してナットに連絡を入れた。
「あんなことになるとは思わなかった。リッキーが刺されるなんて思いもしなかったんだ。お前たちと一緒にいるようになって俺は自分の考えてたことが間違ってたと思ったよ。お前もリッキーもいいやつだった。けど、その時には俺にはどうすることも出来なかった」
「ナットにその話を持ち掛けた連中のことを教えてくれ」
「その二人組のことは何も知らない。そこまで関わりたくなかったから。リッキーが刺された後にナットからメモを手渡されたんだ。万が一警察沙汰になった場合を考えてそのメモを取ってある。見てくれれば分かるよ、俺がそこまで関わってないってこと。信じてくれ、リッキーがこんなことになると分かっていたら……」
「でも、こうなった。そういう意味ではお前も同罪だ。リッキーが死んでいたら法的には殺人幇助なんだろう。でもそうなっていたら警察なんかにお前を任せないがな」
「フェル……」
青ざめたブライアンに畳み掛ける。
「頼みがある」
「出来ることなら何でもやるよ」
「出来なくてもやってもらう。断れないだろう? とは言っても、今は大したことは頼まない。ナットの家を教えてくれ。後はメモを僕に渡してしばらくは全部忘れるんだ。メモなんか持ってたらこの一件がバレて家宅捜査でもされる羽目になった時に首が締まるぞ。そしたら正社員の道はパーだ。アイツらにももう近づくな。マークはいいヤツだ。ナットと手を切りたいって、正直に相談してみろよ」
「でも妹はどうなるんだ!?」
「後は任せていい。何か頼むことがあれば連絡する。忘れるな。僕は許しちゃいない。お前が知らせなきゃリッキーはあんな目に遭わなかった。お前が事件のキッカケを作ったんだ」
メモを回収した。事件の真相に繋がるものは全部消してやる。リッキーに辛い顔をさせるものなんか全部始末してやる。
教えられたナットの家に行ってみたけど部屋は暗くて誰もいないことが分かった。懐中電灯を持ってないのが悔やまれた。
もう夜も遅い。リッキーが眠れずにいるかもしれない。僕はいったん病院に戻ることにした。きっと心配してる。安心させてやらなくちゃ。
.