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Fel & Rikcy 第6部

2.投票

 杖に慣れてフェルの足取りが早くなった。痛いって顔するのもだいぶ減ったし、俺も不安が減って来た。あれからしょっちゅう……その…抱いてくれるし。いきなり押し倒されたりして、俺はいつ来るかいつ来るかってドキドキする毎日だ。

 帰って来てから12日。セックスしてもらうと安心しちまう俺。変な夢も見なくなった。
「僕の薬はお前だけど、お前の薬はセックスなんだよなぁ……ちょっと複雑」
そう言いながらフェルの手は動きっ放しで俺は返事も出来なくて。
(違う……お前、だからなんだ……)
そう言いたくて……告げたく、て……でも俺は真っ白になって飛んでっちまうんだ……

 

 

 みんなに全部話した次の日に、差し入れ持ったシェリーが来た。
「これ……預かってたから」
そういうシェリーの手にはブレスレットが光ってる。俺たちも渡されたブレスレットをすぐにつけた。これ、女性でも男でも違和感無い細身だ。
「渡せて嬉しいの。返すことが出来た。嬉しい……」
シェリーがまた泣くから抱きしめた。
「もう黙っていなくなったりしねぇよ。大事な姉ちゃんだから。遠出する時はちゃんと言う」

 俺の胸で何度も頷いてくれたシェリーは、今じゃエディのもんだ。まだ二人の話聞いてないけど、その内追及するつもりでいる。

 

 

 外に出ることにフェルも抵抗なくなってきて、一緒にカフェに行ったりちょっとした買い物したり。
「さすがに来週から講義に出よう。マズいよ、このままじゃ」
「うん、この秋学期は本腰入れる」
「お前に負けないようにしないと」
「そりゃ無ぇよ、お前、頭いいし」
「リッキーの底力、僕は舐めちゃいないんだ」
褒められて嬉しかった! なら、余計頑張んなくっちゃ!
「じゃ、俺お前を抜かす」
「いや、そこは僕のプライドが」
「そのプライド、へし折ってやる」
「じゃ、やってみろよ。今期は競争だな」
こんな競争は楽しい。刺激的だ! 俺は早速勉強に力を入れた。

 

 

 フェルの日焼けはなかなか取れない、俺はあっという間に消えたのに。地肌が少し黒いから青っちろくは見えないけど。でもフェルはすごく精悍に見えるから密かに(かっこいい!)って思ってた。日焼けしたフェルの青い瞳、笑顔、笑い声……もう何て言っていいか分かんねぇほど素敵だ…… これ、全部俺のもんなんだ!!

 そしたら気づいたことがあった。女子がみんな振り返ってる、フェルのこと。

『結婚してんだぞ! 俺のもんだ、見るな!』

大声で叫びたくなるほどみんなが見る。逞しいフェルの杖姿……そのギャップが堪まんねぇほどセクシーなんだって聞いた。俺でさえ今までよりも目が離れねぇ…… でも変な虫がついちゃ堪んねぇ。

 

 それが本格的にヤバいと思ったのは次の日だった。
「気をつけた方がいいよ、リッキー」
ロジャーの情報だ。
「男子人気投票でフェルがトップランクに入ってるよ」
「そんなこと有り得ねぇよ、フェルは結婚してんだ、俺と」
「違うんだ、今回の投票は既婚者も対象に入ってるんだよ。女の子たちが争って投票してるんだけど、フェルの票の追い上げがすごいんだ」
「なんで!」
「フェル、落ち着いたからなぁ、特に今回の……旅行以来。なんか凄みが増したよ」

 

 それは俺も直に感じてた。すごく包容力があって優しくって、そして男らしいんだ。そりゃ前だってそうだったけど帰って来てからそれが半端無くなった。オマケに色気が出てきた、本人に自覚は無ぇみたいだけど。見つめられたらそれだけでイっちまうんじゃねぇかってほど。

 

「棄権するとかねぇのか?」
「無理だよ、盛り上がり過ぎてる。フェル自身はきっとそんなこと知らないだろうね、前からそういうのには淡白だから。でもあの杖でみんな母性本能もくすぐられたらしいし」
「……おい! 優勝者はなんかするのか? させられんのか?」
「…………」
「言えよ! 何があるんだよ!」
「怒るよ、リッキーは」
「言えって!」
「その……トップになった男に投票した女の子の中で抽選があって。その勝者と……デートしなきゃならないんだ、2日間。僕をそんな目で見るなよ! だから女の子たちはえらい騒ぎになってる」
「投票締め切りはいつだよ!」
「明後日夕方の4時なんだ」
「俺も投票する! それで抽選に勝つ!」
「参加条件、女だよ、リッキー」

 そんな勝手なことあるか!? だって本人も知らねぇとこで投票されて、その気もねぇのにデート? そんなんでデートして楽しいのか? 明後日の夕方……どうしたらいいんだろう……

「フェル……たまには女の子とデートしたいとか思ったことある?」
「女の子とデート? しょっちゅうしてるよ」
「え!?」
「お前。奥さまだからな、僕には可愛い女の子だよ」
思わず飛びついて、しまった! と思った。ヤバい、ベッドコースだ!

「ま、待って! 今は話したいんだ」
「ベッドの上でも話せるよ」
「やめろって、その手、引っ込めろ」
「なんでさ、そばにいるのに触らないってお前への冒涜だ」
「今日は冒涜許すから。フェル、元はノーマルだろ? その……きれいな女の子が迫って来たら? すごくいい子だったら?」
「お前以上に? そんな子、いない」
「いや、だから、例えばって話。俺がもしいなかったら……」
「リッキー。僕に女の子とつき合えって言ってるのか?」
「違う! 怒んないで、そんな意味じゃなかったんだ……」
「ならいい。もうそんな話はしたくない。おいで」
「買い物が先だよ! 夕飯、どうすんだよ!」
「まずお前を食べてから」

 結局俺は食われちまった。しょうがねぇから冷蔵庫を引っ掻き回してある物で夕飯を作った。
「美味しい! お前を食べて美味い食事して、今日はお腹いっぱいだ」

 

 こんなに愛されてるなら投票気にしなくってもいいかな…… そうだ、トップになるとは限らねぇんだし。次点とか。

「あんたのフェルに投票しといたわよ」
シェリーが小さな声で言った。
「なんで!」
「今のフェルの順位、知ってる? 3位よ。しかも2位と大差無くてフェルが追い上げてる。抽選だからどうなるか分かんないけど、もし私が当たればラッキーでしょ? 隣のアマンダにも頼んでおいたから」
そうか、そういう手があったのか!
「でも覚悟はしておきなさい。当たる確率低いんだからね」
「ソロリティとか、シェリーの親衛隊は?」
「私、やめたし。それにあの子たちにもフェルは人気あるの」

絶望的かもしんねぇ……


 俺はとうとうフェルに話した。明日の4時で投票は終わる。

「フェル、実はさ……」
「なに?」
「女子の間で人気投票やってんだよ、明日締め切りで」
「ふーん」
「で、お前、今2位とほとんど並んでるんだ」
「は? 僕は結婚してるぞ?」
「この投票にはそれ、関係ないんだってさ」
「で、今2位か3位なの?」
「うん……」
 「優勝しちゃったらどうなる訳?」
「女子の抽選で勝ったヤツと2日間デート」
「へぇ! あ、それで変なこと聞いたんだな? 」
「あれは……ごめん。俺、ちょっと不安になって」
「いいけどさ。リッキーは僕が1位になる心配してるのか?」
「だってどうすんだよ、デート!」
「本気で僕が1番になると思ってるの? それって身贔屓ってヤツだよ」
「でも!!」
「あり得ないって。競ってるのは2位とだろ? いいとこ、そこ止まりだよ。でも驚きだ。僕ってそんなに人気あるんだ」

嬉しそうな顔するから睨んだ。けど俺の目からは涙が零れてた。

「ごめん!  単純にびっくりしただけだよ。僕はそういうの無縁だったから」
「フェル、1年の時もトップランクに入ってたって聞いた」
「ウソだろ?」

 

マジ、淡白通り越してホントに無関心なんだ。ちょっとホッとするけど。

「嬉しい?」
「そりゃ嬉しいよ。でもそれとデートは別問題だ。その気もないのにデート? 無茶振りだよ、それって。 とにかく、心配要らない。お前は自分の夫が人気あるって喜んでりゃいいんだ。どうせお前以外はカボチャと一緒だ」

 あんまり安心出来ないけど笑っちまった。もしフェルが1位になってもきっと断ってくれる。

 その後、リハビリやって体洗ってやって、傷を確かめた。すごく良くなってきたから嬉しかった。

「もう杖やめようか」
「だめだ。まだ少し足引きずってる。それが良くなってからだ」
「もう大丈夫だと思うけどね」
「だめ。奥さんの言うこと聞けって」
「了解。まだ亭主関白は禁止?」
「禁止」
「はいはい」

 時々思う。亭主関白になってもいいか? って俺に聞くのは、ホントに亭主関白なんだろうか? って。

 今日はいよいよ投票締め切りだ。ロジャーから電話が入った。

『リッキー、えらいことになった!』
「なに?」
『フェル、朝3位を追い抜いたんだよ。今、1位との差は27票だ!!』
「ウソっ!!」
『ホントだって、朝3位を追い抜いた時はは41票差だったんだよ。それが27!』
「どうしたらいい!? 」
『出来ることなんか無いよ……4時の締め切りまで2時間ある。この勢いだと1位の可能性高い』
「フェルを……隠したら?」
『意味、無いって。講義はあるんだし』
「……分かった。ありがとう」
『今回ばかりは誰も役に立てない。ごめん……』

シェリーからも心配の電話があった。
『とにかく、フェルはあんた以外興味ないんだから。もしデートになったって単なるイベントよ。本気にするんじゃないわよ』
「うん……」

 

 フェルが帰ってきたからそのことを話そうと思ったらすごく機嫌が悪い。
「どうしたの?」
「主催者に抗議してきたんだ。デートなんか御免だ、投票から抜けたいって。寄ると触るとその話ばかりされるのはうんざりだ。でも単なるお祭りだって取り合ってくれない。もう1位と9票差になってる」
俺の心臓がバクバクしてきた。
「フェル、本気にならないよな? 相手がいい女でも」
「当たり前のこと、聞くな!」

 今度は3時過ぎにレイからも電話があった。こいつでもそんなの気にするんだ、と思って驚いたけど。
『大丈夫か? 気になってさ、今の順位聞いたら1位との差、6票だってさ』
ロジャーから電話会った時は27票だった……
「なんで? なんでフェルなんだよ……」
『こんな機会でもなきゃフェルとデートなんて出来ないだろ? だからじゃないか』
「そんな……」
俺が泣き声になっていったからレイが慌てた。
『頼む! 泣くな!』
「だ、だって……」
『ああ、もう! 今、フェルいないのか?』
「いない。隣のニールんとこに行ってる」
『分かった、俺より適任者に電話させる。じゃな』

 こういうことが苦手なレイはこんな俺を放り出して電話を切っちまった。


 2分もしない内に携帯が鳴った。タイラーだ!

「タイラー!? 俺、どうしていいか……」
『落ち着けって。いいか、これってお遊びだ。それだけのことなんだ』
「でも2日だ、2日間も誰だか分かんねぇヤツとデートなんだ……」
『フェルはそんなことで揺らぐようなヤツじゃないだろ? お前一筋じゃないか、どんな時だって』
「うん……」
『それともお前、フェルの気持ちを疑ってるのか?』
「そんなこた、無ぇよ!!」
『じゃ、今回のことは多めに見てやれ。フェルが望んでそうなるわけじゃないんだ。お前の心の広さを見せてやれ!』

タイラーの言うことは分かる。けど……

 いても立ってもいらんねぇ、もう3時45分だ。今の様子を誰も教えてくんねぇけど、じゃ、知りたいのか? って言われたら怖くって聞くなんて出来ねぇ。

 フェルはもう帰って来てて、テレビをつけてソファで俺の膝枕で寝てる。その巻き毛に指を絡ませる。少し汗をかいてて、俺はそっと額を拭いてやった。

 寮に帰って来てから俺はフェルとこうやってる時にはタオルを手放さない。ほんの時々だけど、うなされたり汗かいたり。苦しそうな顔をする。
(フェル、もう大丈夫だよな?)
起きてる時に絶対俺に見せない顔。辛そうな顔。
(早く足治そうな。そしたらバスケとか泳いだり走ったり。フェルの好きなこと、しような)
きっとそういうことが出来ないのも良くないんだと思う。


 そんなこと考えてたらいきなり携帯が鳴って飛び上りそうになった。時計を見たら4時7分だ。俺の反応でフェルも目を覚ました。
「シェリー……?」
俺は小さな声で聞いた、おっきい声じゃ悪いことが起きそうな気がしてた。

『無事よ! あのね、1位とは4票差! 一旦抜いちゃったんだけどね、相手の熱烈なファンたちが動いたらしいわ』

良かった!! ホントに良かった……

「どうした? 誰からの電話?」
「シ、シェリー……」
フェルが俺から携帯を取った。
「僕! なんでリッキー泣いてるんだ?」
フェルが短くシェリーに相槌打ってる。
「分かった。知らせてくれてありがとう。これでやっと平和に過ごせるよ」

携帯をソファに放るとフェルが抱きしめてくれた。
「奥さま、安心した?」
しがみついて何度も頷いた。

 また携帯が鳴って安心した俺は落ち着いて携帯を取った。
「うん、俺……うん、聞いた……え? でも!」
「今度は誰?」
「ロジャー」
「貸して」
携帯をフェルが取った。
「なに? フェルだけど。……へぇ、だから? ……行かないよ、そんなもん。今からデートなんだ、じゃ」

「フェル、デートって? あの……誰と?」
「お前と。他に誰がいるっていうんだ?」
「俺とデート!?」
「ああ、僕が負けたお祝い」
「でも授賞式は?」
「そんなもんの2位の授賞式出てどうすんのさ! それよりお前と一緒にいたい。ここにいると変なヤツが押しかけて来るかもしれないし。さっさと出かけよう」
「うん!」

 

 あちこちドライブして食事して、すっかり暗くなってから寮に戻った。

「リッキー、おいで」

 呼ばれてベッドに寝せられて苦しいほどの愛撫を受けた…… 何度も何度も終わりにしてくれと頼んで頼んで…頭ん中がどろどろになり始めた頃にやっと中に入ってくれた……後はもう覚えちゃいねぇ……

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