宗田花 小説の世界
Fel & Rikcy 第6部
6.結婚2周年記念日
10月14日。俺たちの結婚記念日。フェルが俺を変えてくれて、俺がフェルに嫁いだ日。あの日は俺は震えながらただ逞しい腕に縋っていた。
――どうか どうか 俺を捨てないで――
俺は守られるばっかりで、幸せをもらうばっかりだった。けど今は俺は守られて守るし、幸せは互いに分け合うもんだって教えられてる。だから今幸せな俺がここにいるのはフェルのお蔭なんだ。
去年の結婚記念日は、初めてだったのに最悪だった。フェルは……完全に忘れてた。俺は一番いい服を着て、最高のディナーを作って待ってたのに。待っていた俺にかかってきたのは一方的な言葉だった。
『リッキー? ごめん、ちょっと遅くなる。参ったよ、ジョディが頭が痛いって帰っちゃってさ。代わりにシフト入るヤツが新人以外誰もいないんだって。ま、その分金稼げるからいいんだけどさ。先に食べてベッドに入ってて。なるべく早く帰るから』
俺の返事は要らなかったみたいだ。
むかっ腹立った俺はみんなに電話した。
「美味い料理作ったから食いに来いよ」
少ししてみんな来たから俺はシャンパンとワインを開けた。
「あの、リッキー? フェルはどこ?」
「フェル? さぁ」
もう1本開けたワインをボトルごと掴んで俺は煽った。
「そんな飲み方しちゃいけないわ、フェルを待ちましょ。せっかくの結婚記念日じゃないの」
恐る恐る喋るシェリーと、黙ってるみんな。けど俺はにこりとも出来ねぇで、つっけんどんに料理を顎で指した。フェルが食わねぇ料理なんて俺にはどうだっていい。
「食えよ、冷えちまう。みんな俺たちの結婚記念日覚えてたんだな」
「当たり前だろ、あんなに感動した結婚式は無かったんだから」
「ふ~~ん。あ、そう」
すきっ腹にガブガブ飲んでたから俺は結構早く酔っ払っちまった。
「気にすんなよ、フェルからさっき電話あってさ、早退したヤツのピンチヒッターやってんだって。先に食って寝てろって言われたからさ、こんだけの料理捨てんのも勿体ないし。食っちまってくれよ」
そのまま俺は潰れたらしい。気がついたらソファに横になって、フェルの裁判が始まっていた。
「で、被告人、フェリックス・ハワード。君の今回のミスは万死に値するね」
「エディ、せめて誰か弁護人つけてくれよ。なんでみんな検察側なんだよ」
「当たり前でしょ。問答無用であんたが悪い」
「最っ低だよな! これ、ネットワークで『今週のワーストニュース』に流すから!」
「フェル、お前はリッキーを幸せにするって誓ったはずだよな。見ろよ、リッキーのおめかしした姿。こんなに手の込んだ料理も作ってお前をずっと待ってたんだ」
「タイラー……僕がわざとこんなことすると思ってるか?」
「わざと? お前、それって完璧に忘れてたってことじゃないか!」
「頼むよ、ロイ、キレるなよ」
「ちょっと……」
俺は震えてた、涙が止まんなくて。
「起きたの? 大丈夫? 何も食べないでワインがぶ飲みするなんて無茶よ」
タイラーは水をくれた。レイは濡れタオルを持ってきてくれた。ロジャーは気持ちわかるって連発して、ロイは離婚するなら今だぞなんて言ってる。エディはただ沈黙を通していた。
「リッキー。フェルを裁いていいのは君だけだ。判決は君が下すべきだよ。その前にフェルの言い分だけ聞こう」
みんなが黙って、フェルは俺の前に膝まづいた。
「済まなかった、リッキー。言い訳出来ないし、しない。僕はまた大失敗をやらかしちゃったんだ。あの誕生日の時と同じだ。お前の言うこと、なんでも聞くよ」
俺は座ってフェルの首っ玉にかじりついた。
「来年……来年は忘れないでくれよ……俺、今日みたいなのもうイヤだ、来年は忘れない?」
「忘れない。二度と、一生忘れない。僕はさ、何か祝ってもらったことなんて無いからさ、そういうの忘れちゃうんだよ。本当にごめん、リッキー」
しがみついて泣いてる俺にみんなが背中を触って帰ってくれた。シェリーは ごめん ってフェルに言った。
「僕が悪いんだ、シェリーは謝んないで」
それでもシェリーは泣きながら帰って行った。結局フェルはクリスマスでさえ気づかなかったんだけど。
ホントにフェルの中に『記念日』ってのは無いんだ。だから俺は気にすんのを止めた。諦めって言うのとは違う。だってフェルが俺を愛してるってのは間違いねぇんだから。
フェルは今日は講義が終わんの、遅いんだ。俺はフェルが忘れてることを想定して、それなりのご馳走を作った。フェルの好きなもんのオンパレードだ。
フェルが何度も作ってくれって言ってたトマトのデザートも4つ作った。1つが俺の。3つがフェルのだ。トマトとチキンの例のシチュー。羊肉のバジル焼き。サラダは何が何でもこれを全部食べさせるって決めてるたっぷりのハーブサラダ。
服はワイン色のあのブラウスとパンツだ。髪は何回もブラッシングして、いつもよりさらさらにしてある。イヤだって言ったって、今夜は抱いてもらうんだ。
ノックがあった。
(誰だろう、今日は客は困る)
そう思いながら俺はドアを開けた。
「奥さま。マイエンジェル。これをどうぞ」
フェルだった! 両手でやっと持てるほどの真っ赤なバラ……
「フェル……忘れ……なかったの?」
「約束したからね。忘れなかったよ、頑張って」
思うことはおんなじだった。フェルのカッコはあの青いスーツだった…
「フェル、服……」
「隣のニールの所に預けてたんだ。まだ運転出来ないしね。講義から花屋によって真っ直ぐ帰ってきた。だからごめん、記念のプレゼント何も用意出来てないんだ」
俺はもらったバラをテーブルに置いてフェルに跳び付いた。たくさんのキスをして、たくさんのキスをもらう。
(今日はキスに溺れてもいい……)
でもフェルはすぐに離れた。
「せっかくご馳走作ってくれてたんだろ? 冷めないうちに食べよう! リッキーの手料理はどんな料理よりも僕には贅沢だよ」
嬉しくて……俺はフェルの妻なんだって、そう思って嬉しくて。
「え!? これ、全部食べていいの?」
トマトのシャーベットを見て、目ん玉が丸くなってる。
「ああ、それ、全部お前んだ。これなら足りるか?」
「ううん。お前の手作りだからいくらあっても足りないよ。けどありがとう! これだけあったら今日の僕は満足するよ」
フェルに酒を飲ませたくなかったから、シャンパンもワインも用意しなかった。けど、俺たちは充分雰囲気に酔っていた。
「っあ……ふぇ、かたづ、け……」
「いい、後で僕がやっておくから」
息が出来ないほどキスが降る……キスに溺れる、頭ん中から意識が飛び始める…… いつの間にか抱かれていて寝室に運ばれて……そっとボタンを外される、一つのボタンに一つのキスで。
途中まで外したら出てきた俺のぷっくりとした胸を吸う。感じちまう、それだけで。袖を脱がされて少しずつ俺が生まれた姿になっていく……
口づけたまま、今度は俺がフェルを剥いて行った。足がまだ痛むからフェルは自分が上にはならない。だから俺は裸にしたフェルの上に乗った。
髪の中にフェルの手が潜ってくる……さらりと流れる俺の髪を楽しむ。
「あああ ふぇる、きょうはたくさん さわって、おれを……さわって」
熱を含んだような俺のため息にフェルはあっちもこっちも舐めていく。俺は何度もイきそうになっては呼び戻されて、それでもフェルはイかせてくれなくって……
「も、だめ、イ……く……」
「いいよ、イっても」
自分で腰を揺らす、右に左に、前に後ろに。その踊る髪をフェルの手が楽しんでる…… だんだん俺はわけが分かんなくなってきて、フェルが吐き出すのも待てなくてイっちまった……
「今度は僕」
息が荒いままに起き上がったフェルが俺を後ろ向きに抱く。その足に座ったまま、胸を弄られて俺はまたむくむくと大きくなり始めた。
「スケベなのは僕だけじゃないね」
耳に忍び込む言葉……そうだ、俺もきっとスケベだ…… 向う向きで座らされてそのまま入ってきた。さっきと逆向き……これは初めてだ…! フェルの顔が見えない、俺は見えない相手にヤられてるみたいですごく抵抗がある。
「ふぇ……そこ、いるよね……?」
「いるよ。どんな時だって離れないって約束したろ?」
自然に腰が動いて動いて、酷く興奮してきた、背中を撫でる手に。声が漏れたまま天井を向く、唾液が流れ落ちる……フェルの指が胸をつまんでは撫でる……
「感じ……過ぎて……ああ 溶けそうだ、ふぇる……」
「ぼくも……だ、リッキー、お前のせなか……きれいだ、揺れてる髪がきれいだ……」
フェルのコンドームが弾けそうになるほど膨らんでいく、俺の中で……
あっあっあっ!! ぃい、いい……イ、く……
倒れる寸前に俺から出たフェルが受け止めてくれた。荒い息が収まんなくて…… 体の上にいる俺を転がして、フェルが長い優しいキスをくれる。
感じ過ぎて、キスなんだか掴まれてんだか撫でられてんだか、分かんない…… きっと全部されてんだ、俺はまたイかされた………
目が覚めたのは日も高くなった後だった。体はきれいにされていた。フェルがいない。テーブルにメモがあった。
『ゆっくり公園に行って、少し走ってみる。心配しないで』
そう。俺は何も心配してなかった。何も………
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