宗田花 小説の世界
Fel & Rikcy 第3部[9日間のニトロ] 5- B
4日目
バカをしたと思う。ことこういう事に関しちゃフェルを信じちゃいけなかった。何もなくて俺をこんなところに連れて来るわけ無いんだ、酒飲めねぇの知ってんだし。どうせくっついて来るだろうから行った先で巻けばいい。そう思ったに違いない。さんざん裏口の男にホントのことを言えって食ってかかったけど、のらりくらり躱されるばっかでどうにもなんなかった。
結局迷ってシェリーに電話した。
『しょうがないわ、帰ってらっしゃい。初めっからあんたを巻くつもりだったんだから後悔するんじゃないわよ。それより『アクア』って言葉のことが分かったからこっちに戻んなさい』
駐車場にはフェルが借りたレンタカーが置いたまんまだった。けど俺は鍵持っちゃいないし…… 固いものに指が当たった。フェルは知ってる、俺がすぐポケットに手を突っ込む癖を。
「やられた」
そう呟いたけど手のひらに乗っけた鍵を見ながらつい笑っちまった。やっぱり兄貴はすげぇや。物事を読んで先へ先へと手を打って行く。[伝説のフェル]復活だ、敵にしたくない相手ってことだ。
「agua つまり、アクアっていうのがスペイン語で水って言う意味だって知ってるわよね。でもリッキーが言ったのは別の意味。『!Aguas!』これね、多分」
「どういう意味?」
「『気をつけろ』。これ、スラングよ。だから分かんなかったの。それも普通のスペイン圏じゃない、メキシコ辺りね」
メキシコ 俺にはヤバいイメージしかない。
「でもさ、シェリー、小さい国だって言ってたじゃないか」
「フェルもそう言ってたわ。だから同じ言葉を使う所を探すしかない」
「それ探すのって、どんな意味がある?」
「拉致されたけどフェルは戻って来たでしょ? 新品のスーツ着せられてたし、待遇も良かったらしいわ。だから悪い関係じゃないと思うのよね。その大使館にあの二人の理解者がいると思っていいんじゃないかしら。私、その人を探したいのよ」
ため息が出た。
「なに?」
「フェルもシェリーもさ……アルもか、頭回るっていうか先読み上手いっていうか、俺とてもじゃないけど太刀打ち出来ねぇよ」
「あんたが言うと嫌味だわ。一発でMIT受かったくせに」
「そういうのとは違うんだよ」
「分かってりゃいいのよ」
参るよ、まったく。
「で、どうすんだよ。俺たいがいフェルに見透かされてるから役に立ってないよな」
「あんたに調べて欲しい人がいるの。エディがね、フェルに現場の仲間のブライアンって人を調べてくれって頼まれたらしいのよ。どうやら彼の妹がこの件に絡んでるみたい。そっち引き受けてくんない?」
探偵みたいだ。こういうのあんまりやったことないけど、何もしないよりずっといい。俺はきっちりやるとシェリーに請け合った。
二人の兄貴の友だちだっていうエディは、すごくいい人で頭の回転が速い人だった。
「ブライアンだね。彼に関する分かっていることをプリントアウトしといたから。時間から見て今は家にいるはずだ。住所もそこに書いてある。念のためにその辺の地図も出しといたよ」
フェルの周りにはこういう人ばっかなんだな。ブライアンの住所と地図を見てを思わず チクショー! って毒づいた。フェルに巻かれたパブから近い。やっぱりこの線を追うのは当たりだ。すぐに車を走らせた。上手く行けばフェルにぶち当たる。俺はそのアパートに向かった。
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